↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/174

94. 記憶回廊③

 神社から帰ったあと、体がベタついていたためシャワーを浴びた。


 そして、テレビを見ながらゆっくりしていると、夕食の時間になった。


 家族3人で囲む食卓。


 最近は、ずっと一人で食べていたから、親との食事が随分と昔のことのように感じる。


 里芋の煮物に漬物とたまご焼き。


 それにご飯と味噌汁といった和食だ。


 俺は好物の里芋の煮物を口に入れる。


 ねっとりとした食感で、だし汁がしっかり染み込んでいる。


「美味い……!」


「裕太は昔から煮っころがし好きだからねぇ」


「ずっとコンビニ弁当だったから……たまに帰ってきたときの母さんの料理が美味しく感じる」


「一人暮らしだから仕方ないでしょうけど……そろそろ良い人見つけて、ご飯作ってもらいなさい」


「……そういうの古いから。今は結婚しても共働きの時代なんだって」


 収入だってそんなに多くもらえないし、先の見えない時代だ。


 一人の収入に頼っているのでは心もとない。


「あら、そう? どっちにしろ、早く孫が見たいわ。ね、父さん?」


「ああ、そうだな」


「子供って……。まだ、彼女もいないんだし……」


「その歳になってまだ彼女がいないのか?」


「やめてくれ、父さん。その言葉、結構傷つくから……」


 年齢イコール彼女なしってのは10代前半なら笑い話しにもできるが……もう20代後半だ。


 お、俺だって彼女欲しいと思ってたぞ!


 別に二次元に嫁がいると考えるほど重症じゃない。


 もちろん男が好きだとか、変な趣味があるとかでもない。


 欲しいと思ったけど、彼女ができなかっただけだ!


 ふはははは……なんか、悲しくなってきた。


「まあ、でも……俺だって……」


 頭に浮かぶのは……金髪碧眼の少女。


 ……って、いやいや、誰?


 一瞬、金髪碧眼の天使のような美少女が頭に浮かんできたが、そんな可愛い子……俺は知らない。


 じゃなくて、深雪だ。


 今度、デートの約束をしているし、これは人生初の彼女!?


 と期待なんかもしちゃっている。


「もしかして、良い人でもいるの?」


「いや……いないよ」


 母さん……変なところで鋭いからな。


 まだ付き合ってもいなのに、親に報告とはできんわ。


「そう……。裕太はお父さんに似て奥手なんだから、しっかりと自分の気持ち相手に伝えなさいよ。お父さんも中々告白してこなかったんだから」


「ははは……そういえば、『私のこと好きなの? どうなの?』 って問い詰め寄めらたな……。その流れで好きと言ってしまい……いまでもちょっと夢に出てくる……」


 父さんがどこか遠い目をする。


「あなたがはっきりしないからよ。『好きなら、なんか言うことあるでしょ!』 って聞いて、ようやく告白したのよ」


「それって告白させてんじゃ……。ていうか、親の馴れ初めとか聞きたくないわ!」


「そんなこと言うなよ。お前が生まれてきたのも俺たち2人の愛があってのものなんだから」


「子供の前でそういう話はしない! 背中がゾワっとしたわ。うわぁ、気持ち悪っ」


「そうよ、あなた。裕太には……まだ早いわ」


「そうだな。お前はまだどうて―――」


「ストオオオップ! それ以上言わないで! そのワードを親に言われるのって、結構しんどいから! 心えぐられるから!」


 童貞ってのは禁句だからな。


 いや、ほんとまじで。


「すまんな。だけど、お前……彼女の1人や2人ぐらい、とっとと作らんのか? 父さんが言えることじゃないが、好きな人がいるなら告白した方が良いぞ」


「……告白って……そんな簡単にできんよ」


 告白できる勇気があれば、この歳まで彼女いない、なんてゆゆしき事態には陥らない。


「そうよ。うじうじしてないので好きな人がいるなら好きって伝えなさい。一生伝えれなくなることもあるんだから」


「一生伝えれない……か。そんな今生の別れみたいなこと……」


 伝えれないこと?


 今生の別れ……?


 俺は……何かとても重要なことを忘れている気がする。


 眉間を指で抑えながら、思い出そうとする。


 なんだ……?


 何かがおかしい。


 そもそも……なぜ俺はここにいる?


「深刻な顔してどうした?」


 父さんが頼りなさげな眉を曲げて、俺の顔を覗き込んできた。


 父さん……?


 なんで、父さんがいるんだ……?


「裕太……? 大丈夫?」


 続いて、母さんが心配そうに表情を向けてくる。


 母さんも……どうしてここにいるんだ……?


 二人共、もう一生会えないと思っていた。


 一生会えないってなんだ?


 父さんも母さんもここにいるじゃないか。


 さっきから、本当におかしい……。


 だって俺は……魔法がある異世界に転生して――― ―――そうだ。


 思い出した。


 俺はもう佐々木裕太ではない―――オーウェン・ペッパーだ。


 それならここは……どこだ?


 俺の記憶か?


「裕太……どうして、泣いてるの?」


「え……あれ? おっかしいな……」


 俺は服の袖で目を拭って涙を止める。


 だけど―――、


「なんで……」


 なんで、涙が止まらないんだよ……。


 突然、泣き出した俺に両親はオロオロし始める。


 この2人も、俺の記憶が作り出したものなんだ。


 本当の両親には二度と会えない……。


 そう思うと、


「父さん……母さん…………親不孝者でごめん」


 もっとしてやれることはあった。


 母さんからの電話を面倒だと思って出ないこともあった。


 父さんがぎっくり腰になったときも帰ってこなかった。


「なんのことかわからんが……。お前は親不孝な子じゃない」


「そうよ。裕太が私たちの子供で良かったわ」


 違う……。


 2人が思ってるほど、良い子供じゃない。


 親よりも先に死んでしまった。


 ……両親を悲しませた。


 魔法が使えても、元の世界に戻ることはできない。


 もう―――言葉を交わすことはないんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。