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53. 殺人

 吹き飛ばされた際の衝撃により、肋骨が折れたのだろう。


 呼吸するだけで、体が痛い。


「があああああああ!」


 化物は逃げ遅れている人を見つけると、そちらに目標を変えた。


「オーウェンさん!」


 ファーレンが駆け寄ってくる。


「回復魔法を……」


「―――聖なる加護の力よ、汝を癒やせ」


 回復魔法により、体の痛みが一瞬でなくなった。


「あいつを救うのは諦めろ」


 俺は立ち上がって言った。


 場が混乱を極め、人々は悲鳴を上げて逃げ回っている。


 あれは、どこからどうみても化物だ。


 俺にはやつをもとの人間に戻せるとは思えない。


 たとえ、人間に戻したとしてもドミニクの人生は完全につんでいる。


 ファーレンは何も言わず、ギュッと拳を握る。


 彼女のその姿を尻目に、


―――身体強化


 背中を向けている化物に対し一気に距離を詰める。


「鉄拳……!」


 化物の背中に拳を入れた。


「ぐわああああああああ!」


 化物は、叫びながら振り返る。


 ギロリと俺を睨み、殴りかかってきた。


 俺は地面を蹴り、後ろに飛ぶ。


 化物の一撃は重いが、当たらなければ怖くはない。


 両腕に魔力を込めると、


「イフリートよ、地獄の火炎をもって、ドミニクを滅せよ」


 炎はドミニクを包み込み、燃え盛る。


「ギィヤアアァァァァァ」


 熱いだろ、ドミニク。


 さっきまでとは違って、本気で魔法を放ったんだ。


 お前を倒すためにな。


 俺は、スッと右手で銃の形を作る。


「銃弾」


―――ドンッ


 右肩に衝撃がくると、同時に怪物の左肩に穴が空いた。


「ぎやあああああぁぁぁぁぁぁ!」


 ドミニクは痛みにより、暴れまわる。


 俺はもう一度、人差し指を怪物に向ける。


「銃弾」


―――ドンッ


 次はドミニクの腹に穴が空いた。


 怪物に人差し指を向ける。


「銃弾」


―――ドンッ


 右肩の感覚がなくなった。


 怪物の胸に穴が開く。


 まだだ。


 確実に仕留めなければ。


 最後に、怪物の頭―――ドミニクに向けて、


「銃弾……!」


―――ドンッ


 ドミニクの額に小さな穴が開いた。


 そして、ドミニクはうつ伏せになって倒れ込んだ。


「ドミニク……さん?」


 ファーレンがよろよろとドミニクのもとに行く。


 だが、ドミニクの体は手足から順に灰になっていく。


「そんな……どうして……」


 それを見たファーレンは、ドミニクの体に手を置き、


「女神の加護をもって、汝を癒やせ」


 ドミニクに回復魔法を施す。


 しかし、ドミニクの灰化は止まらず、とうとう胸の位置まで灰となる。


「癒やせ!」


 ファーレンはもう一度回復魔法を使うが、無駄だ。


「死んだよ……。俺が殺したんだ」


「まだです! まだ、なんとかなります!」


 ファーレンの叫びも虚しく、ドミニクは顔だけを残して灰となった。


 やつの体からは、魔石が出てきた。


 白く濁った色の―――魔瘴石だ。


「どうして殺したのですか?」


 化け物だったからだ。


 魔物が学園の敷地内に現れたから退治した。


 それだけのことだ。


「なんとか言って下さい!」


 フォーレンは声を荒げる。


「ドミニクは、もうどうしようもない状態だった」


「私なら、なんとか―――」


「黙ってくれないか!?」


 声を荒げた俺に、ファーレンはビクッと肩を揺らす。


「ご、ごめ……」


 俺は視線を上げて、ファーレンを見ようとした。


 だが、その途中でドミニクの死体と目があう。


―――お前が俺を殺した。


 ドミニクがそう言っているかのように見えた。


 彼の顔を死を見た瞬間、急速に吐き気を催す。


 腹の底から、こみ上げてくる異物。


「ごぁっ……がっ……」


 俺は、下を向いて石畳にぶちまけた。

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