81. ラーメン
屋台で遊んだことで、ナタリーの機嫌がだいぶ良くなっていた。
その証拠に彼女の歩みは軽やかになっている。
「お兄さんの試合、見に行くか?」
そろそろユリアンの2回戦が始まる時間だ。
今行けば試合を見に行くことができる。
結局、見に行くかどうかを決めるのはナタリーだ。
「……」
「迷ってるなら見に行かないほうがいいぞ」
「どうして……?」
「俺がナタリーと遊びたいからに決まってるだろ」
ユリアンの試合を観に行ったら、ナタリーのテンションが下がる気がする。
そんなナタリーを見たら、俺のテンションも下がる。
それなら、せっかくの祭りを楽しみたいじゃないか。
それに、リフレッシュして気持ちを整えるのは、体を休めることよりも重要かもしれない。
特に魔法使いは気持ちの持ちようで魔法の精度や威力が大きく変わるからだ。
「相変わらず自分勝手な理由ね……。でも、私もオーウェンと遊びたいわ」
「決まりだな」
俺はニヤリとして言った。
「ちょっと、早い時間だが、飯にするか」
最近発見したオススメの飯屋がある。
まさか、この世界にあれがあるとは、と驚き感動したものだ。
俺たちは学園街を出た。
ちなみに今日は学園街が開放されており、学生も王都の中であれば自由に行動できる。
学園街を出てまっすぐ進むと西門がある。
その通りが市場となっている。
「とっておきのところ、連れてってあげるよ」
そういいながら、大きな通りから少し逸れた通りに入った。
そのまま、ずんずんと迷いのない足取りで進んでいく。
「どこまで行くのかしら?」
どんどん人気のないところに向かっているため、ナタリーが心配の声を出す。
と、そのタイミングで、目的地が見えた。
「着いた」
俺が指差したのは、この世界の人からすると、少し変わった外観の店屋だった。
ナタリーは、え、ここ? とでも言いたげな顔で俺を見る。
「よし、入るぞ」
暖簾があり、それを潜って中に入る。
その後ろをナタリーが恐る恐るついてくる。
中にはそれなりの人がいた。
席の8割が埋まっている感じだ。
「らっしゃい、ませー!」
ナタリーは、店員の大きな声にビクッとする。
それもそうだよな。
いきなり、意味わからん言葉を大声で言われたら驚くわ。
客も店員もむさ苦しい男たち。
油でつるつるの床やテーブル。
出される料理は不健康そうなこってりとしたスープと、そこに入っている太めの麺。
さらに、ずるずると麺をすする音。
これは知らない人からすると、結構怪しい店に感じるだろう。
特にナタリーのような令嬢が一人では絶対来ないところだ。
何を隠そう、ここはラーメン屋なのだ!
この世界にラーメンがあると知ったときの感動は計り知れない。
もう二度と食べられないと思っていたからこそ、涙するほど感動した。
俺とナタリーは空いているカウンターに座る。
「ナタリーは何にする?」
「え、えーと……オーウェンに合わせるわ」
しどろもどろになりながら、ナタリーは言う。
「豚骨ラーメン2つください!」
俺は目の前で額の汗を拭うおっちゃんに注文する。
「あいよ」
おっちゃんは短く返事をしたあと、「豚骨2つ入りましたァ!」と大声を出す。
その声にナタリーは驚いた様子を示す。
さっきからナタリーはびくびくしっぱなしだ。
ラーメンがあることと言い、この店の雰囲気と言い、日本人の影を感じる。
日本の記憶持ちの人がこの世界に転生し、この店を作ったんじゃないかとひそかに考えている。
ここの店主が自分で開発したものをラーメンと名付けたって説も考えられるが、それは偶然過ぎる気がする。
やはり、転生者が他にもいると考えるのが妥当だろう。
「ねえ、オーウェン。ここでほんとに大丈夫なの?」
俺の耳元でささやくように尋ねるナタリー。
「大丈夫だ。味の方は……好き嫌い分かれるかもしれんけど」
日本人の大半はラーメンが好きだが、その味に親しみがない人は、美味しいと感じにくいかもしれない。
ナタリーが不安そうにきょろきょろしていたときだ。
「へい、おまたせ」
どんっと俺たちの前にそれぞれ置かれたラーメン。
俺はフォークを持って、濁ったスープの中から麺を取り出す。
そして、口に入れた。
上手い……!
さっぱりしたクリーミーな味わい。
こってりした濃厚系も好きだが、こういうあっさり系のラーメンも良い。
俺がラーメンを口に入れるのを見ていたナタリーは、おずおずとフォークで麺を絡め取り、口に入れた。
「……」
彼女は、無言でもう一度ラーメンを食べた。
すると、
「美味しい……」
と、ぼそっといった。
「だろ!」
興奮のあまり、少し大きな声を出してしまった。
ナタリーは怪訝そうな顔を向けながら、
「これはあまり見ないけど……癖になりそうな味ね」
「そうなんだよ。今度、料理長に言って作ってもらおっかな」
料理長ならさらなる改良を加え、もっと美味しいラーメンを作ってくれそうな気がする。
と、ずるずるとラーメンを食べた俺たちは店をでた。
ラーメン屋に長居はできないからな!
「あー。食った、食った」
そう言いながらナタリーの方に視線を向ける。
「今から何する?」
「オーウェン。昔やってくれたあれやってくれない?」
「あれって何?」
ナタリーとは今まであれこれとしてきたから、今更あれと言われてもわからない。
いや、別に不純なことはしてないぞ。
ちょっと、あれこれしてきただけだ。
「空、飛びたいの」
ナタリーはそういった。




