90. ユリアン戦
準決勝まで残ったのは、俺とユリアンに加え、ベルクとカイザフの4人。
残り2試合で優勝者が決まる。
四大祭の準決勝ということだけあって、観客席は満員だ。
そして、俺とユリアンの試合が先んじて行われる。
大声援の会場の中、俺達は無言で向き合っていた。
言葉は不要。
ていうか、お互い話すことなんてないだけだけどな。
「―――はじめ!」
開始の宣言を聞いてから俺は動いた。
ユリアンから円弧を描くように走りながら、
「大火球……!」
ユリアン目掛けて魔法を放つ。
「雷撃」
―――ドオオオオォーン
ぶつかり合う魔法。
初歩級の魔法であっても、相当な威力だ。
「地獄の火炎、イフリート!」
俺の持つ最大の火魔法―――イフリート。
息をつく暇も与えず、周囲を飲み込みながら火炎がユリアンを襲う。
「黒壁」
ユリアンは自分を守るように半円の黒壁を生成し、火炎を防いだ。
そして、
「壁縫い」
黒い壁から、同色の触手のようなものが何本も出てくる。
それらは俺を絡みとろうと、迫ってきた。
―――身体強化!
触手の動きは思った以上に早く、逃げ回るので精一杯になる。
その間も、
「雷撃!」
ユリアンは間断なく魔法を放ってきた。
「くそっ……」
触手は意思を持っているかのように動くため、1人で2人を相手にしているようだ。
「火球!」
触手にも攻撃は効くようで、迫り来る触手を燃やす。
だが、数が多い上、触手はどんどん増えていく。
とうとう会場上に逃げ場がなくなり、四方八方触手に囲まれた。
「灼熱火炎!」
自分を中心に火炎を発生させる。
以前、カイザフが使っていた魔法を自分なりにアレンジしたものだ。
近くまで迫っていた触手を焼き払った。
そして、
「土よ! 隆起せよ!」
―――ドドドドドドドッ
ユリアンの足元に向かって、土が盛り上がっていく。
「雷撃!」
盛り上がった地面を、ユリアンが一撃で粉砕する。
―――この一瞬の攻防のうちに、触手がすぐそこまで迫ってきていた。
これじゃ、キリがないな。
逃げても燃やしても意味がない。
それなら、無視しよう。
―――身体強化!
地面を力一杯蹴るとともに、
「引力解放!」
初速の勢いを保ったまま、ユリアンとの距離を一気に詰めた。
そして、
「鉄拳……!」
拳を突き出して、ユリアンに向かっていく。
だが、ユリアンは軽やかに俺の拳を避け身を翻した。
そして、
「――――――闇に染まれ」
一瞬で俺の視界が、黒く塗りつぶされた。
な、なんだ……?
何も……見えない。
さっきまで聞こえていた観客の歓声も今は全く聞こえてこない。
無音で真っ暗な世界。
人は暗闇に恐怖を抱くという。
今ならその意味がわかる。
光がどれほどありがたいものかを実感する。
自分の吐く息だけが鮮明に聞こえてくる中、何かが自分の体にがまとわりつくのを感じた。
おそらく触手だ。
――――身体強化!
体を大きく動かして、触手を振りほどく。
そして、闇から逃れるため動き回るが、
「……逃げれない」
どこまで動いても闇が広がっている。
それなら―――
「―――引力解放」
たとい、会場全体を覆い尽くすほどの闇であっても、空までは覆い尽くせないはずだ。
俺は重力魔法を使って空を飛ぼうとした。
しかし、
「な……!?」
魔力制御がうまくできず、少し浮いた状態から地面に叩きつけられた。
そして、倒れた俺の体に影がまとわりついてきた。
「くそっ」
強引に解こうとするが、触手は次々に体にまとわりつく。
そして、とうとう体中が拘束されてしまう。
「身体強化―――!」
全力で影を振り切ろうとするが―――
「くっ……ぅ………」
触手はまるで鋼鉄のように硬さをもって、俺を縛り付けていた。
「ナタリーのように手加減はしない。もちろん、油断もね」
ユリアンがどこからか語りかけてきた。
「どこにいる―――!?」
俺は視線を動かして、ユリアンを探す。
だが、何も見えない……。
「無駄だよ。ここは光が全く通らない世界。さあ、終わりにしよう。―――廃人になっても恨まないでくれ」
スッと何かが額に触れた、その瞬間、
―――ゾクッ
本能的に感じる恐怖。
そして、嫌悪感がぞわぞわっと体に走る。
「や……め……」
そして、
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!」
口から何かが入り込んできた。
重くて気味の悪い異物。
異物は体中をゆっくりと嬲るに侵食し―――そして、俺は意識を失った。




