101. 《続》ユリアン戦③
俺はユリアンとイフリートの戦いを外から見ていることしかできなかった。
致命傷を受け、なおかつイフリートを出現させるのに大半の魔力を使ってしまったため、戦いに参加する力がほとんど残っていない。
戦いの余波を受けないように立ち回っていた。
それにしても……と考える。
イフリートは自分が出現させたとは思えないほどの強力な精霊だった。
今までイフリートを出現させようと思ったことは何度もある。
だが、何回やってもイフリートを出現させることはできなかった。
その理由はいくつか考えられる。
その中で最も大きな要因が『イフリートの意思』であると考えていた。
精霊を作り出すには魔法に意思を持たせる必要がある。
その意思とは使用者の人格の一部でもある。
しかし、イフリートとは怒りの化身。
俺が思い描くイフリート像と俺自身の人格が全く一致していない。
そのせいでイフリートに意思を持たせることができなかった。
そんなとき、過去の俺と出会った。
イフリートという器に過去の自分を入れ、イフリートを顕現させる。
この結果は、俺の予想を遥かに超える精霊が誕生した。
イフリートとユリアンによる激しい戦い。
それを見ながら、必死に意識を繋ぎ止める。
彼らがこの場で戦いを繰り広げていると同時に、俺も自分自身と戦っていた。
体中に走る痛み。
すぐにでも意識を手放したくなる。
だが、それを我慢しつつ常にユリアンに意識を向けていた。
「ああぁぁぁぁぁ――――!」
イフリートがユリアンに向かって拳を振ったのが見えた。
その瞬間、ユリアンの意識が完全にイフリートの方に向くのを感じた。
イフリートとの激闘を繰り広げるユリアンだが、同時に俺への警戒を怠らずにいたことを知っている。
ユリアンはちらちらとこちらを確認していたからだ。
「黒―――」
ユリアンがとっさに防御魔法を使おうとしたときだ。
「大火球―――!」
ユリアンの意識から抜けた隙をつき、魔法を放った。
「―――な……っ……!」
ユリアンが俺の方を向いた。
その瞬間、
「が……はっ……」
イフリートの拳と俺の大火球が同時にユリアンに当たる。
そして、吹き飛ばされるユリアン。
ドカッ―――っと勢いよく壁にぶつかったユリアンだが、それでもすぐに立ち上がろうとする。
だが、イフリートがすぐさまユリアンを追撃する。
先程の一撃が効いたのか、ユリアンの反応が一拍遅れたようだ。
――――ドンッ!
イフリートがユリアンの頭を掴み取り―――地面に叩きつけた。
そして―――ドンッ! ドンッ! ドンッ!
イフリートは何度も何度もユリアンを叩きつける。
やばい……!
イフリートは俺の制御下にはない。
やつはただ怒りに身を任せて動いている。
もはや戦意のないユリアンに対し、攻撃を加えているのだ。
このままではユリアンが危ない―――。
「そこまでだぁぁぁぁぁ!」
俺の叫びに反応したのか、イフリートがピタッと攻撃をやめて俺を見た。
そして、ニカっと嗜虐的な笑みを浮かべたイフリート。
―――その直後。
イフリートは一瞬で俺との距離を縮めてきた。
そして、俺の顔を掴んで―――ドンっと後頭部を地面にぶつけた。
「……が……っ」
一瞬で意識を刈り取られそうになる。
こいつには……敵も味方もないらしい。
「もう……十分だろ」
イフリートの中にいるオーウェンに向かって言った直後、
「ああぁぁぁ!」
イフリートが俺の顔を握る力を強めた。
「ごは……ぁ……」
猛烈な痛みが走る。
顔が変形してしまいそうなほどの強い力で顔を掴まれている。
涙で視界が霞む。
でも、俺は諦めない。
俺はイフリートの腕を掴み、
「や……めろ……」
といった瞬間、イフリートの中にいるオーウェンと共鳴するような奇妙な感覚に襲われた。
ぐっと腕を握る力を強め、俺を自分の中に引き寄せるように、
「も……どれ……ッ!」
といった。
すると、俺でないオーウェンの感情が一気に流れ込んできた。
そして、俺は感情の奔流に飲み込まれるかのように意識を手放し―――はしない!
俺を俺をぎゅうぎゅうと自分の中に押し込める。
俺もさすがに暴れまわって疲れたようで、それほど抵抗はされなかった。
俺の中で俺が静かに眠る。
そして、意思をなくしたイフリートがパラパラと消えていく。
俺は満身創痍の体をなんとか起こす。
もう、立てるほどの力が残っていない。
ユリアンを見ると、彼は地面に伏したまま動く様子はない。
「勝った……のか?」
正直、ユリアンよりもボロボロのせいで、勝った気がしない。
でも、この状況は間違いなく俺の勝ちだ。
ぐっと拳に力を入れて、無言のまま右手を空に向けて突き出した。
と、その直後、
―――勝者、オーウェン・ペッパー!!!
審判の勝利宣言が鳴り響き、割れんばかりの歓声が会場一帯に轟いた。




