77.モネの決意
負けてしまった。
オーウェンに勝てなかった。
あと一歩のところで、体が持たなかった。
オーウェンと距離を詰めたときにむちゃをしたのだ。
そのせいで、足が動かなかった。
「僕、悔しい……」
トールは四大祭の出場選手として用意された部屋で呟く。
ベッドに腰掛け、隣にはモネが座っている。
「トールはよく頑張った」
モネがトールの手をにぎってくれた。
モネはトールがつらいときはいつも側にいてくれた。
ずっとモネと一緒だった。
トールは物心ついたときから、モネにべったりくっついていた。
それは幼い頃に両親をなくし、モネだけが頼りだったからだ。
お姉ちゃんについていけば問題ない、とトールは固く信じていた。
なんでもできるモネ。
たまに厳しいことを言われるが、それも優しさからくるものだと知っている。
トールにとって、モネは姉であると同時に母親のような存在でもあった。
でも、このままだとダメだな、と感じていた。
(お姉ちゃんの分まで頑張るって決めたのに……)
ユリアンが来てから、トールは言いようのない不安に駆られた。
(ひっついてばかりではダメだ。ずっと守られていてはダメだ。強くならなきゃ。僕は自分の足で立つと決めたんだ)
そう決意したものの、オーウェンに負けてしまった。
「お姉ちゃん、ごめん。お姉ちゃんの代わりにユリアンさんを倒したかった」
トールは悔しくて涙が出そうになるのを必死にこらえる。
「トールは凄いわ。オーウェン君をあと少しのところまで追い詰めたじゃない」
トールを握りしめる手の力を強くするモネ。
「でも、僕は……僕は、お姉ちゃんのためにも、勝ちたかった」
モネを負かしたユリアンに勝ちたい。
モネは接戦の末、負けたのではない。
相性の問題でもない。
明らかな実力差。
モネが何もできずに負けた。
そんなユリアンに勝ちたかった。
勝って、モネを安心させたかった。
「トールはもう一人前よ。あたしの後ろをついてくるだけの昔とは違う」
「お、お姉ちゃん……。僕はもっと強くなる……。強くなって、お姉ちゃんを守れるようになる! だから……」
どこにも行かないで、と続けようとした。
トールは自分でもなぜそう言おうとしたのかはわからない。
ただ、漠然とした不安から、モネが遠くに行ってしまう気がした。
「トールのくせに生意気よ」
モネは力強くトールの背中を叩く。
すると、バシッと結構いい音がした。
「い、痛いよ。お姉ちゃん」
「こんなんで痛いようじゃ、まだまだね!」
「……そんなぁ。酷いよ」
トールは背中を押さえて抗議する。
「いつ、いかなるときも襲撃に備えるべし! 我家の家訓よ!」
「だからって、こんなときに叩かなくてもいいのに……」
「油断している方が悪いのよ」
そう言ってモネは、高笑いしながらぺしっとトールの背中を叩いた。




