30. 逃走
オーウェンがハイオークと対峙している頃、エミリアは走っていた。
隣ではファーレンが並走している。
「オーウェンさんは……大丈夫ですよね……?」
息を切らしながらファーレンが聞いてくる。それに対しエミリアは、
「そんなの……。私にわかるわけないじゃない」
「で、でも、オーウェンさん、飛行魔法使えますし……」
「飛行魔法なんて……なんの頼りにもならないわ」
あれが、本当にハイオークだと言うのなら【雄叫び】が使われる可能性がある。
ハイオークの雄叫びには、相手を硬直させる効果がある。
もし、飛行中に雄叫びを使われたら、魔力制御できず地面に落ちるだろう。
オーウェンも、その程度の情報は知っていたはずだ。
知っていた上で、エミリア達を逃してくれた……とエミリアは考えている。
「―――飛行魔法では逃げられない」
「そ、そんな……。では、オーウェンさんはハイオーク相手に一人で……?」
「クリス先生が来るまで……耐えるつもり……みたいね」
エミリアがそういった瞬間、ファーレンは立ち止まった。
それにつられ、エミリアは後ろを振り返る。
「助けに行きます!」
「何……言ってるの? 行ったところで無駄よ」
「それでも―――。オーウェンさんが頑張っているのに……私だけ逃げるなんて……」
そういったファーレンは踵を返し、来た道を戻ろうとした。
「ま、待ってって!」
エミリアの静止も聞かず、フォーレンは走って去っていく。
「なんなのよ……あの子は……。だから嫌いなのよ……」
自分を清廉潔白の少女だと思っているのだろうか?
助けに行ったところで……自分たちではどうしようもないなのに。
「……そういう無駄な正義感はやめて欲しい」
エミリアにはクリスを呼びにいく責任がある。
それが、オーウェンから託された自分の役割だ、と彼女は思っている。
エミリアはファーレンと反対方向に走り出す。
だが……数歩動いたところで足を止めた。
走って先生のところに向かっても間に合わないのではないか?
そんな思考がエミリアの頭を過る。
何が最適か?
一番早く先生をオーウェンのところに向かわせる方法。
ほんの一瞬下を向いて考える。
直後、空に向かって魔法を放った。
「―――炎柱!」
そうして、空に向かって炎の柱を作り出す。
これで、クリス先生なら何かあったと気づいてくれるはずだ。
が―――しかし、
「ぎゃぎゃぎゃ……!」
ゴブリンを引き寄せてしまった―――。
そんな目立つことをすれば、魔物が近くに寄ってくるのも当然だった。
1体なら良い……だが、数が多い―――6体のゴブリンに囲まれた。
「もう! なんで私がこんな目にあわなきゃいけないのよ!」
悪いのはドミニクだ。
ファーレンも自分勝手に行動するし……。
エミリアは苛立ちを隠せない。
一人で6体のゴブリン相手は……さすがに荷が重い……。
それに、炎柱を放ったことで魔力をだいぶ消費してしまった。
「ドミニクに会ったら引っ叩いてやるんだから」
エミリアが涙目で言ったときだ。
「―――――――氷結」
氷が意思を持っているかのように動き、6体のゴブリンを飲み込んだ。
そして、ゴブリンを生きたまま氷の中に閉じ込めた。
「砕けろ―――!」
パリンという音とともに、氷が砕ける。
そして―――氷の中にいたゴブリンは灰となって消えていった。
「せ、先生……?」
エミリアは安堵のあまり、パタッと地面に座り込んだ。
「何があった……?」
クリスがエミリアに近づきながら尋ねてきた。
「この奥で……ハイオークに遭遇して……それでオーウェン達が……」
「……そうか。途中でドミニクにもあったが……そういうことか」
クリスは一人で納得すると、
「どっちの方角だ?」
「ここをまっすぐです。移動していなければ……ですけど……」
「わかった。すまないが、ここで待っていてくれ。すぐに他の先生が来る」
クリスはそういうと、身体強化を使って一気に駆け出した。
そのクリスの後ろ姿を見送ったエミリアは、
「どうか、無事でいて……」
と祈った。




