98. 記憶回廊⑦
目を開けると、現実世界に戻っていました……なんてオチではなかった。
たくさんの扉が配置されている白い空間。
扉は色形は統一されておらず、人の大きさほどの扉もあれば顔ぐらいの大きさしかない扉もある。
また、扉には装飾が付けられており、何一つとして同じ扉はなかった。
どこまで行っても扉が並んでいるだけだ。
そこはまるで回廊のような場所。
よくわからないところに来てしまったようだ。
どうやったら戻れんだ?
考えても答えが出ないため、とりあえず近くにある扉を開いてみた。
そこは―――……オーウェンとしての記憶だった。
カザリーナ先生と魔法の練習をしていたときの記憶。
一通り、そのときの体験をしてから【記憶】を抜け出した。
その後、他の扉に入っても俺の記憶だった。
佐々木裕太としての記憶もあれば、オーウェン・ペッパーとしての記憶もある。
それらがごちゃまぜになっていた。
「キリがないな」
扉の数は膨大。
これら全てを見て回るのは、俺のこれまでの人生をもう一度体験するようなもの。
それは面倒だ。
「やはり、あの怪しい扉に入るしかないのか……?」
そういいながら、俺は真っ黒な扉を見る。
俺の身長より頭一つ分小さく、装飾も何もない扉。
そこだけ異様な雰囲気を放っている。
いかにも怪しい見た目で……ここに手掛かりがある気がしてならない。
「……行くか」
俺は覚悟を決めて、黒い扉を開けた。
◼️ ◼️ ◼️
「領民とは家畜だ」
俺の目の前には父であるブラック・ペッパーがいた。
相変わらずでっぷりした腹だが、今よりも若く見える。
ブラックの執務室で俺は彼と対峙していた。
「はい。父上。だからこそ、僕たちのような選ばれた人間が導いてやらなければならない……そういうことですね」
俺の口から俺の意思とは全く異なる言葉が紡がれた。
ここは……俺が記憶を取り戻す前の俺の記憶。
「その通り。さすがは我が息子だ。家畜に家畜としての義務を全うさせることーーーそれが我らの務めなのだよ。これを肝に銘じておくと良い」
「はい! わかりました!」
元気よく返事をした俺。
それを見たブラックは満足げに頷いた。
場面が切り替わって―――今度は俺の部屋。
「ふんっ、無能め!」
「も、申し訳ございません」
見たこともない使用人が頭を地面に擦り付けながら、許しを乞うていた。
「俺は豪華なベッドを用意しろと伝えたはずだ。なんだこのみすぼらしいベッドは! 俺を馬小屋にでも泊まらせるつもりか?」
オーウェンが指差した先のベッドは意匠の凝られたもので、パッと見ても高級品だとわかる。
ただ、豪華というよりはシンプルな作り。
それが気に食わないのだろう。
「そ……そんな滅相もございません。こちらのベッドば一流のーーー」
「黙れ! 家畜の分際で生意気だ!」
そう言いながら、俺は、使用人の頭をぐりぐりと靴で押さえつけた。
おいやめろ、と俺は俺の動きをを止めようとするが、体の制御は完全に俺のもののようだ。
それもそうか……。
なんたってここは記憶を取り戻す前の俺の記憶の中だから。
「お前ら平民はな。俺のために生きてるんだよ。役に立たない無能など生きてる価値すらない。いっそのこと死んでしまえ」
俺は使用人を見下ろしながら、その後も暴言罵倒を吐きまくる。
すると、
「坊ちゃま。もうそれくらいでよろしいのでは?」
セバスが俺を止めに入った。
「おい、セバス。使用人の分際で俺に意見するのはやめろと言ったはずだが?」
「私は先代からこの家の守るように言いつけられています。そして坊ちゃまを正しい方向に導くことが私の務めだと考えております」
「うるさい! だまれ! お前のような使用人、俺は知らんぞ!」
そういって、部屋からセバスを含めた使用人全員を追い出した。
――――またもや場面が切り替わる。
家庭教師らしき人物と一対一で講義を受けてきた。
「ですからここは……」
「うるさい! 俺が間違っているだと!? たかが教師の分際で頭が高いぞ!」
「……そうですか。わかりました。では、私はあなたに教えることは何もありません」
教師はそういって俺を蔑んだ目で見た後、その場を去った。
「ふんっ! お前のようなやつ、こっちから願い下げだ!」
そこで、急にオーウェンの感情が流れ込んできた。
死ね死ね死ね死ね……死んでしまえ!
自分の思い通りにいかないこと、そのすべてに苛立ちを感じる。
平民が、下等な貴族が俺に指図するのが許せない。
そんなやつらならいないほうがマシだ。
俺でない俺の感情。
それは俺の怒りと憎悪。
不平や不満を発散させたいというだけの幼稚な感情が俺に流れ込んできた。
視界が揺れ――――そして、場面が切り替わる。
ここは……四大祭の会場……?
俺は仰向けに倒れた状態であたりを見渡す。
戻ってきたのか……?
と思ったとき、
「―――――――がああああああああああああああああああ!!!」
突然、俺が俺の口から奇声を上げた。




