88. 余韻
体が勝手に動いていた。
今にも泣きそうなのに、それを我慢しているナタリーを見ていたら守りたいと思った。
そしたら思わず抱き締めていた。
そして、
「―――あとは俺に任せろ」
ふぎゃあああああああああ。
恥ずかしい……。
恥ずかしくて死にそうだ。
穴があったら全力で入りたい。
ナタリーと別れたあと、俺は羞恥心で顔が赤くしていた。
なぁにが……俺に任せろ。だ。
カッコつけすぎだよな。
そんなこと言うキャラじゃないよな。
わかってる。
わかってるんだけど、言っちゃったんだよ。
だって、あんな表情を見せられたら……。
泣きそうなのにそれを我慢している表情。
普段が凛としているからこそ、そのギャップにやられた。
あのうるうるした瞳なんかは凄まじい破壊力だった。
もう、壊されてもいいとすら思えた。
……にしても、めちゃくちゃ恥ずかしいな。
「あーあ、変なこと言っちゃったよ」
あのあと、正常な思考に戻った俺は逃げるようにしてその場を去った。
そして、ユリアンに対して考える。
「どうしよっかな。ユリアンに勝つには……」
ナタリーとユリアンの試合を一部始終見て、まず感じたのは、ユリアン強すぎってことだ。
間違いなく四大祭に出ている全選手の中で最強。
二重魔法を行使しながらナタリーと互角に戦った。
それだけで、ユリアンの凄さがわかる。
ベルクやカイザフよりも上。
高等部を含めてもユリアンよりも強い人は見たことがない。
「俺に勝てるのか―――?」
当然のように湧く疑問。
自分の使える魔法でどうやってユリアンを倒すか考える。
一つだけ可能性がある。
【銃弾】を使えば、ユリアンを倒せるかもしれない。
だけど、
「う……ッ……」
俺は突然の頭痛に頭を抑えた。
あの魔法から、どうしてもドミニクのことを考えてしまう。
もうだいぶ前のことなのに、未だに頭の中に残っている。
あれから、【銃弾】を使ったことはない。
ドミニクの死がフラッシュバックするからだ。
当然、人に向かって撃つなんてできない。
あれは人を殺す魔法だ。
「ほんと、どうしよっかな」
ユリアンとの対戦について考えながら歩いていると、クリス先生を発見した。
なにやら忙しそうにしている。
こういうときのクリス先生には近づかない方が良い。
なんでかって?
面倒なことを頼まれるからだ。
そう思って、体を反転させようとしたが、
「おい、オーウェン。どこに行く?」
見つかっていた。
「……トイレです」
「なら、私も一緒に行こう」
なんで、この人トイレについてくるんだよ!
いやもう、おかしいよね?
「嘘です。僕の膀胱はまだ破裂しませんので。ところで、先生は忙しそうですね」
「ああ。ちょっと騒ぎがあってな」
「え? 大丈夫なんですか?」
「大したことはない。……教師からすると四大祭ほど面倒なものはないな」
「楽しくは……ないですよね」
教師からすると色々と気を回さなくちゃいけなさそうだ。
それに、前世の運動会と違って、ガチの不審者が学園に入り込む可能性がある。
誘拐事件なんて起きたら、たまったものではないだろう。
まあ、生徒を簡単に誘拐できるほど四大祭のセキュリティは甘くない。
「何ごともなく終わって欲しいんだがな」
「そういうときに限って何かが起こるんですよ」
「縁起の悪いことを言うな……。それよりお前、暇そうだな」
クリス先生がこういうときは、嫌な予感がする。
もしかして雑用か……?
この人は俺をパシリか何かだと思ってるからな。
俺は警戒しながら、
「あ、いえ、暇というわけでは……」
と言葉を濁す。
「そうか。それならいい。休憩がてらお前と話そうと思ってただけだ」
なーんだ、頼み事とかではないのか。
それなら、警戒する必要ないな。
ていうか、俺も先生に聞いておきたいことがあったし。
「すみません。暇です。特にやることはないです」
「お前さっき……。いや、なんでもない。それなら少しだけ付き合ってくれ」




