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87. 戦いのあとで

 怪我をしたナタリーは気を失っている間に医務室に運び込まれていた。


 四大祭のために優秀な治癒魔法使いが国内から集められている。


 体の一部が欠損するような大怪我でない限り治してもらえる。


 学生同士の戦いだと言って甘く見てはいけない。


 魔法を使って戦っているのだから、死人が出る可能性すらあるのだから。


「ナタリー、大丈夫か」


 オーウェンが心配そうにナタリーの顔を覗き込む。


 ナタリーはベッドからもぞもぞと起き上がりながら、


「ええ、平気よ」


 平気な声で返す。


 実際、治癒魔法使いのおかげで痛みはすっかりなくなっている。


 そもそも、今回の試合で物理的なダメージはほとんど受けていない。


「オーウェンはどう? 3回戦は勝てた?」


「おう! バッチシだぜ!」


 ピースサインを作ってニカっと笑うオーウェン。


 オーウェンは準決勝に駒を進めた。


 ナタリーは今日勝てば、次の試合でオーウェンと戦うことになっていた。


(私は負けたのね………)


 改めて自分の敗北を実感する。


「ナタリーも良い試合だったな」


 オーウェンが気を使うように言ってきた。


「全然よ。お兄様は本気を出していないのに」


「そんなことないけどな。あの人も結構焦ってたよ。最後なんかは特に」


「ふふ、そう? 一泡吹かせてやったわ」


 ナタリーは負けたのに、思いの外にすっきりした気分だった。


 ユリアンの強さを肌で感じながらも、自分のやれる最善をつくした。


 その結果負けたのだから、納得するしかない。


 雷神武装を使ってからの記憶はほとんどない。


 だけど、ユリアンの驚愕した表情だけは覚えている。


 それが見れただけでも十分満足だ。


「さすがナタリーだな。雷神武装だっけ? かっこいいな、あれ!」


 そういってオーウェンが「スーパーサ○ヤ人!」と言ってはしゃぎだした。


 ナタリーは「スーパーサ○ヤ人」が何かわからなかったが、なんとなく雷神武装のことを言っているのだけはわかった。


「次はオーウェンね。私の分まで頑張りなさいよ」


「もちろん!」


 オーウェンはわざとらしく大きく頷く。


 オーウェン対ユリアン。


 心情的にはオーウェンに勝って欲しいが、彼がユリアンに対してどこまでやれるかわからない。


「ところで、ナタリー」


 急に真剣な表情になるオーウェン。


「……なに?」


 彼はナタリーの頭にぽんっと手を置いた。


「よく頑張ったな」


 彼は優しい声でそういった。


「何を……急に……」


「気づいていないのか? めちゃくちゃ悔しそうな顔してるぞ」


 そういってオーウェンはポンポンとナタリーの頭を叩く。


 その瞬間、ナタリーは隠していた自分の気持ちに気づいた。


 一泡吹かせたから、達成感を得ている?


 そんなわけない。


 今までのナタリーならユリアンに勝とうなんて思いもしなかった。


 戦う前から諦めていた。


 でも、今回は違う。


「悔しい……。私は勝ちたかった」


 ユリアンが格上であろうが関係ない。


 ナタリーは本気で勝ちにいった。


「あーあ、本当に嫌になるわ。お兄様は強すぎよ」


 わざと軽い口調で言って、涙が出そうになるのを必死で抑えた。


 オーウェンの前で泣きたくはなかった。


 彼とは対等でいたいという小さなプライドだ。


 そうやって、ナタリーが眉間にシワを寄せて涙を我慢しているときだ。


 オーウェンが急に接近してきた。


 そして、バッとナタリーに覆いかぶさる。


(え、ちょっと……。どういうことよ!)


 オーウェンが突然、ナタリーの体を抱きしめたのだ。


 ナタリーは口をパクパクさせるが、言葉が出てこない。


 絶賛パニック中である。


 心臓が早鐘を打ち、顔がプシューっと赤くなる。


 ふいに抱きしめてくるのは反則だ。


 ナタリーは頭の中でオーウェンに抗議する。


 もちろん、その声がオーウェンに届いているはずもなく、


「―――あとは俺に任せろ」


 ナタリーの耳元でオーウェンはささやいた。


 ナタリーはそれを聞いて真っ赤な顔をさらに赤くした。


「不意打ちとか卑怯よ……」


 彼女はオーウェンのことをかっこいいと思ってしまい、


「これで負けたら承知しないわよ」


 自分の気持ちを誤魔化すようにそう呟いた。

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