67. 予選会④
エミリアは空に浮いている一瞬の間に、会場一体を見渡す。
しかし、オーウェンがどこにもいなかった。
「ここにいるぞ」
その声につられて、斜め上に視線を移すと、そこにはオーウェンがいた。
彼が飛行魔法を使えるのは知っていた。
だが、あの一瞬で自分が空に飛び上がることを予測できるはずがない。
エミリアが風魔法を使って、10メートルまで浮き上がるまでの時間は約1.5秒。
その短時間で、ここまでの距離を一気に詰めるなんて、できるはずが―――
「鉄拳……!」
空中戦でオーウェンに敵うはずがない。
エミリアはオーウェンの一撃をモロに受け、地面に落ちていった。
「ぐがっ!」
背中が地面にぶつかり、激しい痛みが襲ってきた。
―――がはっ……
エミリアは一瞬、意識が遠のきかける。
だが、ここで諦めてはダメだと、意識をしっかり保つために唇を噛む。
そして見上げると、オーウェンが倒れているエミリアを見下ろして立っていた。
エミリアに向かって右手の手のひらを向けている。
「……降参……します」
エミリアの言葉に審判はオーウェンの勝利を告げた。
やっぱり敵うはずなかったんだ。
エミリアは、自分はなんてちっぽけな存在なのだろうか。
オーウェンという太陽のもとで光る小さな灯り。
輝いていることすら認識されない。
誰にも見向きがされない。
きっと、この一戦でエミリアが勝つと予想した者はいないだろう。
わかっている。
それでも勝ちたいと願ってしまった。
仰向けのまま、エミリアは空を見上げる。
すると、オーウェンが手を差し伸べてきた。
「まさか風魔法で空に飛ぶとはな。驚いたよ」
「読まれていたけどね」
「いや、たまたまだ。エミリアの防御が固いから、上空から接近しようと考えてたら、エミリアも空にいてびっくりしたよ」
そう言って、オーウェンは歯を見せてニカっと笑った。
(あー、ずるいな。悔しいな)
「私があんたに勝てるわけないでしょ。もう少し油断してくれても良かったのに」
「油断なんてできない。そんなことしたら、負けるだろ。エミリア強いし」
オーウェンはさも当然かのように言った。
(負けるって何よ。全然実力違うじゃないの)
誰も自分が勝つなんて考えていないと思っていた。
当然のようにオーウェンが勝利をする、とみんなが考えていたはずだ。
でも、オーウェンは違った。
エミリアが勝つ可能性を考えていた。
エミリアのことを評価してくれていた。
この気持ちはなんだろうか。
悔しいのに嬉しい。
オーウェンに認められたってことが嬉しかった。
「なあ、そろそろ手を取ってくれないか? ずっと、この状態だと恥ずかしいんだけど」
確かに不格好だ。
エミリアに手を伸ばしたまま固まっているオーウェン。
そんな彼の姿が面白く、エミリアはつい笑ってしまった。
「な、なんだよ……」
「なんでもないわ」
エミリアはオーウェンの手を取って立ち上がった。
負けたけど、すっきりした気分だ。
きっと、今後もオーウェンには勝てないだろう。
でも、それで良い気がしてきた。
諦めるわけじゃない。
その背中をずっと追いかけよう。
エミリアはそう思った。




