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83. ナタリーの想い

 ナタリーは昔からユリアンを怖いと感じていた。


 それはユリアンの目が笑っていないからだ。


 ユリアンがよく言葉にする愛しの妹。


 昔からずっと言われてきた言葉。


 ナタリーの嫌いな言葉だ。


 心のこもってない彼の口から、愛情を感じることはできない。


 むしろ、どこか馬鹿にされているような。


 そして、嘲笑われているように感じてしまう。


 明日の戦いはユリアンに勝つため、準備を進めてきた。


 だから、2回戦を見に行かなくても、実力はよく知っている。


 でも怖かった。


 対策を考えれば考えるほど怖気づく。


 何度、頭の中でシミュレーションしても勝てる未来が見えない。


 ユリアンには勝てない。


 それが呪縛のようにナタリーに張り付いていた。


 不安で仕方なかった。


「空、飛びたいの」


 だから、ナタリーはあのときみたいに自分を連れ出して欲しかった。


 はじめてオーウェンにあったときのように、狭い世界から連れ出して欲しかった。


 呪縛から解き放って欲しかった。


(ダメね。いつから私はこんなことを考えるようになったのかしら)


「私はお兄様の言う通り、弱い人間よ」


 自己嫌悪に陥る。


 わざわざオーウェンが遊びに誘ってくれた。


 自分を励ますためだとわかっていた。


 でも、どうしても気分は晴れなかった。


 空に飛んでいるのに、以前のように心が晴れることはなかった。


 そんな彼女に、オーウェンは、


「大事だから。大切に思ってるから、ナタリーを信じる」


 と言ってくれた。


 そして、ナタリーを宙に浮かした。


 突然の浮遊感。


 空を飛んでいる!


 ナタリーは嬉しくなった。


「空飛ぶって気持ちいいだろ」


「うん! とっても―――とっても気持ちいい!」


 ナタリーは両手を広げて、肺にこれでもかというくらい空気を詰めた。


「それは、どこまでも飛んでいける羽根だ。この大空の下、ナタリーはどこにだって行ける!」


 オーウェンは力強く言った。


 本当に羽根が生えたようだった。


 それはどこまででも飛んでいける羽根だ。


 どこでも行ける気分にさせてくれた。


 ああ、そうか。


 呪縛なんてなかった。


 ナタリーを縛るものなんて最初からなかったのだ。


 それは自分で勝手に作ったもの。


 そんなのは幻想だった。


 本当はナタリーだって自由に空を飛べたんだ。


「空、飛ばしてくれて……ありがとう」


 気持ちはすっきりした。


 明日の試合。


 別に現状が変わったわけではない。


 試合がなくなったわけでもないし、対戦相手のユリアンは強いままだ。


 でも、大丈夫。


 ナタリーはさっきまで悩んでいたことが嘘のように晴れやかな気分だった。

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