78. ユリアンの登場
2回戦を勝ち進み、3回戦までに1日の休みが与えられている。
ていうか、1日しか休みがないのか。
怪我は回復魔法で治してもらったが、連戦による疲労は残っている。
ハードだ。
決勝戦含めると、あと3回。
頑張るしかないか。
「はあ……」
「どうしたのよ」
ため息をついた俺にナタリーが視線をよこす。
現在、ナタリーとともに朝食を取っている。
ナタリーも2回戦を勝ち残り、今日は一緒に過ごすことになっている。
「いや……。一週間で5回戦まであるのってしんどいなって思って……」
「もう決勝戦まで行くつもり?」
「それもそうだな……。まずは、一つ一つの試合に全力を尽くすしかないな。それはそうと、今日はどうする?」
「お兄様の試合を見に行きたいわ」
観客席は試合が見やすい下の方の席に貴族や王族、もしくは高位の魔法使いが座れるようになっている。
上の席は平民が立ち見するようなスペースがあり、身分の違いが明確に出ている。
もちろん、俺とナタリーは座って試合を見ることができる。
ちなみに、1回戦のユリアンの試合は見に行くことができなかったため、今日が初めてユリアンの試合を見る日になる。
「ユリアンさんが2回戦に勝てば、ナタリーの3回戦の相手になるわけだしな」
「ええ。お兄様の実力をこの目で見ておく必要があるわ」
と、ナタリーがいったとき、
「へー、僕の試合を観に来てくれるのか」
どこからか、美少年が現れた。
金髪碧眼に少し下がった眉は、ナタリーに似ている。
「お、お兄様……。なんでこんなところに……。ここはサンザール学園の食事場所です」
四大祭参加選手のために、各学園ごとに食事場所が設けられている。
だから、ここに他の学園の生徒が現れることはないはずなのだが、
「ナタリーに会いに来たんだよ」
ナタリーの兄―――ユリアン・アルデラートは軽薄そうな笑みを浮かべた。
これがユリアンか。
ずっと話には聞いていたが、噂の通り、飄々として掴みどころのない人物に見える。
「私は会いたくありませんでした」
「冷たいこというなぁ。傷つくよ。こんなにも妹のことを大事に思っているのに」
「相変わらず、お兄様は思ってもいないことを言うのですね」
「ははは、本心だよ」
一見、ユリアンはナタリーと楽しそうに話しているように見える。
だが、目が笑っていない。
「明日はナタリーとの対戦だね。ナタリーがどれだけ強くなったか楽しみだよ」
「あなたに勝ってみせます」
「ナタリーが僕に勝つ? はっはっは、面白い冗談だね」
「冗談ではありません! 私も強くなりました」
「自分だけが成長しているとでも思っているんだ。相変わらず、可愛いね。僕の妹は」
すっと、目を細めてナタリーを見るユリアン。
ナタリーは一瞬、萎縮したように体を縮める。
「勝てないって……。どうしてあなたが決めるんですか?」
俺は2人の会話に割って入った。
「君が噂のオーウェンか。なるほど……」
ユリアンはなにかに納得したかのように頷く。
「ナタリーの魔法は全て僕の真似だ。ねえ、そうだろ? 昔はよく僕の後をついてきたじゃないか」
「……もう昔の私ではありません」
「ナタリーはずっと変わらないよ。ずっと、昔のまま、変わらない」
後半の言葉、ユリアンはわざと言葉を区切っていった。
まるで強調するかのように。
―――バンッ
ナタリーが机を叩いて立ち上がる。
「お兄様は! いつも、そうやって私を馬鹿にして!」
「馬鹿にしていないさ。ナタリーは何も知らないナタリーのままでいい。僕はそう思っているんだ」
「私はお兄様の玩具ではありません!」
彼女はそういってユリアンを睨んだ後、部屋を出ていった。
残された俺は、ユリアンを見る。
「あなたが思っているほど、ナタリーは子供ではありません」
「君はナタリーの何がわかるの? たった4年、一緒にいただけで彼女の何がわかる?」
「少なくとも、ユリアンさんよりはわかっているつもりです。そういうあなたこそ、ナタリーの何を知っているんですか?」
「臆病で弱くて、殻に閉じこもっている。それがナタリーだ」
「違います。ナタリーは勇敢で強く、周りを明るくできる子です」
俺はユリアンの目を見返す。
すると、ぞっと背筋が冷たくなった。
彼の瞳は何も写していないように見えた。
ナタリーの瞳が澄んだ青だとすれば、ユリアンの瞳は光が入らない海の底を思わせる青。
目を合わせているだけで、こちらまで深海に連れて行かれそうになる。
俺は強引に視線を外して、
「―――じゃあ、僕はこれで」
席を立って、ナタリーを追いかけた。
データが吹き飛んで投稿が遅れました!




