85. ナタリー対ユリアン②
ナタリーはユリアンと魔法の打ち合いを繰り広げる中、焦りを感じていた。
このままでは埒が明かない。
「どうした? 攻撃が雑になっているよ」
ユリアンが挑発するように声をかけてくる。
時間が経過するにつれ、追い込まれていくのを感じる。
ユリアンが手を抜いていることは明らかなのに、ユリアンに傷一つつけることすらできていない。
「落雷―――!」
ユリアンの頭上に落とした雷。
だが、それをユリアンは雷撃で相殺した。
―――決め手に欠ける。
一般的に言えば、ナタリーの雷魔法は高出力であり、大抵の相手ならば雷撃だけで勝負がつく。
だが、自分よりも格上の敵を倒せる手段がない。
オーウェンのもつ【イフリート】のような強力な魔法を持っていないことがナタリーの弱点でもあった。
この状況を覆せる技がない。
それに対し、ナタリーは歯痒い思いでいた。
「ッ……!?」
突如、ナタリーは体を上手く動かせなくなる。
「ようやく、効き始めたようだね」
「何を……したのですっ!」
「君に陰魔法をかけた。それだけだよ」
「そんな―――」
ユリアンは陰魔法を使うような素振りを一度も見せなかった。
油断はしていなかった。
最初から今までずっとユリアンの動きを警戒していたのに。
気づかないはずがない。
否、一つだけ考えられることがある。
「まさか、無詠唱!?」
その可能性に思い当たり、驚愕した。
無詠唱魔法は名前の通り、詠唱なしで魔法を使う技法だ。
もちろん、無詠唱魔法は詠唱魔法よりも魔法を発動させるのが難しい。
魔法はイメージによって発動するが、イメージだけで現象に落とし込むのは難しい。
そのため、詠唱によってイメージを補完し、魔法を発動させている。
詠唱なしではより鮮明なイメージと細かな魔力制御が必要になる。
「でも―――いつ!?」
「最初から、ずっとだよ。会場全体を陰魔法で覆うのには結構苦労したよ。さあ、ネタバラシは終わりだ。そして、この試合も終わりにしよう。―――陰よ、纏わりつけ」
黒い影がナタリーに向かって一直線に向かってきた。
ナタリーは陰魔法を避けようとする。
しかし、ナタリーは体全体に錘が乗っているかのように、体を動かせない。
「―――捕まえた」
そして、影がナタリーに纏わりついた。
その瞬間、ガクッと体が突然重くなり、地面に膝をつけた。
「これで試合終了。残念だったね」
ユリアンはゆっくりとした足取りで近づいてきた。
それを見ながら、ナタリーは必死で対策を取ろうとするが、指一本動かせない。
さらには、魔力もどろどろと濁った液体のように重みを感じる。
陰魔法は、直接相手にダメージを与えることもできなければ、自分の身を守ることもできない。
使い勝手が悪く陰魔法を使いたがる者は少ないが、上手く使えば強力な魔法だ。
それを身を以て実感させられた。
「陰魔法はその名の通り陰となる魔法だ。日の当たらない僕にこそ、ふさわしい。誰にも気づかれずひっそりと相手に忍び寄り刈り取る」
ユリアンはナタリーの目の前まで来ていた。
「勝負はついた。降参してくれるかい?」
「嫌よ」
「それなら仕方ない。少し痛いかもしれないが、我慢してくれよ」
そういってユリアンはナタリーの額に触れる。
その瞬間、ナタリーは自分の中に異物が入ってくきた。
「ご……ぉ……」
体が重たく、息が苦しい。
頭痛と吐き気によって気持ち悪く吐きそうだ。
そして、めまいがして焦点が定まらない。
あらゆる体調不良を一気に味わったかのような不快感にナタリーは意識を失いかける。
だが、
「負けるんじゃねぇぇぇぇ―――!」
どこからかオーウェンの声が聞こえてきた。
(私は負けない……!)
「イッ……」
ナタリーは唇を噛み、痛みによって意識を保った。
まだ、負けるわけにはいかない。




