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84. ナタリー対ユリアン

 ナタリーはユリアンと向かいあっていた。


「ナタリーの成長が見れて嬉しいよ」


 今からナタリーと戦うはずのユリアンが、まるで他人事のようにいった。


「その’成長’でお兄様を倒すわ」


「ナタリーはがんばり屋だからね。期待しているよ」


 ユリアンはどこまでも、傍観者だ。


 今から、ナタリーと戦うことに意識が向いているとは思えない。


 彼を睨みつけながら、ナタリーは言葉を返さなかった。


 この場は、言葉で戦う場所ではない。


 魔法で自分の力を証明すれば良い。


 オーウェンが認めてくれた雷魔法で。


「それでは! 始めっ!」


 審判の合図。


 それを聞いたナタリーはユリアンを見据えて、


「―――雷撃!」


 右腕を砲身にするようにして雷を放った。


 攻撃力に関しては随一の威力を誇る雷魔法。


 それがユリアンに向かって飛んでいく。


「雷撃」


 ユリアンはナタリーと同じ魔法で相殺してきた。


「顕現せよ、紫電の槍!」


 ナタリーはすぐさま、雷を纏った槍を展開した。


 バチバチと放電する槍。


「―――貫け」


 その矛先をユリアンに向けて放った。


「雷障壁(らいしょうへき)」


 ユリアンは槍を止めるべく雷の壁を生成した。


 雷魔法は守りには向かない。


 攻撃に特化した魔法だからだ。


 しかし、ナタリーの放った槍は雷障壁を崩すことができなかった。


「紫電の槍ってのはこうやって使うんだよ」


 そういってユリアンは、ナタリーが作り出した槍と同じものを展開し、放射した。


「―――身体強化!」


 ここ数年で身体強化を使えるようになったナタリー。


 身体強化が有用であることは、ベルクやオーウェンが実戦で使っていることからも明らかだ。


 そして、彼女は身体強化を人並み以上に扱えた。


 ナタリーは土を蹴り、横に飛んだ。


 しかし、槍は突然、ナタリー目掛けて方向を変えた。


「ツッ……!」


 ナタリーは驚きで目を開きつつ、体を捻らせ辛うじて避ける。


 次の瞬間、槍が壁に衝突し、轟音が後方から聞こえてきた。


「よく避けたね。ナタリーの成長が見られて嬉しいよ」


 ユリアンが目を細めて喜色の笑みを浮かべる。


「無駄口を叩いて、余裕そうね」


「可愛い妹の成長した姿に喜ばない兄はいないさ」


「だまりなさい! ―――落雷」


 10メートル以上も離れたユリアンの頭上から雷が落ちる。


 実戦での使用が難しいとされる遠距離魔法だ。


 ナタリーがオーウェンやベルクを抑えて主席で卒業したのは伊達でじゃない。


 彼女は間違いなく天才なのだ。


「雷障壁」


 ユリアンが障壁を頭上に展開すると同時に、ナタリーは、


「雷撃弾―――!」


 ユリアンに息をつく暇を与えず、雷を纏った弾を放つ。


「雷撃!」


 ユリアンは雷撃弾を雷撃で相殺しようとした。


 だが、


「爆ぜよ!」


 ユリアンの目の前で雷を纏った弾が爆発する。


 轟音が会場全体を揺らし、ユリアンがいた場所は砂埃で覆われる。


 雷と火の合成魔法。


 威力は絶大だ。


 しかし、ユリアンがこの程度で倒れるとは思えない。


 案の定、砂埃の中から、


「雷撃―――!」


 一つの雷が飛んできた。


 ナタリーは同じく雷撃を放ち、相殺した。


「ナタリーもたくさん魔法を覚えたんだね。さすがは愛しの妹。こんなに嬉しいことはない」


 ユリアンは無傷で笑いながら立っていた。


「どうして、本気を出さないの?」


 余裕そうに笑みを浮かべるユリアンに尋ねる。


 まだ、ユリアンは雷魔法しか使っていない。


 最も得意とする陰魔法を一度も使っていないのだ。


「本気……? どうして僕がナタリーに本気を出す必要が?」


「別にないでしょうね。本気を出す前に負けても後悔しないでくださいね」


 ナタリーは無駄話は終わりとばかりにユリアンに向けて雷撃を放った。

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