79. 信頼
「みつけた!」
ナタリーの肩がびくっと揺れた。
人が少ない場所。
彼女が一人になりたいとき、どこにいるのかはわかっている。
「オーウェンどうしてここに?」
「ナタリーが心配で追いかけてきた」
「なんでよ」
「だって、迷子の子供のような顔してたから」
ユリアンとナタリーの関係なんてわからない。
でも、彼女が動揺していたのはわかる。
そんな状態でほっとけない。
「私、そんな顔してた?」
「うん、してた」
なんなら、今この瞬間も不安そうに瞳を揺らしている。
「そう……。恥ずかしいところ……見せちゃったわね」
「不安なのか……?」
「……」
「ナタリーにとってお兄さんってどんな存在だ?」
核心をついた質問に、ナタリーは眉を寄せる。
答えたくない質問だったかな?
でも、きっとその問題をどうにかしない限り、不安は残る。
「……怖い。……私はお兄様が怖い」
たっぷりと時間を置いて答えたナタリー。
「怖いって?」
「あの人はなんでも私の上を行く。高いところから見下ろされて、お前はまだそこなのかって嘲笑われてる気がするの」
「それはユリアンさんの方が歳が上だから―――」
「歳じゃないわ。お兄様は私と同じ歳のときにはもっとすごかった。敵わないのよ」
「ナタリーだって凄いと思う」
「そんなことないわ」
ナタリーは、首を振ってきっぱりと否定する。
さっきはユリアンに啖呵を切っていた彼女だが、その瞳から諦念の色が見える。
「なあ、なんでそんなこと言うんだ?」
「なんでって……?」
「ナタリーの実力は本物だよ」
「そんなことないわ」
「いや、本物だ。そして、ナタリーが凄いってことを俺が保証する」
ユリアンがどれだけ凄いのかは知らない。
もしかしたら、ナタリーが幼いころに感じた印象が残っているだけかもしれない。
でも、それにしたって、ナタリーの自己評価が低い気がした。
いつもの彼女じゃない。
自信に溢れている彼女ではなく、これではまるで臆病な少女のようだ。
それはちょうど、ユリアンが指摘したように。
弱い彼女を見たくない、というのは俺のエゴだろうか?
「私の何を知っているのよ」
「ナタリーは雷魔法の天才だってことは知ってる」
「お兄様には敵わないわ」
「そんなの知らん。そもそもユリアンさんがどれだけの使い手か知らんし」
だって、見たことないし。
知らないのだから、どっちが上かなんて比べようもない。
「……?」
「ナタリーは強くて優しい。いつだって俺の側で励ましてくれる」
「今、そんなこと関係ないわ」
「関係ある。大ありだ。優しくて強いナタリーは凄い」
「……」
「それにナタリーは可愛い!」
これが一番重要だ。
ナタリーは文句なしにかわいい。
可愛さに関して言えば、ユリアンがどうあがこうがナタリーには敵わない。
「え、ちょっと。今、そんな話してないじゃない」
「そういう話をしてるんだよ。お兄さんに敵わない? そんなことは関係ない。ナタリーにはナタリーの良いところがたくさんあるじゃん」
「でも、戦ったら絶対勝てない」
「絶対なんてのは存在しない。それに、さっきもいっただろ。ナタリーは雷魔法の天才だ。それは絶対だ」
「絶対なんて存在しないんじゃないの?」
「い、いや……。これは……。これに関しては例外だ。あははは」
俺は「ごほんっ」とわざとらしく咳をしてから続ける。
「これまで雷魔法を極めてきたのは知っている。それをずっと隣で見てきたんだ。ユリアンに勝てない? そんなの知るかよ。ユリアンなんかぶっ飛ばせ」
自分の考えを押し付けているのはわかっている。
俺が辛いときに励ましてくれた彼女だからこそ、何かしてやりたい。
きっとナタリーのユリアンに対する印象は、言葉一つで変わるのではない。
でも、彼女に負けないでほしい。
ユリアンにではなく、自分自身に負けないでほしい。
「……私には無理よ」
ナタリーはうつむきながら呟いた。




