80. 輪投げ
「よし、遊びに行こう!」
「え……今からお兄様の試合を見に行くのよ。遊びに行く時間なんて……」
「試合は見ない! 遊びに行く! 以上!」
「いや、でも―――」
問答無用と言わんばかりに俺は彼女の腕を掴みとる。
「ごちゃごちゃ言ってないでいくぞ!」
「行くってどこへ……?」
「だから、遊びにいくんだよ。今は四大祭だろ。祭りなんだから楽しまなきゃ損だろ」
「でも、私には明日の試合に備えて―――」
「あああああ! もうそういうのいい! 明日の試合のことなんか考えるな!」
「そんな身勝手なこと言わないで!」
俺は立ち止まって振り向く。
「身勝手で結構! 知ってるだろ? 俺はそういうやつなんだよ」
初めて彼女と会って、パーティーを連れ出したときだって、そうだ。
俺は自分のやりたいようにやる。
「じゃ、行くぞ」
彼女の手を引っ張ってしばらく歩く。
そうしていると、会場付近に着いた。
今日は四大祭ということだけあって、たくさんの屋台が展開されていた。
俺はその中で目当ての屋台を見つける。
「なあ、ナタリー。あれやろうぜ」
そういって輪投げの屋台を指差した。
この世界にも輪投げってあるんだな、と思って感動する。
「輪投げなんて……やったことないわ」
「大丈夫。俺がナタリーの分まで取ってやるよ」
屋台の前にある箱には、たくさんの輪が置いてある。
そして、屋台の中にはいくつもの棒が設置されており、そこに輪を入れると商品が手に入る仕組みだ。
つまりは、日本の祭りにある輪投げの屋台と同じってことだ。
「なんか欲しいものあるか……?」
「特にはないけど……。強いて言うなら―――」
ナタリーは指を指して、「あれがほしい」と言った。
それは、小さな熊のぬいぐるみだった。
「ああいうのが好きなのか?」
「何? ダメかしら?」
「あ、いや……ちょっと意外だったから」
ナタリーがぬいぐるみを抱いているところが想像できない。
いや、でもよく考えてみたら、ものすごく可愛いな。
熊のぬいぐるみを抱いて寝るナタリーとか最高じゃないか。
「よし、任せろ!」
俺は屋台のおっちゃんにお金を支払うと、投げ輪を3本もらった。
目指すはぬいぐるみの前にある棒。
あそこ目掛けて入れればよい。
なんなら、前世で輪投げのプロと言われた俺の実力みせてやろう。
輪投げにはコツがあるんだ。
まずは姿勢。
自分の利き足を前に出し、足先を目標に向けること。
そして、自分の中心に輪っかを持っていく。
ここで注意しておくのは、下手に体を前に出さないことだ。
目標との距離は近くなるが、その分不安定な態勢のため、輪っかが狙ったところにいかなくなる。
俺は投げる姿勢を作り、目標を見定める。
投げるときは押し出すように輪っかを投げ、手首のスナップは利かせないことが重要だ。
前世のころの動きを思い出しながら、すっと輪っかを投げる。
「全然、ダメじゃない」
ナタリーの指摘した通り、目標の手前で落ちた。
「あっれぇ……? おかしいな。俺の予想では華麗に決まっているはずなんだけどな」
ちなみにぬいぐるみは3本中2本同じ棒に入らなければ手に入れれない。
俺はもう一度集中し直して、投げた。
だが、結果は残念。
隣りにある棒に入ってしまった。
うーん、どうしよう。
隣のは藍色の羽のような形をした髪飾りだ。
もう、諦めてあれを狙うしかないな。
俺は残り一つとなった輪っかを右手で持ち、目標に向かって投げねらう。
輪っかは放物線を描いて、するりと対象の棒に入った。
「よっしゃあああ!」
俺はガッツポーズする。
まあ、目的のものではなかったけど、良いものをゲットした。
俺はおっちゃんから髪飾りを受け取ると、ナタリーに渡した。
「ほら、あげるよ」
男が付けてても仕方ないものだしな。
髪飾りはヘアクリップの形をしている。
「……ありがとう」
そういって彼女は髪飾りを受け取ると、光沢のある金色の髪に髪飾りを付けた。
「ど、どうかしら?」
ナタリーはもじもじしながら聞いてくる。
「え、あ……うん。めっちゃかわいい」
天使がそこにはいた。
あまりの眩しさに俺は目をそらした。
やっぱり、ナタリーは可愛いな。




