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91. 理性のない化け物

 ユリアンは自身の勝利を確信した。


 ナタリーのときは気を失う程度に、手加減をして陰魔法を使った。


 万が一にも後遺症が残らないように―――。


 その油断があったせいで、ナタリーに追い詰められた。


 だが、オーウェン相手に手加減するつもりはない。


 有象無象がどうなろうとユリアンには関係のないことだった。


 たとえ、オーウェンが廃人になろうと、ユリアンからすればどうでも良かった。


 オーウェンを拘束した状態で、彼の額に触れる。


 そして、陰魔法―――精神破壊を使った。


 陰魔法は拷問にも使われる魔法。


 内側から人を壊すことができる。


 精神が弱いものなら廃人になってもおかしくないほどの強力な魔法。


 それをオーウェンにかける。


 すると、オーウェンの体の力がガクッと抜けていく。


(……僕の勝ちだ)


 ユリアンは会場を覆っていた闇を取り払う。


 審判にオーウェンが倒れているところを見せるためだ。


 闇が晴れたところで、オーウェンを見下ろしながら立つユリアン。


 この状態を見れば結果は一目瞭然。


 観客席からナタリーが「しっかりして! オーウェン!」と叫ぶのが聞こえてくる。


「勝負はつきましたよ」

 

 ユリアンは審判に向かって言った。


(……期待はずれだね)


 オーウェンがこの程度の実力だとは思わなかった。


 確かに【イフリート】を含め、一つ一つの魔法の威力は強い。


 そして、飛行魔法が使える点も含め、一般的に見ればオーウェンは天才と言えよう。


 だが、その程度(・・・・・・)だ。


 オーウェンがその程度の実力であることを期待はずれに思った。


 だから、ユリアンはオーウェンを有象無象と考え、壊れても問題ないと判断した。


 審判はオーウェンがピクリとも動かないことを確認し、


「勝者―――」


 ユリアンの勝ちを宣言しようした―――そのときだ。


「―――――――がああああああああああああああああああ!!!」


 倒れていたオーウェンが突然、会場全体に響き渡るほどの奇声を上げた。


(まさか……あれを受けて意識が残っていた? いや、そんなはずはない……)


 ユリアンが使った魔法は、大人の……それも実力者ですら、一瞬で昏倒させるものだ。


 間違いなく、意識を刈り取った。


「あああああああああああああああああああああ!」


 オーウェンが瞬時に起き上り、体を仰け反らせて空に向かって吠えた。


「理性を……なくしたのか……?」


 オーウェンに視線を向けるユリアン。


 オーウェンの雰囲気が先ほどとは異なり、彼からは凶暴さが感じられた。


 血走った目。


 獣のように荒い息を吐くオーウェン。


 手をぶらぶらさせ、猫背のように体を丸めている。


 それはオーウェンではない何か―――理性のない魔物のようだった。


 と、オーウェンの姿を分析していると、オーウェンが一気にユリアンとの間合いを詰めてきた。


「―――影よ」


 ユリアンは複数の影を同時に動かし、オーウェンの腕を影で拘束した。


 理性がないのなら、捕まえるのは簡単だ。


 だが、


「ぐわああああああああああああああ―――!」


 オーウェンはまるで腕が折れるのも厭わないとでもいうように、無理やり影を引き離そうとする。


(廃人になったか……? それとも……怪物を体に飼っていたとでも言うのか?)


 どちらにしろ、ユリアンからすれば問題ない。


 考えることができない化け物など敵ではない。


 ユリアンはオーウェンの体全体に影をまとわりつかせ、拘束した。


 化け物に言うことを聞かせるには……痛みを覚えさせるのが一番だ。


「紫電の槍」


 雷を纏った槍を出現させる。


 そして、影に絡み取られたオーウェンに対し、


「穿け」


 槍を放った。


―――グサッ


 紫電の槍はオーウェンの肩を貫く。


 そして、ぐったりと倒れたオーウェンは、抜け殻のように何も言わなくなった。

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