23. 武闘会③
翌日、俺は決勝戦に備え、舞台の前で待機していた。
今はベルクの試合中だ。
だけど、ベルクを応援するよりも、次の自分の試合のことを考えている。
ベルクならきっと勝ってくれる。
2回戦までの戦いで、それは確信している。
つまり、俺の試合が大一番になるわけだ。
「あー、緊張してきた」
いきなり決勝戦の舞台。
緊張しすぎて、ゲロ吐きそうだ。
大勢の人の前に立つの得意じゃないんだよ。
それでも、戦い勝ちに行くと決めた。
馬鹿にされたままは嫌だ。
なにより、俺の力を信じてくれているナタリーの期待に応えたい。
「大丈夫よ。オーウェンなら誰が相手だろうと負けはしない」
そう言って、彼女は俺の手を握ってくれた。
「ありがとう」
まじでナタリーは天使だと思う。
この子が天使じゃなかったら、世の中の天使は全て堕天使だ。
地に落ちて、ナタリーに平伏せ、と言いたくなる。
というのは冗談だけど、彼女は本当にいい子だ。
そうして待機していると、ベルクが勝利を収めて戻ってきた。
あとは、俺が勝てば優勝だ。
「オーウェン。絶対勝ってね。―――勝って、あなたの実力を見せてきて」
「ああ、任しとけ」
俺は拳を握り締め、腕を上げた。
「行ってくる」
「それでは、次の試合! 1年生チームは……なんと! オーウェン・ペッパー!」
実況者の声とともに、俺は舞台に足を踏み入れた。
大勢の人に奇異な視線を向けられている気がする。
―――なんだよ、オーウェンかよ。
―――あーあ、この試合つまんないわ。
―――俺はナタリーちゃんが見たかった。
自分が好意的に見られていないことが伝わってきた。
「オーウェン、頑張れ!」
そんな中、舞台裏からナタリーの応援が聞こえてきた。
俺はその一言だけで頑張れる。
他の人にどう思われていようが関係ない。
彼女の一言が大きな力になる。
「続きまして、3年生チームからは! ―――カイザフ・スタンダード!」
生真面目そうな少年が舞台に姿を表した。
カイザフと言えば、初等部最強と言われる男。
―――カイザフ、やっちまえ!
―――相手が1年だろうが、手加減はいらんぞ!
俺の入場のときとは比べ物にならないほど、大きな声援が彼に送られる。
「まさか、中堅がナタリー君ではないとは。これはやられたね」
「それはどういうことですか?」
「ここで、ナタリー君を倒し、大将戦までもつれ込めば優勝できると踏んだのだよ。……そうか、裏をかかれてしまったわけだ」
「別に裏をかいたわけではないですよ」
大将戦までもつれ込めば勝てると踏んだ?
馬鹿にするなよ。
「僕は自分が強いと過信しているわけじゃない。でも―――ナタリーが期待してくれたんだ。だから、全力であなたを倒します」
俺はカイザフの目を真っ直ぐに見て言った。
「そうか。それならお手柔らかに頼むよ」
カイザフが強いのは最初からわかっている。
だけど、簡単に負けてやるつもりはない。
いや、負けることを考えちゃダメだ。
俺はナタリーに勝つと約束したんだから。
「それでは、初等部部門! 決勝戦! 第2試合、開始っ!」
実況者の開始の合図を聞くとともに、俺は右手に魔力を込めた。
悠長なことはやってられない。
全力で行く。
「火球連弾!」
俺は右手から連続で火球を放つ。
「風の渦よ、巻き起これ!」
カイザフの魔法で、全ての火球が消し去られた。
「イフリートよ!」
詠唱が短いため、少し威力は落ちるものの、それでも高威力の魔法だ。
出し惜しみなんてしていられない。
相手が俺を侮っている間に一気に決めてしまおう、という考えだ。
灼熱の炎がカイザフを襲う。
「風よ、相殺せよ!」
―――ドガアァァァァン!
風の塊と灼熱の炎がぶつかり、会場全体に轟音が鳴り響き、土埃が舞う。
……まじかよ。
不意打ちのつもりで放った魔法を、あそこまで軽々と打ち破るとは。
さすがは、初等部最強と言われるだけはある。
そう簡単には勝たせてくれないらしい。
「オーウェン君。侮ったことを謝罪しよう。―――君は強い」
カイザフの雰囲気が変わるのを肌で感じた。
「やばい……」
カイザフが何かしでかす気だ、と俺はとっさに魔法を放とうとするが、
「風の刃達よ! 切り裂く刃となりて、荒れ狂え!」
彼を中心として、会場に嵐が吹き荒れた。
凄まじい威力だ。
離れたところにいる俺に、風の刃が突き刺さる。
―――オーウェンが踊ってるぞ!
―――いいぞ、いいぞ! もっと踊れ! 踊りまくれ!
観客は魔法障壁で守られているから、なんともないだろうけどよ。
こっちは痛いんだよ。
風の刃が四方から、容赦なく俺に襲いかかっている。
舞台の上に立っているだけで、攻撃を食らう羽目になる。
「なんて広範囲の魔法だ」
彼は1年生のときから負けなしだと聞いたが、なるほどと納得できる。
「大火球……!」
カイザフ目掛けて放った魔法も、彼の周囲にある暴風によって防がれた。
その間にも、俺の体は風の刃で身体中が傷付けられていく。
「くっ……」
このままではジリ貧だ。
何度か攻撃を変えて魔法を撃つものの、どれも風の障壁によって防がれてしまう。
こんなとき、遠距離の魔法を使えれば……。
魔法は距離が離れているほど制御が難しい。
遠く離れた相手を攻撃するには、技術が足りていない。
遠距離での魔法が駄目なら、近くにいくしかない―――。
だが、カイザフを囲んでいる風の障壁を超えようとすれば、身体中が引き裂かれるだろう。
それなら、風の障壁を通らなければ良い。
「———引力解放!」
俺は空に飛んだ。
風魔法を使えるカイザフからすれば、相手が空にいようが、攻撃の手段はいくらでも存在する。
俺はそれを承知の上で、飛行魔法を使ったんだ。
そして、カイザフの真上まで飛んでいった。
カイザフの発動している魔法の弱点は―――上空からの攻撃だ。
カイザフは自分を中心として、嵐のような魔法を展開したが、真上から見ればガラ空きだった。
ここからは、カイザフの驚いた顔がよく見える。
俺は重力魔法の制御をやめる。
次の瞬間、浮遊感が失われ、真下に落下していった。
「―――身体強化!」
身体強化は難しいが、それだけに集中すれば俺でもできる。
それに、身体強化された体なら、落下の衝撃に耐えうる。
「鉄拳!」
俺は右手を握りしめ、落下の勢いを乗せたまま拳を叩きつけた。
だが、カイザフに、すんでのところで避けられる。
―――まだ、だ!
カザリーナ先生から教わった接近戦の心得がある。
ベルクや騎士などの一流の戦士からすれば、大したことはない。
が―――、相手が魔法使いなら俺にも分がある。
地面に着地すると、姿勢を低くしたままカイザフの足を払い除けた。
それによって、体勢を崩したカザルフの腹目掛けて、
「鉄拳!」
握りしめて右手拳でボディーブローを喰らわした。
「ぐはっ……」
カイザフは後ろに吹き飛び、背中から会場の壁にぶち当たる。
そのまま、
「大火球!」
カイザフに止めの一撃を与えた。
カイザフは壁から崩れ落ちる。
そして、立ち上がることはなかった。
「しょ、勝者、オーウェン・ペッパー!」
実況者の勝利宣言が会場に響き渡る。
予想外の結果に、観客は呆然としている。
俺が勝つなんて、誰も予想していなかたったよな。
「オーウェンやったね!」
いや、違ったな。
ナタリーだけは信じてくれていた。
静まり返った舞台から降りると、ナタリーに抱きつかれる。
「無事勝てたよ」
「当然だわ! あなたなら勝てると思っていたわ!」
すごい信頼だ。
もし、この試合が賭け事に使われていれば、ナタリーの一人勝ちだっただろう。
「ありがとう、ナタリー」
これで彼女の期待に応えることができた。
悪い噂を払拭することよりも、俺には期待に応える方が重要だった。
彼女の温かみが心地いい。
「ナタリー、喜んでくれたのは嬉しいけど、そろそろ離れてもらってもいいかな?」
「え、あっ。そうね」
ナタリーは恥ずかしそうに離れる。
少し、彼女の顔が赤くなっている。
という俺もちょっぴり恥ずかしかった。
「何はともあれ、おめでとう。これで優勝ね」
「ああ、そうだな」
その後、俺たちは表彰台の一番高いところ―――優勝台に立ち、優勝トロフィーをもらった。
こうして、武闘会は幕を閉じた。
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