102. 激戦のあと
俺は医務室に運ばれ、治療を受けていた。
ユリアンとの一戦では勝利したものの、体中の怪我が酷くすぐさま医務室に運ばれたのだ。
これではどちらが勝者なのかわからない。
長い戦いだった。
記憶の中を彷徨ってたから長く感じるだけかな?
俺の中にいるオーウェンは静かにしている。
今後どのタイミングでまた現れるかわからない。
本当に色々あった一戦だった。
「それでもまだ、決勝戦があるんだよな」
俺の試合の少しあとに行われたもう一つの準決勝。
勝者はベルクらしい。
つまり明日の決勝戦の相手はベルクだ。
回復魔法を施してもらったため、痛みは完全に消えている。
「ファーレン。ありがとう」
ファーレンに感謝を述べた。
俺が負った怪我は、今大会の中でも割と重症だったらしい。
そこで、聖女であり回復魔法の使い手であるファーレンが治してくれた。
「どういたしまして。それよりもオーウェンさん。あまり無理しないでくださいね」
「いや、無理をしたつもりはないんだけど」
「出血多量に魔力欠乏状態。それに加え、精神攻撃も受けている……これのどこが『無理をしたつもりはない』ですか? 正直、こんな状態でよく勝ちましたね」
ファーレンは呆れながら言ってきた。
確かに、言われてみれば凄い怪我だ。
よくあそこまで頑張れたなって、素直に感心する。
「いいですか、オーウェンさん。回復魔法も完璧ではありません。治せるものと治せないものがあるのです」
「治せないもの……か」
「はい。ドミニクさんを治せなかったように」
そういってファーレンは一瞬だけ暗い顔をした。
「まだ、あの日のことを気に病んでるのか?」
「気に病んでいませんよ。ドミニクさんを助けられなかったのは私の実力不足です。私よりも優れた聖女なら、あるいは……そう考える日もありました。でも、あの頃の自分が如何に無知であったか、今ならわかります」
ドミニクが暴走したあの日を境に、ファーレンは少しずつ変わっていった。
今は昔のように正義を振り回す彼女ではない。
なんていうか……身の丈にあった正義感を持つ少女になったって感じかな。
俺は今のファーレンの方が好感を持てる。
「オーウェンさんの方こそ、気にしてはいませんか?」
「俺が……? もうだいぶ前の話だろ。そんなわけ―――」
「それならどうして……あの魔法を使わないのですか?」
「あの魔法……?」
聞き返しながらも、だいたい察しがついていた。
「【銃弾】でしたか? あのとき見せてくれた魔法です。今日の試合も【銃弾】を使う機会はたくさんあったはずです。でも、オーウェンさんは一度も使いませんでした。いえ……今日だけではありません。ここ2年間一度も使ってませんよね」
「使う機会がなかっただけで……」
「ドミニクさんを撃ち抜いた魔法。それを使うのは怖いですか?」
ファーレンが核心を突く質問をしてきた。
あの日、ドミニクを撃った感触が今でも腕に残っている。
もう随分と前のことなのに……過去のことを引きずり過ぎだ、と自嘲する。
「す、すみません! 問い詰めたかったわけではありませんので!」
「いや……大丈夫」
しっかりしろ、俺。
いつまで過去に囚われているんだ?
いつかは克服しなきゃいけない課題なんだ。
ファーレンは俺よりもずっと早く立ち直って前に進んでいるというのに。
「オーウェンさん、1つ言いそびれました。決勝進出おめでとうございます」
ファーレンがにっこりと微笑み、俺も自然と表情を緩んだ。
「ありがとう。まさか決勝まで行けるとは思わなかったけどね」
特に今日のユリアン戦。
もう一度やったら十中八九負けると思う。
「私もユリアンさんが勝つと思っておりました」
「そこは嘘でも俺のこと信じてたって言おうよ」
苦笑しながらファーレンをみる。
「自分に正直になるって決めたので。ごめんなさい」
「いや、そこで謝られても……」
「冗談です。少しは期待しておりました。……決勝戦はどれだけ傷つこうが、私が治しますので頑張ってください」
「さっきと言ってること違くない?」
「明日だけは特別に許します」
そういってファーレンはニッと笑った。
それは聖女としてではない、一人の可愛いらしい女の子の笑みだった。
「お話はここまでにして私は行きますね。他の方の治療もありますし。それに……」
ファーレンが入り口の扉をちらっと見る。
俺もつられてそちらを見ると、扉の隙間から金色の髪が見えた。
「と、いうことなので失礼します」
ファーレンは軽くお辞儀をして去っていく。
そして、ファーレンと入れ替わりで金髪の少女――ナタリーが医務室に入ってきた。




