62. 日課
俺は女子寮までナタリーを送り届けたあと、学園に向かった。
そして、学園に入り、訓練場についた。
ちなみに初等部、中等部、高等部は全て同じ学園の敷地内にある。
夜の訓練場には、案の定、誰もいなかった。
入り口付近に荷物を置き、その場に座る。
そして、足を組んで目を閉じた。
瞑想するように深い呼吸を意識する。
吸うよりも吐くことに集中しながら、自分の中にある魔力に意識を向けた。
魔力はほんのりと温かみを持っている。
指の先まで魔力が行き渡るように、ゆっくりと体の中で循環させる。
そして、魔力の動きを少しずつ速くしていく。
魔力の循環速度が上がるにつれ、体温も上昇し、額から汗が滲み出てくる。
できる限り高速に動かし、もうこれ以上循環速度が上がらないというところで、速度をキープした。
額から伝ってきた汗がぽたぽたと地面に落ちる。
その状態で、約10分間、魔力を動かし続けた。
「ぶはああああ」
目を開けて、組んでいた足を伸ばす。
どっと吹き出した額の汗を手で拭う。
まだまだ無駄が多いな。
体温が上昇するのや、魔力循環で疲れるのは、魔力制御が下手だからだ。
達人になれば、息をするように高速で魔力循環を行えるらしい。
おそらく、ベルクなら同じことをやっても、全く疲れを見せないだろう。
しばらく、休憩した後、魔力制御の訓練に移った。
自分の魔力を外に出す、あれだ。
まずは、体内の魔力を右手に集中させる。
次に魔力を体外に放出し、10メートルくらい空中で動かした後、
「火球……!」
直径30センチの火球を出現させた。
こんなんでは戦闘では全く役に立たないな。
ちょっと相手を驚かせるくらいだ。
うーむ、中々難しい。
着実に飛距離は伸びているから、このまま頑張っていこう。
カザリーナ先生も、毎日の積み重ねが大事だって言ってたからな。
次の魔法制御に移る。
「火球」
先程と同程度の火球を作り出す。
そして、
「動き出せ」
火球を体の近くでうねうねと動かしてみる。
この制御も難しいんだ。
魔力と火球の中間の状態を維持しながら、魔法を使うため、緻密な制御が必要とされる。
火球はしばらくすると消えてしまった。
クリス先生のようにはいかないな。
その後、しばらく魔力制御の練習を行った。
「ふー、疲れた」
ちょっと、ひと休憩。
仰向けになって、星空を眺めた。
天体には詳しくないが、地球にいた頃の星の並びとは違うように見える。
今更だけど、前世とは違う世界なんだなって実感する。
文明も違うし、言葉も違う。
魔法だってあるんだから、最初からここは違う世界だとわかっていたけど。
ここは、たくさんの星が見える。
サラリーマンやっていた頃は、都会で暮らしており、星はほとんど見えなかった。
そもそも、ゆっくり星をみる機会もなかった。
しばらく、ぼぉーっと空を眺めた。
俺はドミニクを殺した翌日から、欠かさず魔法の練習をしている。
ちなみに、この訓練所はクリス先生から許可をもらって使わせてもらっている。
何事も一流になるには努力するしかない。
当たり前の話だよな。
まあ、魔法を極めることが苦だとは思ってないけど。
むしろ、どんどん上達していくことが楽しみにもなっている。
「よしっ」
休憩を終えた俺は、再び魔力制御を始めた。




