56. その後の顛末
事件から数日後、先生たちの調べにより、この件の首謀者が判明した。
首謀者は中等部の教師だった。
彼は学園で、魔石についての研究を行っていたが、それは表の姿。
裏では、瘴気を使った研究に手を染めていた。
そして、瘴気の塊を作ることに成功した。
だが、瘴気の塊は偶然一つ作れたが、再現性はないらしい。
そのため、さらなる被害はなく、調査は終了した。
ちなみに教師の言い分はこうだ。
「出来損ないを使って何が悪い! むしろ私の研究の役に立てたんだ! 感謝して欲しいな」
そう言って高笑いしていたとのこと。
マッドサイエンティストだ。
自分の研究のためなら、人が死のうがなんとも思わない。
この事件によって死亡した生徒の数は8名。
学園の敷地内で起きた大事件として、幕を閉じた。
クリス先生は、この顛末を話すときに納得していないようだった。
そして、俺は「小さな英雄」と言われるようになった。
街を救ったヒーローとのことだ。
その場を見ていた生徒がそうやって広めたらしい。
馬鹿馬鹿しい。
そうやって、もてはやされても嬉しくない。
「はあ……」
ホームルーム後の人がいなくなった教室で、机に伏せながらため息をこぼす。
「何、辛気臭い顔しているのよ。小さな英雄さん」
ナタリーが声をかけてきた。
誰もいないと思っていたが、彼女はまだ残っていたようだ。
「その呼び名はやめてくれ」
俺は顔だけ動かして、ナタリーを見る。
「そう? かっこいいじゃない」
「嫌なんだ。褒められるようなことはしていない」
自分のやったことを正当化して欲しくない。
簡単に認めてしまいたくないんだ。
「もしかして、ドミニクの死を悲しんでいるのかしら? 彼は死んで当然だったわ」
その言葉に驚き、ついナタリーの顔を凝視した。
今まで一緒に授業を受けていた仲ではないか。
仲が良いとは言えないし、ドミニクは嫌われていたが、死んで当然というのはいささか不謹慎な気がした。
殺した俺が言えることでもないか。
それに、クリス先生もドミニクの死に対し、悲しんでいる様子はなかった。
この世界の人は、人の死に対して、そこまで敏感ではないのかもしれない。
「何を悩んでいるの? ドミニクを殺したこと?」
「いや……。まあ、そうだな」
「優しいのね」
「優しくなんかはない」
「ねえ、オーウェン。この世には生きるべき人とそうでない人がいるの」
「唐突だな」
体を起こして、ナタリーの言葉を待つ。
「お父様がそう言っていたわ。私もその考えに賛成よ」
「それは極論じゃないか? 死んで当然だと思われている人でも、その人に生きていて欲しいと願う人もいる」
「そうね。でも、ここで言いたいのはそういうことじゃないの。助ける人と見捨てても良い人を選ばなくてはならないときがある」
「助ける人と見捨てても良い人……か」
「魔法使いとしても、貴族としても。力ある者として、今後選択を迫られることになるわ」
今までの自分の考えが甘かったのを痛感する。
力には責任が伴う。
それをどうするかは個人の自由だが、それによって引き起こされる結果には責任が伴う。
魔物を殺せる力。
一般人が束になっても敵わない力。
使い方次第では虐殺を行える力。
その力を持つということに責任が伴う。
救うことも壊すこともできる。
俺はどうなりたいんだろう?
立派な魔法使いってなんだろう?
「なあ、ナタリー。俺はすごい魔法使いになりたかった。そのために今まで魔法を学んできたし、今後もそうしていく。―――でも、初めてこの力が怖いと思ったよ」
ナタリーは俺の目を見つめながら、頷いた。
俺は胸の中にあるモヤモヤを吐き出すように続ける。
「魔法を覚えることが楽しいって。単純にそう思っていた。そして、強くなることが立派な魔法使いなることだって、そう信じていた。でも、違ったんだな。強さだけじゃ、ダメなんだ」
魔法は何のために使うかが大切だ。
カザリーナ先生が言っていた言葉が蘇る。
人を傷つけるための魔法を使ったら、自分も辛くなる。
相手を殴ったら、殴った自分の腕も痛むように。
縦え、それが正当な理由であったとしても、痛みは伴う。
俺は凶器として魔法を使いたいんじゃない。
「俺は身近な人を守れる魔法使いになりたい。そういう人になりたい」
また、今回と同じように、人を殺さなければならない時が来るかもしれない。
誰かを傷つけてしまう瞬間が訪れるかもしれない。
そういう場面に立たされたとき、どう行動すれば良いかはわからない。
でも、今回の事件でわかったことがある。
人を傷つける魔法よりも、人を喜ばす魔法を使ったときの方が全然楽しい。
ナタリーと一緒に重力魔法で飛んだときの方が楽しかった。
「でも、きっとまた、魔法で人を傷つけてしまう。そう思うと……怖い」
「でも、大切な人は傷つけないのでしょ」
「大切な人を守るために、他の人を傷つけるかもしれない」
「オーウェンは他人を守れる魔法使いになりたいのでしょ。それで良いと思うわ」
ナタリーはクルっと回って、
「先に帰るわね」
と言った。
そして、教室を出ようとしたところで彼女は振り返る。
「ねえ、オーウェン。あんまり一人で抱え込まないでね。オーウェンは大人びているから、全て自分で解決しようとしてしまうけど。……解決できてしまうかもしれないけど、あなたに頼られたい人だっているの」
「……ナタリー」
俺は彼女の後ろ姿を見送る。
そして、窓の外の夕焼けを見た。
真っ赤な空だ。
ドミニクのことを考えると、やるせない気持ちになる。
どうしようもなかった。
どうにかできたかもしれない。
終わってしまったことを、いくら考えても答えは出ないのにな。
俺は自嘲気味に笑った。
設定を少し変えました。
8歳から入学→11歳から入学
それに伴って、いくつか変更(主に年齢に関して)しました。




