70. アルデラート家
翌日の昼休み、俺はナタリーと食事をしていた。
学食とは思えないほどの手の混んだ料理が並んでいる。
貴族でなければ気軽に食べられないものだろう。
実際、お金がない人は、自分で弁当を作ってきている。
この学園自体、貴族向けのような場所だから、仕方ないと言える。
どこの高級レストランだ、と思うくらい豪華なメニュー。
伯爵家なら払うことができる値段だが、庶民の感覚が残っている俺は、最初結構戸惑っていた。
慣れてしまった今の自分が怖い。
これが普通だと思っていると、家が没落した後に苦労しそうだ。
だけど、こうやって人はどんどん慣れていくんだろうな……。
パスタをフォークでくるくると巻きながら、ナタリーに話しかける。
「ユリアンって、ナタリーのお兄さんだよな」
俺がそういった瞬間、ナタリーは、手の動きを止めて、ナプキンで口元を拭いた。
「ええ」
「四大祭も出場するらしいな」
「そうよ」
ナタリーはぶっきらぼうに応えると食事を再開した。
なんか、ちょっとナタリーの機嫌が悪い。
「お兄さんとは、あまり仲が……」
おい、俺の口。
なに気まずくなること聞いてんだよ。
まあ、普段あんまり話してくれないし、こういうときに聞くしかないよな。
「別に、良くも悪くもないわ。ねえ、急にそんな話してどうしたの?」
「いや、特に意味はないけど……。少し気になって」
そうだよな。
言いたくない事情もあるよな。
無神経なことを聞いてしまった。
「お兄様のことはよくわからないわ。家でもほとんど話さない……。けど、あの人は才能人よ。お父様のお気に入りの。私は……なにをやってもあの人に敵わなかった」
ナタリーは、声を落とす。
「お兄様には誰も勝てない。あなたでもきっと……」
彼女はぼそっと呟いた。
■ ■ ■
その日の夕方、放課後の訓練所で爆発音がすると、小さく騒ぎになった。
ていうか、俺の魔法のせいだ。
爆音を聞いたクリス先生が駆けつけてきた。
「おい、オーウェンこれはどういうことだ?」
「あー、すいません。ちょっと魔法の練習をしていたら」
「それはいいんだが、凄い音がしたぞ」
「大丈夫です。被害は全くないですし」
「いや、お前丸こげじゃないか」
そういう俺の体はところどころ黒く焦げている。
正確には、俺以外に被害はないということだ。
「いや、まあ、ははは。防音付きの訓練所ってありますか?」
「そんなものはない」
「じゃ、校舎から遠いところは?」
「あるにはあるが、どうしてだ? なにに使う?」
「開会式で披露する魔法の練習です」
こう言っておけば、貸してくれる……はずだ。
「それなら……仕方ないな」
よし! と俺は小さくガッツポーズを作る。
「あ、そうだ。クリス先生。開会式でちょっと手伝って欲しいんですけど、いいですか?」
「なに手伝うんだ?」
「クリス先生の氷魔法を使ってちょこっと演出をして欲しいです」
俺は、「お願いします!」と両手を合わせた。
クリス先生の力を借りれば、さらに良い演出になる。
「クッキーを買ってきてくれたら、な」
この人、あの店のクッキー好きすぎだろ。
「ええ、もちろん」
俺はニヤリとした。
なぜなら、クッキーは箱買いしたからだ。
はっはっは。
と、心中で高笑いしていたら、
「ちなみに前の店は飽きたから、他の店な」
な、なんだと!?
俺の家にある大量のクッキーはどうするんだ!
「は、はい。……喜んで」
俺は先ほどと打って変わって声の調子を落とした。




