52. 化け物
俺たちは商業エリアの一角、秘密の部屋の前に到着した。
「どうする?」
ここから先に入る手段がない。
「オーウェンさん。昨日の魔法、もう一回使えますか?」
「わかった」
俺はレンガに手を当て、風魔法を使おうとしたときだ。
―――ドガン!
何かが壁にぶち当たる音がした。
俺は後ろに身を引く。
―――ドガッ、ドガッ!
「距離を取れ!」
ファーレンにそう言いつつ、俺もレンガから離れる。
次の瞬間、
―――ドカアァァァン!
けたたましい音とともにレンガが崩れ落ちる。
そして、
「ウルアアアアアアアァァァァァァァァァ!」
なんだ、こいつは……?
なんで、ここに化け物がいる?
なんで、こんなところに魔物がいるんだ?
視線を上げると、
「ド、ドミニク……か……?」
ブクブクに膨れ上がった体に、グロテスクな紫色の肌。
だが、顔はドミニクだった。
魔物の体にむりやり、ドミニクの頭をすり替えたような気味の悪さがある。
そして、化け物の後ろがちらっと、視界に入った。
「おえっ……」
口元に手を置き、吐き気を抑える。
壊れたレンガの後ろには、人の死骸が転がっていた。
なんなんだ……。
何が起きている?
よく見ると、ドミニクの体にはべったりと血が付着していた。
「お、お前はドミニク……か?」
口を抑えたまま、怪物に尋ねる。
だが、返事はない。
その代わりに、
「ぐらああああああああああ!」
怪物の叫び声が響いた。
そして、化け物は、腕を振り下ろした。
「クソッ……!」
後ろに飛んで避ける。
どうする……?
俺はどうすればいい?
逃げるべきか?
だが、ここで化け物を野放しにしたら、街の人に被害が出てしまう。
それはダメだ。
「ドミニクさん!」
ファーレンが叫んだ。
違う。
あれは、ドミニクじゃない。
化け物だ。
「ああああああ!」
化け物は一歩踏み込み、右腕を振ってきた。
―――身体強化。
俺は両腕に魔力を込めて、受け止める。
だが、足の踏ん張りが利かず、吹き飛ばされる。
そして、後ろにいたファーレンにぶつかった。
「きゃっ……!」
化け物は理性を失っているようで、あちこちの建物を壊し始める。
そのスキをついて、俺とファーレンは立ち上がる。
そして、路地裏を走る。
まずは距離を取らなければ。
「先生を呼んでこい!」
「駄目です! 私は引けません!」
「邪魔なんだよ!」
俺を一人にさせたくないと思っているのか?
ハイオークの戦いから戻ってきたときのように。
「私の力なら救えるかもしれません!」
ファーレンが言ったと同時に、
「あああああああ!」
怪物は、いつの間にか俺たちの真後ろに来ていた。
そして、右腕を振り下ろす。
俺はファーレンを抱えて横に飛び、地面を転がる。
ちょうど俺たちがいたところの石畳が砕ける。
ファーレンを左手で抱えながら、右手に魔力を込める。
「大火球……!」
化け物の頭に目掛けて放つ。
「がああああぁぁぁぁぁ!」
怪物は魔法が直撃し、よろめく。
顔を抑え奇声を上げながら暴れまわった。
俺はファーレンと一緒に立ち上がると、路地裏を抜ける。
大通りに出ると、結構な騒ぎになっていた。
化け物は路地裏から出てきた。
―――キャアアアアアアア
―――な、なんだ! あいつは!?
―――うわあああああ
化け物の姿を目にした人々が逃げ惑う。
俺は両腕に魔力を込める。
「大火球……!」
直径1メートルの火球を放った。
「ああああああああ!」
化け物は膝をつき、うめき声を上げる。
顔は焼け爛れ、もとがドミニクの顔だったかすら、わからない。
「やめて下さい! あれはドミニクさんです!」
「そんなのわかってる!」
こんな状況で、ドミニクを気にかける余裕なんてない。
やらなかったらやられる。
「イフリートよ、地獄の火炎をもって―――」
ドミニクがよろめいているところで、決着をつける。
決着ってなんだ?
この化け物を殺すのが決着か?
ドミニクを殺すことか……?
考えるな。
「オーウェンさん!」
ファーレンは、そういって俺とドミニクの間に入った。
すると、
「何をしている!?」
魔法を急に止めるが、その反動で魔力が体に流れ込み、ふらつく。
「私が彼を救います!」
そんなことできるのか?
聖女ならできるかもしれない。
でも、こいつを救ってどうする?
怪物がぬくっと起き出し、ファーレンに向かって腕を振ったのが見えた。
俺はファーレンを引っ張り、そして、
「グハッ……!」
次の瞬間、真横にふっ飛ばされ、石畳の上を転がった。




