86. ユリアン対ナタリー③
負けるわけにはいかない。
そう思うものの、現状を打開できる策など思い浮かばない。
意識を繋ぎ止めただけで、何かが好転したわけではないのだから。
相変わらず体は言うことを聞かないし、魔力はどろどろしていて気持ち悪い。
「へぇ……どうやら少しは成長したようだね。次はもっとキツくするけど、耐えられるかな?」
ユリアンの言葉に返せるだけの余裕は残っておらず、睨みつけるので精一杯だ。
まさに絶体絶命。
でも、そんな中でもできることをする。
諦めることなんていつでもできるのだから。
体は動かせないが、魔力ならなんとく動かせる。
どろどろした魔力を無理矢理にでも動かすため、魔力操作のみに意識を集中させた。
目を閉じて「スゥゥゥゥ」と息を吐く。
「今度こそ終わりだ」
ユリアンがナタリーに額に触れようとした、その瞬間。
「雷神武装」
彼女を中心にばちばちと放電する音がした。
ナタリーは雷を纏った。
瞳を閉じたまま黄金の髪を逆立たせる姿は、まさに雷神のようだ。
「くっ……」
ユリアンは手に痛みが走り、慌てて引っ込める。
「まさか……武装魔法!?」
彼は今日はじめて驚愕した表情を見せながらも、
「陰よ!」
複数の影を同時に操り、鎖で縛り付けるかのように影をナタリーの体にまとわりつかせた。
だが、それも一瞬のこと。
「なんだ……と!?」
ナタリーは手足に纏わりついた影を物ともせずに歩みをすすめ、右腕を振り上げた。
それを見たユリアンは、
「―――影の防壁!」
一瞬で影を使って壁を作り出し、ナタリーの攻撃を防ごうとした。
しかし、ナタリーの右腕が壁を貫通し、ユリアンは脇腹に一撃が入れられた。
「ぐはっ……!」
その瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。
痛みに身を悶える時間をユリアンに用意させるはずはない。
ナタリーの拳がユリアンの目の前まで迫っていた。
ユリアンは身体強化で強化された足で後ろに飛び、ナタリーの拳をかろうじて避けた。
身体強化を重視するセントラル学園の中でも、ユリアンの身体強化は優れた部類に入る。
態勢を立て直したユリアンは、ナタリーをみる。
焦りが生じていた。
脇腹の痛みは尋常ではなく、歯を食いしばってようやく立っていられる状態だった。
これ以上は遊んでいられないな、とユリアンが考えたときだ。
―――バタッ
ナタリーが突然、その場に倒れた。
罠か? と一瞬ユリアンは考えたが、しばらく経っても彼女が動き出すことはなかった。
そうして彼は勝利を収めた。
あっけない終わりだ。
いつからかわからないが、ナタリーは意識を失っていたようだ。
もし、彼女が意識が残っていればと考えると、負けていたかもしれない。
「我が妹ながら恐ろしいよ。全く……」
地面にうつ伏せになっていて倒れているナタリーを見て、ユリアンはつぶやいた。




