61. お茶
中等部の入学式は、初等部のときの入学式と似ている。
というか、ほとんど同じだ。
校舎が中等部になっただけで特に目新しいものはなく、式典は終了した。
そして、Aクラスに案内されて行くと、よく知っているメンバーたちがいた。
ベルクとかナタリーとか、その辺のことだ。
実力主義の学校だから、そうそう人が入れ替わることはない。
さらに、担任はクリス先生で、もう初等部の頃となんら変わりない。
「今年もお前たちを受け持つことになった。よろしく」
そろそろ他の先生になるだろうと思っていたから、だいぶ嬉しい。
クリス先生の授業が、一番わかりやすく、ためになるからな。
そうして、今日は午前で解散となった。
「オーウェン、行くわよ」
ナタリーは、ホームルームが終わると真っ先に俺の席まで来る。
「ちょっと待って。いま帰る準備してるから」
そういって荷物をまとめる。
今日はナタリーとお茶をしにいく。
所謂デートだ。
非リアのみんな、どうだ羨ましいだろう。
これがリア充というものだ。
と、調子に乗ってみる。
毎年、入学式後はナタリーとどこかに行くのが恒例だ。
大抵は商業エリア。
あそこ以外には行く場所ってないからな。
学園街を出て王都に行くのもいいが、それには許可が必要になる。
それは面倒ということで、俺たちは商業エリアの喫茶店にきた。
喫茶店内は少し暗く、各テーブルの上にランタンが置かれている。
建物自体が煉瓦でできていることもあり、おしゃれな空間だ。
これで俺もおしゃれ男子。
「ここ、よく来るのか?」
大通りから少し抜けたところにある、隠れ家的な場所のため、今まで存在すら知らなかった。
「初めてよ……。友達に聞いたの」
へー、そっかー。
友達かー。
ナタリーはエミリアと仲が良いし、エミリアにでも聞いたのかもな。
席に着くと、さっそくメニューをみる。
メニューは木の板に書かれており、そこもおしゃれだった。
もう、なんて言っていいのかわからんが、全てがおしゃれ。
どこを切り取ってもおしゃれ。
そして、その空間にいる俺も必然的におしゃれというわけだ。
これぞ、完璧な論法。
「注文決まった?」
「イエスマム」
「え、なんて……?」
「いや、なんでもない」
ナタリーは「すみませーん」と言って給仕を呼ぶ。
すぐにウエイトレスが注文を聞きにきた。
「あ、えーと、コーヒーください」
「私もコーヒーください」
注文したコーヒーが、すぐに運ばれてくる。
最近、ナタリーと一緒にいるのに随分と慣れたが、これってやっぱりデートだよな。
「何考えているの?」
「別に……なんでもない」
「そう? ならいいけど」
俺はコーヒーを口に流しながら、ナタリーの指先をぼーっと見る。
彼女は細い指で艶のある綺麗な髪を耳にかけた。
いつ見てもナタリーは可愛い。
「今年は四大祭があるわね」
そういって、ナタリーが視線を上げると、一瞬目があってドキッとした。
「あ、あー、あれか。4年に一回のやつね。武闘会の上位互換みたいな……」
「そうよ。知ってる? 今年の武闘会は四大祭の選手を決める予選になるらしいわ」
「らしいな」
「中等部から四大祭に出られるのは8人。オーウェンとは当たりたくないわ」
四大祭の予選会。
中等部の生徒だけで200人以上いるが、その中で四大祭に参加できるのは8人だ。
結構シビアな戦いである。
ただし、全員でトーナメントをやるわけではない。
予選会に参加できるかは、前年の成績によって決められ、64人まで絞られる。
そして、参加条件を満たしている者達でトーナメントを行い、勝ち上がった8人が四大祭に出場できる。
中等部全員でやるから1年生が不利だが、それは仕方ないらしい。
4年に一回しかないからな。
そこは運だ。
逆に俺たちは高等部2年生で四大祭に挑めるため、幸運な世代だ。
一番残念な代は初等部1年で出て、中等部2年で出る人たちだ。
どちらも微妙な年だからな。
「俺もナタリーとは当たりたくない」
実力的に言えば、俺、ナタリー、ベルク、そしてカイザフは四大祭に出られるだろう。
あとはエミリアとファーレンが、組み合わせ次第で行けるというところだ。
「そういえば、オーウェンとはまだ戦ったことがないわね」
「初等部のときの武闘会は、毎回同じチームだったからな」
「そして、毎回優勝ね」
そうなのだ。
俺とナタリーは初等部の武闘会の全てで優勝を果たした。
「ベルクが俺たちのチームを抜けると言ったときは焦ったな。ナタリー負けちゃうし」
「仕方ないじゃない。ベルクの強さは異常よ。化け物だわ」
3年生のときはベルクが敵チームになって戦った。
その結果、ナタリーが敗北したものの、ベルク以外のメンバーが強くなかったため、俺たちのチームはなんとか勝利を収めた。
ベルクはチートキャラだ。
彼は魔力を通しにくい特異体質であり、それは本人が魔法を使えないと言っていたことと関連がある。
一見、魔力を使えない体質はデメリットのように思える。
だが、同時に魔法の攻撃も受けにくいというメリットも存在する。
遠距離の攻撃が通じにくい。
さらに接近戦に強いベルクに近づくのは、自殺行為だ。
何気にベルクとは一度も戦ったことがないが、厄介な相手なのは間違いないだろう。
「ナタリーが負けるところ、初めて見たから新鮮だったな」
「次こそは負けないわ」
ナタリーは頬を膨らませる。
普段、クラスの中では見せない可愛らしい顔だ。
ぷつっとナタリーの膨らんだ頬を突っついてみたくなった。
でも、我慢しよう。
もう、そういうことやって良い年頃じゃない。
俺だって自重できるんだ。
「な、なにするのよ!?」
ナタリーが顔を赤らめて驚いた。
「膨らんでたから、つい……」
俺は悪くない。
俺は悪くないぞ。
俺の指が勝手に動いたんだ。
「なんで、突っつくのよ!」
「俺の指が勝手に?」
こら!
勝手に動くんじゃない!
この右手が悪いんだ。
全部悪いのはこいつだ。
俺はぺちぺちと右手を叩いた。
「はあ!? もう馬鹿!」
真っ赤な顔したナタリーに怒られてしまった。
俺の右手が悪いんだ。
この指が悪いんだ……。




