39. 夜風にあたって
その日の夜、寮の前でばったりとカイザフに会った。
カイザフは白いシャツに短パンと、ラフな格好をしていた。
ここで、カイザフに会うのは偶然でもなんでもない。
サンザール学園から来た生徒は、同性なら同じ階に振り分けられている。
「オーウェン。こんな夜にどこか行くのか?」
「ちょっと、夜風にあたりたくて……」
「俺も行くよ。ここだとやることがないからね」
俺たちは寮を出て、しばらく外を歩く。
そして、芝生のところにつくと、
「ここら辺で座ろうか」
カイザフが腰を下ろした。
俺もカイザフの隣に座る。
この世界は日本と同じように春夏秋冬がある。
今は夏の終わりだ。
昼はまだまだ暑いが、夜になると涼しくなる。
「夜風が気持ちいいね」
「は、はい」
カイザフは芝生にゴロンと寝転がった。
数分間、お互い無言のままでいると、
「それで、何かあったのか?」
カイザフが突然聞いてきた。
「……何かあるってほどでもないですけど。ちょっと、自分が情けないなって思いまして」
「情けない? それはどうして?」
「今日、手合わせした相手に負けてしまいました」
「俺を倒したオーウェンが、負けるとは。相手は相当手練なのかな?」
「いえ……。ただ、魔法を使うなっていう制限のもとでの試合だったので。でも、もし魔法を使えていたら……」
そもそも、魔法使いの俺が、ゴリゴリ身体強化を使う相手と近接戦闘しても、敵うわけないよな。
そう考えると、俺、別に負けてなくね?
そうだ。
魔法を使って戦えるなら、俺だってもっと戦える。
もともと、不利な勝負だったんだ。
仕方ない。
「君は負けたことが悔しいのかい? それとも、負けたのは状況が悪かったと言いたいのかい?」
「え……?」
「俺はね。一度君に負けた。あのあと皆に、不意を突かれたから負けただけで、実力ならカイザフの方が上だ、と言われたよ。でも、俺は君に負けた。―――それが事実だ」
カイザフは続ける。
「君に負けたときは、俺も言い訳をしていた。それこそ、皆が言うように、オーウェンが空を飛ぶってわかっていれば、撃ち落とすこともできたってね。風魔法なら、空にいようがいくらでも攻撃できる。むしろ、格好の標的だ。実際、次戦えば負けない自信はある」
「カイザフ……さん?」
「魔法が使えないってのは君に不利な条件だったと思う。俺も魔法が使えなかったら戦えないからね。気持ちはわかるよ。それで、君はどうしたいんだい? 魔法が使えれば勝てたって言いたいだけ?」
そうじゃない。
負けた言い訳をしたいんじゃない。
「そんなの、カッコ悪いじゃないですか」
立派な魔法使いになるという目標がある。
負けたのは魔法が使えなかったから?
状況が悪かったから?
相手に騙されたから?
それらが全て事実であろうと、俺は負けを認めなくちゃいけない。
ここで、言い訳しているようじゃ、一流の魔法使いにはなれない。
「僕は、強くなりたいです」
弱い自分が嫌だ。
でも、弱さを認めないで強くはなれない。
「うん。君らしくて良い答えだ。俺を倒しただけはあるね」
カイザフは「よっ」といって、体を起こす。
そして、立ち上がり、パンパンと服についていた芝生を払う。
「じゃあ、行こうか」
カイザフは俺に手を差し伸べながら言った。
「え? どこにですか?」
「女子寮に潜入するんだよ」
――――は?
この人、真顔で何いってんの?




