69. 訓練所にて
「カイザフさん。……どうしたんですか?」
「ちょうど、このあたりに用があってね」
そういいながら、カイザフは近寄ってきた
「いつもここで練習しているのか?」
「はい。先生に借りて使わせてもらってます」
「オーウェンは偉いね」
「いや、そんなことないです。ところで、カイザフさんも開会式で何か頼まれているんですか?」
「ははは。俺はやらないよ。そんなに珍しい魔法でもないし。そういう君は何か催しものを頼まれているようだね」
「えーと、まあ、はい。空を飛んでくれって言われました」
「それは雑だね。……いや、君に期待しているのかもね。オーウェンなら何かやってくれそうだって」
「買いかぶり過ぎですって」
そう言えば、開会式ってだいぶ力入れて準備してるって聞いたな。
今更ながら緊張してきた。
一生徒にそんな大きな役割を任せるなよって文句も言いたくなる。
「そうか。まあ、期待しているよ」
「ところで、他の学園で注目選手はいますか?」
ふっふっふ、リサーチは重要だぜ。
有力選手の情報を集めておけば、当日有利に試合を運べるからな!
「……そうだね。俺たちの代で言えばユリアンかな。確かワルツ学園の生徒だった気がする」
「カイザフさんよりも強いんですか?」
「初等部の頃、四大祭で優勝した男だよ。俺はベスト8までで負けたから、戦ってはいないけど」
「そのユリアンさんって、どんな人ですか? できれば得意な魔法とかも教えていただけると助かります」
優勝を狙うなら、どこかで立ちはだかろう相手だ。
できれば対策を打っておきたい。
「陰魔法の使い手だよ。もちろんアルデラート家お得意の雷魔法も使える。詳しくはナタリー君に聞いたほうが早いよ」
「えっと、それはどうして?」
「ユリアンはナタリーのお兄さんだからだよ」
「そうなんですか! 初めて聞きました」
ナタリーに兄がいることは知っていた。
だけど、ナタリーはあまり家族のことを話したがらない。
特に兄の話題になると、あからさまに話題を変えようとするところから、仲が良くないと思っている。
「ちなみに、カイザフさんから見たユリアンさんって、どんな人なんですか?」
「一言で言えば掴めない男……だね」
「掴めない……?」
「俺も一度しか関わったことがなくて、それほど知っているわけではないからね。そんな印象を受けたってだけだよ。それと比べるとナタリー君はわかりやすくていいよね」
「ナタリーって、わかりやすいですか?」
「うん。とても。オーウェンも気づいてあげてね」
「え、何を……?」
「いいや。なんでもない」
カイザフは意味ありげな笑みを浮かべた。
「あ、そういえば……。最近モネさんとどうですか?」
「どうしてモネが出てくるんだい?」
「いつも仲良さそうじゃないですか。2人は付き合っててもおかしくないと思ってますよ」
実際、2人が一緒のときを何度かみたが、お互い楽しそうにしている。
モネはカイザフに塩対応をしているが、憎からず思っているのは一目瞭然だ。
「ははは、冗談はよしてくれ。彼女と俺はそんな関係ではない」
「へー。じゃあ、どんな関係なんですか」
俺はにやにやしながら聞いてみた。
「敵対者……でいるべき関係かな」
おいおい、敵対者って物騒だな。
「えっと、それってライバルってことですか?」
「あ、ああ。そんなところだ。それより、悪いね。練習を中断させてしまって」
そう言ってカイザフは後ろに下がると、
「引き続き頑張って」
身を翻して、訓練所を出ていった。
その後、しばらく重力魔法の練習をした俺は、日が暮れた頃に訓練所を後にした。




