29. ハイオークとの戦い②
ハイオークの『雄叫び』は、ただの威圧ではなかった。
重力魔法の制御ができなくなり、体が思い通りに動かせなくなる。
もしや、今の『雄叫び』は一時的に相手を硬直させるものか……?
だったら、相当まずいぞ。
俺は、地面に急降下していく。
やばい、やばい、やばい、やばい。
なんとか、魔力を操作し、
「―――引力解放!」
地面に落ちる直前に、重力魔法を使ったが、間に合わなかった。
―――ドンッ
左肩から地面に落ち、鋭い痛みが走る。
「ぐはっ……!」
めちゃくちゃ、痛い。
痛すぎて涙が出てくる。
ハイオークを俺一人で対処できるわけがない。
こういうのはプロの人に任せるものだ。
「うっ……」
俺は痛みを堪えて、立ち上がる。
これは、左肩の骨が折れているだろうな。
落ちたところは、ハイオークから少し離れたところだったため、すぐには襲われることはなかった。
不幸中の幸いというやつだ。
だが、空に飛んで逃げるという選択肢はなくなった。
「俺に、戦えってことか……?」
無茶言うなよ。
ゲームと違って、死んだら蘇生とかできねーんだよ。
ゲームオーバーがそのまま死に繋がる。
だが、ハイオークは俺の思考を待ってくれるはずもなく、俺の方に走り出してきた。
「……やるしかねーのか」
俺は、すかさず右手に魔力を移動させ、イフリートを思い浮かべる。
魔法使いは遠距離での戦いが得意だ。
それは、詠唱や想像に時間を使えるからだ。
同じ魔法であっても、具体的に想像したものの威力は、桁違いだ。
想像するのは、イフリートの必殺技。
前世でやっていたRPGの必殺技のシーンを事細かに思い浮かべる。
そして、
「イフリートよ、地獄の火炎をもって―――」
俺が詠唱を開始した瞬間だ。
「オーウェンさん!」
なんで、ここにファーレンがいる!
逃げたんじゃないのか!?
ハイオークは、ファーレンの存在に気づき、口の端を吊り上げた。
そして、手に持っていたこん棒を、ファーレンに向かって投げる。
―――まずい!
俺はとっさに、 魔法を放つ方向を変えた。
「―――ファーレンを守れ!」
間に合ってくれ!
こん棒がファーレンに届く前に、俺が放った炎がファーレンを守った。
しかし―――。
「がっ……!」
ハイオークに横腹を蹴られた。
ハイオークは贅力を駆使し、一気に距離を詰めていたのだ。
防御態勢も何も取らない状態で、攻撃を受けてしまった。
そして、真横に吹き飛ばされ、左腕から大木にぶつかる。
「―――ガハッ」
あまりの衝撃に、意識が飛びかけた。
だめだ。
こんなところで、意識を失っては殺される。
ハイオークは、すぐさま俺へと接近してきた。
「光の槍よ! 貫け!」
ファーレンがハイオークに槍を放つのが見えた。
しかし、バリンという音とともに、ハイオークの腕によって粉砕された。
絶体絶命だ。
体は死ぬほど痛いし、意識を保つので精一杯だ。
でも、死んでやるつもりはない。
俺は、立派な魔法使いになる男だからだ。
ハイオークに向けて、右手の人差指を向ける。
親指と人差し指を伸ばし、他の指を曲げる―――指鉄砲の形を作った。
この技はあまり使いたくなかったが、
「銃弾よ! ぶち抜け!」
―――ドンッ!
俺の人指し指から、10ミリほどの黒い塊が飛来する。
それと同時に、右肩が外れるほどの衝撃を受けた。
この技は高威力だが、反動が凄まじい。
「がああああああああ!」
ハイオークに命中した。
だが―――
「くそっ……外した」
ハイオークの肩に当たっただけだった。
ハイオークは怒りを携えて、右腕を振り上げる。
「いでよ、氷の矢、貫け……!」
一本の太い氷の矢がハイオークの胸を貫いた。
胸に大きな穴をあけたハイオークは、その場に倒れ、灰となって消えていった。
俺はその光景をみた瞬間、安堵のあまり意識を失った。




