47. 尾行
翌日――俺たちは授業が終わるとドミニクを尾行した。
ドミニクは商業エリアに向かっていった。
ひっそりと、それに着いていく……探偵ごっこ。
たまにドミニクが後ろを振り返るため、そのときはスッと物影に隠れる。
確かに、ドミニクが怪しいことやっている……気がする。
ドミニクは急にキョロキョロし始め、そして、ふっと路地裏に入った。
「ファーレン、行くよ!」
「はい!」
俺たちもドミニクに続いて路地裏に入る。
横幅3メートルぐらいの少し広め場所で、建物と建物の間を通って歩く。
そして、しばらく進んだ先は―――行き止まりだった。
「どういうことだ?」
「わかりません……。ドミニクさんはどこに行ったのでしょう?」
ドミニクは確かにここに入ってきた。
路地裏に入ってから一本道であり……その途中で建物に入れるような扉もなかった。
目の前にはレンガがあるのみ。
「うーん……」
俺は顎に手を置いて考える。
こういうときって隠し扉があったりするんだよな。
……ていうか、あって欲しい!
その方がワクワクするからだ。
目に魔力を込めれば、何かしら魔法の痕跡が見えるはず!
と勝手な推測のもと試したが、何もなかった。
目に魔力を込めたところで、魔法の痕跡や魔力は見えたりしないようだ。
「オーウェンさん。……あそこの先から嫌な気配がします」
そういって、ファーレンは行き止まりを作っているレンガを指差した。
「そんなの全然感じないけど……」
「ドミニクさんから感じた嫌な魔力……それがこの奥からも感じます」
「え、そんなこともわかるの?」
「彼の魔力は特殊ですからね」
ファーレンって探偵向いているかもな。
俺はレンガをペタペタと触ってみる。
この先に秘密の部屋があるってか?
隠し扉を開けるときの呪文って言ったら、あれしかない。
「―――開けゴマ!」
……………開かないな…………。
「オーウェンさん……? 何を言っているのですか?」
やめて……そんな哀れな子を見るような視線向けないで。
俺だってこんな合言葉では開かないと思ってたよ。
やってみたかっただけだ。
「本当に……ここの奥にドミニクがいるんだな?」
気を取り直して真面目な顔をして言った。
「それはわかりません。ただ―――いる可能性が高いです」
俺は「そうか」と一言頷くと、レンガに触れる。
「ちょっと黙っててくれるか?」
「は、はい。……何をやるのですか?」
「盗み聞きだ」
俺は、右手に魔力を込める。
「風よ、言葉を導け」
風を通じて音を伝える魔法。魔法を遠距離まで届ける魔法制御技術がいる。
ただし、必要な魔力量自体は少ないため攻撃魔法よりは扱いやすい。
遠距離に声を届けるということを想像できるかが、この魔法の肝になってくるわけだが……。
俺はそもそも、電話という存在を知っている。
遠く離れた人と会話することに違和感がない。
風魔法を使ってレンガの奥の音を盗み聞く。
対象はドミニク。
俺はドミニクに届くように意識しながら、風魔法を操作した。
しばらくすると、ザザザっという雑音が聞こえてきた。
そして、
「……ド…………さ……」
ようやく、風魔法が対象に届いたようだ。
だが、精度が悪くて全然聞こえない。
「あ…………ない……はや…………」
かろうじて、ドミニクらしき声が聞こえる。
やはり、やつはこの中にいるようだ。
俺はさらに風魔法の精度を上げる。
「ドミ……。これ以上のせ……危険だ」
「危険……? はんっ。……お前……一緒にす……」
「おい、……まり……に乗るなよ。1年の分際……」
「1年がどう……この中で俺が…………、そして……侯爵だ。……違うんだ」
何を言っているかわからん、全然聞き取れん。
隣で静かにしているファーレンも、首を傾げている。
何か危ないことをやっている……のか
詳細な情報が入ってこない。
とそんなとき、
「ここで何をしている!?」
気がつけば、後ろに少年が立っていた。
俺たちよりも少し年上―――おそらく中等部の生徒だろう。
俺は風魔法を止めてファーレンを見る。
「逃げるぞ―――!」
重力魔法を使って逃げるのは悪手。
学園で重力魔法を使えるのは俺しかいないから、バレてしまう。
まあ、バレて問題があるがわからんが……。
あまり良い印象は抱かれないだろう。
「誰だお前達! ここで何をしていた?」
そんなの正直に答えるわけないだろ。
重力魔法を使わずに逃げるなら―――身体強化!
「行くぞ!」
ファーレンの手を引き、そして、彼女を両腕で抱きかかえた。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
「きゃっ……!」
可愛い声を出すなよ……。
つい、手を離しそうになったわ。
次に足に魔力を集中させる。
膝を曲げ、地面を思いっきり蹴った。
「……な……っ」
少年の頭上を跳び超える。
地面に着地すると、彼女を抱きかかえたまま走り出す。
「おい待て!」
少年は追いかけてくるが、身体強化を使っている俺には追いつけないようだ。
ファーレンを抱えていようが、生身の人間より早く動けるのだ。
路地裏を抜けてからも、しばらく走る。
そして、追手がいないことを確認すると足を緩めた。
「あの……オーウェンさん……?」
ファーレンは恥ずかしそうに俯いていた。
「ああ。すまん」
ファーレンを下ろして、もう一度後ろを確認する。
「追ってきてはいないようだな」
「そう……ですね……。ドミニクさんは、危ないことをしているのでしょうか?」
「わからん」
ひょっとしたら……秘密の部屋でお料理教室をやってるだけなのかもしれん。
まあ、そんなことはないだろうけど。
ドミニクがどういう目的で何をやってるかは……情報がなさ過ぎてわからん。
「もっと調べたいです」
ファーレンは俺の袖を引いて言った。
「それをやって何の得がある―――?」
そこまで頑張る意味がわからない。……ていうか、メリットがない。
他人のために自分を犠牲にできるのは、素晴らしい人間だろう。
俺だって親友や家族、恋人のような大切な存在だったら、なんとかしてあげたいと思う。
―――自分の命すらかけられる。
でも、相手はドミニク。
どうしようもない野郎だ。
「私の自己満足です。彼がもし危ないことをやっているのであれば……救いたい。これは私のためです」
「きっとドミニクはそんなこと望んじゃいない」
「そうかもしれません。でも……私がそうしたいんです」
ファーレンは以前見せた決然とした瞳で告げた。
あの危うさを含んだ瞳―――そんなのを見せられたら、
「……わかった。俺も手伝うよ」
断ることはできない。
このまま彼女に何かあったら寝覚めが悪い。
それに……最初に手伝うって言ったんだ。
最後までやりきるのが男だろう。
「ありがとうございます!」
ファーレンはパッと表情を明るくした。




