66. 予選会③
エミリアは、自分に特別な才能がないことを知っている。
この学園に来て、4年目。
努力ではどうしようもない壁が存在することを、嫌でも実感させられた。
それは、どれだけ足掻いてもがいても超えられない壁。
オーウェン・ペッパーは、自分と同じ歳の魔法使いでありながら、自分のはるか上をいく存在だ。
ベルクのように土俵が違う相手なら、嫉妬もしなかっただろう。
オーウェンはエミリアの一歩も二歩も先を走る。
その背中はどんどん遠くなっていく。
もはや別格の存在だ。
彼の1回戦の相手選手がすぐに降伏したが、エミリアはその選手の気持ちが痛いほどよくわかる。
勝てないのだ。
努力とか根性とか気持ちとか、そんな次元じゃない。
圧倒的な強者と有象無象の弱者の関係がそこにはある。
そんな強者に対して、弱者ができることは戦わないことだ。
逃げることしかできない。
エミリアは舞台の上に立ち、オーウェンと向き合う。
「エミリア。勝たせてもらうよ」
オーウェンが自信ありげに言ってきた。
それを言うだけの実力が彼にあることは知っている。
それだけ、実力差があるのはわかっている。
でも―――
「せいぜい、あがいてみせるわ」
エミリアだって負けたくはない。
簡単に負けてやるほど弱い存在に成り下がりたくはない。
審判は右手を手を上げる。
それを見たエミリアは、息を吸い、戦闘態勢に入る。
そして、審判が手を下ろし、開始の宣言をすると同時に、
「大火球……!」
オーウェンから直径1メートルを超える火球が放たれた。
初っ端から、大抵の生徒を戦闘不能にできるほどの魔法。
やはり、オーウェンは凄い。
だが、感心してはいられない。
「水の盾よ!」
エミリアは直線上に2つの盾を出現させ、大火球を防いだ。
当たり前だが、1つの盾よりも2つの盾の方が防御力が高い。
だが、エミリアがわざわざ盾を2つ作ったのには理由がある。
一つの強い盾を作り出すよりも、空間を空けて2つの盾を配置した方が、強固な盾となるからだ。
それで、ようやく火球を防ぎ切ることができた。
防戦していてはダメだ。
押し切られて負けてしまう。
だから、威力は弱い魔法を使ってでも、攻撃に転じるしかない。
「風の刃よ、切り裂け!」
エミリアは最短で発動できる魔法を放つ。
「土壁!」
だが、オーウェンの発動した壁によって魔法が防がれた。
そして、オーウェンは土できた壁を崩し、
「岩弾連打!」
複数の岩の塊に変えて、放ってきた。
「土の盾!」
複数の岩弾を土の盾で防ぐ。
土壁から岩弾にするのは、相当難易度が高いはずだ。
なぜなら、土壁の状態で半魔力状態にしておかなければならないからだ。
それを実戦でこともなげに使うオーウェンが恐ろしい。
そして、一撃が重い。
下手に力を抜くと、簡単に盾を貫かれてしまう。
たった数秒の攻防で、明らかに実力差があることを理解させられた。
その後、しばらく魔法を打ち合うものの、少しずつエミリアは追い詰められていく。
「炎柱……!」
エミリアの手から炎の柱が立ち、オーウェンに向かう。
「土壁!」
エミリアはあの土壁は崩せる未来が想像できない。
彼女の本気の一撃でようやく崩せるかどうかだ。
エミリアはどうにか土壁を壊せないかと、さらに魔力を込めたものの、結局壁が崩れることはなかった。
理不尽だ。
と、思っていたとき、オーウェンは土壁から体を出し、
「イフリートよ! 地獄の火炎をもって、焼き尽くせ!」
(しまった……!)
オーウェンにスキを与えてしまった。
彼の魔法の中で最も警戒すべき【イフリート】を使われてしまった。
エミリアには、あの魔法を防ぐ手段がない。
広範囲の魔法のため、会場に逃げ場はない。
使わせないために、間断なく攻撃を仕掛けていたが、判断を誤った。
やはり、勝てないのだろうか。
いや、それもわかりきっていたことだ。
自分とオーウェンとの実力差なんて、最初からわかっていた。
でも、それでも勝ちが欲しい。
(私だって努力したんだよ……!)
「風よ、巻き起こせ!」
エミリアは足に魔力を持っていき、足裏から風を起こした。
次の瞬間、風の力を使って一気に空を駆け上がった。
目下では、オーウェンの魔法がエミリアが立っていた場所を焼き尽くしていた。
なんとか、あの魔法を回避した。
一か八かの賭けに成功した。
練習時でも、この魔法を使って空に飛べるのは3回に1回程度。
でも、エミリアはそれをやり遂げた。
あとは、このチャンスを生かすしかない。
きっと、オーウェンはエミリアの行動に驚いているはずだ。
そう考え、彼が立っているであろう場所に視線を向けた。
「な……!?」
そこにオーウェンの姿はなかった。




