22. 武闘会②
ベルクは圧勝した。
身体強化と卓越した剣技で戦うのが、彼のスタイルだ。
身体強化は厳密に言えば魔法ではない。
体内で高速に魔力を循環させることで、身体を強化する技だ。
これに関しては、『魔法とは想像を具現化するもの』という概念が適用されない。
いかに魔力循環を高速にするかで、身体強化の強さが変わってくる。
原理は簡単なものの、身体強化は非常に難しい技術の一つだ。
魔力を動かすのは相当集中力がいるからだ。
それを常に維持しながら、戦うのがいかに難しいことか、少しでも魔力を持っている者ならわかる。
ちなみに俺は身体強化だけならできるが、戦闘では上手く使えない。
まだ子供の身で身体強化を使え、上級生を圧倒したベルクはまさに天才と言えよう。
「余裕だったな」
「こんなところで負けていられないからね」
ベルクはそう言って、戻ってきた。
「次は私の番ね」
「ナタリーも負けるなよ」
「当たり前よ」
彼女は俺の言葉に頷くと、舞台の上に足を踏み入れた。
ナタリーが会場に姿を見せると、さっきとは打って変わって、野太い男どもの声援が聞こえてきた。
ナタリーは美少女だから、応援したくなる気持ちもわかる。
だが、野郎どもの声援って嬉しくないだろ……。
そうして始まった試合はナタリーが終始優勢だった。
アルデラート家は雷魔法を得意とする一族だ。雷はトップクラスの威力を誇る。
さらに彼女は豊富な魔力量で、相手に攻撃させる暇を与えなかった。
そして、彼女は手堅く勝利を収める。
こうして、俺の出番はないまま1回戦が終了。
休憩を挟んで行われた2回戦もベルクとナタリーの2人が危なげなく勝利を収めた。
今日の試合はここまで。―――残すのは明日の決勝戦だ。
やったな! 決勝戦進出だ! ……でも、待てよ。
俺、何もやってなくね?
もし、このまま二人が決勝戦も勝ったら、俺は戦ってもいないのに優勝者になってしまう……。
それはそれで……複雑な気持ちだ。
もちろん、2人には負けてほしくないが、どうせ武闘会に出場するなら俺も戦いたい。
次の試合、先鋒か中堅で出してもらえないかな?
試合直前でなければ、順番を入れ替えることも可能だ。
「次の試合、俺を中堅にしてくれないか?」
「いいわよ。でも―――絶対負けないでね」
と、ナタリーは快く承諾してくれた。これで負けたとしても参加者として胸を張れる。
負けて……本当に胸を張れるのかって?
戦わない大将よりは、戦って負けた中堅の方がカッコがつくだろうけど。
だけど……戦うなら勝ちたいよな。
その後、俺たちは控室で解散し自由行動となった。
今の時間は中等部の試合が行われている。
だが、俺は腹が減ったためナタリーと屋台を見て回ることにした。
「そういえば……ナタリーの親は見に来てないのか?」
娘が武闘会に出場するのだから、親なら来ていてもおかしくない。
―――そういう俺の親は来ていない。
どうせあの人達は来ないと考えて、誘ってすらいない。
「来てないわ。お父様もお母様もそんなに暇じゃないのよ……」
「ふーん、そんなもんか」
前世では、毎年の運動会で両親に応援してもらっていた。
運動神経が良くなく、子供の頃は来て欲しくないと思っていたが……今、思い返せば良い記憶だ。
そういえば……両親はどうしているのだろうか。
俺は、先に死んでしまった……気がする。
前世での自分の最後―――死ぬ直前の記憶は……思い出せない。
でも、自分が前世で死んだことだけは、なぜか覚えている。
きっと、両親は悲しんでいるだろうな。
……親孝行してあげられなくてごめん。
今の俺がいるのは、オーウェンの両親でなく前世の両親のおかげだ。
もし、もう一度会えるなら、「ありがとう」と一言でもいいから伝えたい。
「辛気臭い顔してどうしたの……?」
ナタリーが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
おっと、いかんいかん。前世のことを考えても仕方ないな。
俺はこの世界で生きている。
今を生きよう。
「辛気臭い顔なんてしてないぞ。至って元気だ!」
「そう。……ならいいけど」
「それより腹減ってないか? ご飯でも食べよーぜ」
「……ええ、そうね」
しばらく食事をするために美味しそうな料理が出ている店を探す。
だが、昼食の時間を過ぎているにも関わらず、どこの店も人で溢れかえっていた。
「人がいっぱいね」
どこの屋台も行列ができており、結構な時間並ぶ必要がある。
「そうだな。ずっと探していても仕方ないし、適当に並ぶか」
腹が減って死にそうだ。
試合では出番なかったけど、最近よく腹が減るんだよな。
俺たちは比較的、人が少ない列に並んだ。
列で待っていると、前のカップルの会話が聞こえてきた。
「ねえ、今年の1年生凄いらしいよ」
「あー、あれな。第三王子と公爵令嬢ってやつ。ナタリーちゃん可愛かったな」
「はっ? あんた何いってんの? それよりも第三王子よ! ああいう子好きだわ!」
俺は静かにカップルの話に耳を傾ける。
「……それにしても2人共強かったな」
「そー、それよ! 3年生相手に勝っちゃったわね! このまま優勝もあり得るわ!」
「それはどうかな? 生徒会長には勝てっこないって」
「でも、生徒会長が出る前にベルク君とナタリーちゃんが勝って、試合が決まるってのもありえるわ。生徒会長は大将で出てたし」
「多分、それはないだろ。生徒会長は次の試合、先鋒か中堅で出るはずだ。なんたって、大将がオーウェンだしな」
「確かにそうね。……大将戦まで行けば、勝ったのも当然よね。なんで、オーウェンなんかを大将にしたのかわかんないけど、明らかに捨て駒よね」
……おい、オーウェン。
お前馬鹿にされてるぞ。
って、俺のことか。
「それはあれじゃないか。先鋒と中堅で勝とうっていう作戦で、最後の一人は誰でも良かったってことだろ」
「あはは、確かに! どうせ誰を出しても勝てないなら、無能なオーウェンでも出しとけって話ね!」
凄い言われようだ。
さすがにオーウェンが不憫に思えてくる。
いや、俺のことか。
現実逃避はやめよう。
俺の評価はとても低いらしい。
「そうそう。オーウェンも可哀そうだな。今は大将として威張っていられるだろうが、大勢の前で醜態を晒すことになるんだから」
「どうせ負けるにしても惨めに負けないでほしいよね。せっかくの武闘会が台無しになっちゃうわ」
もうやめてくれ。
オーウェンの何が悪いっていうんだ!
ただ、無能でわがままだっただけじゃないか!
うん、それが悪いんだな。
彼らの言い分は何も間違っていない。
と、一人で納得しているときだ。
「ちょっと、あなたたち。さっきから聞いてれば、好き勝手言ってくれるわね」
ナタリーがものすごい形相で怒っていた。
「あんた、誰よ……ってもしかして!?」
女子生徒は振り向くと、驚愕する。
「ナタリー・アルデラートよ。……あなたたちはオーウェンの何を知っているのかしら?」
「何をって……」
「先程、無能と言ってましたけど、それは本当のオーウェンを見ての感想かしら?」
「そんなの知らないわ……。でもそういう噂が……」
女子生徒がナタリーの圧力にたじろぐ。
「噂で人を判断しないで頂戴。不愉快だわ」
ナタリーはそう言うと、俺の手を取って並んでいた列を抜け出した。
「あ、え……」
俺は突然のことでびっくりしながら、その場を後にした。
そのまま、しばらく歩くと、
「なんで、他人がごちゃごちゃ言うのよ! 何も知らないくせに!」
ナタリーは怒りが収まらない表情で言った。
あのカップルの話していたオーウェンは噂通りの人物だ。
実際、傲慢で無能な子供だった。
だから、噂そのものは正しい。
それに、人ってのは悪い噂の方が好きだ。
誰々が不倫しただとか、あの人は影で悪いことをしているだとか、そういうニュースが現代日本でも飛び交っていた。
そっちの方が視聴率が取れる。
つまり、人々がそういう情報を好んでいるということだ。
「オーウェンは腹が立たないわけ? あんな酷いこと言われて」
「所詮は噂だ。……それに、ナタリーが俺のことをわかってくれているから大丈夫」
「あなたは大人ね……。ああああ! でも、やっぱりムカつくわ! 次の試合で絶対見返してやろうじゃない!」
俺はそんなに気にしていなかったが、ナタリーは俺のために怒ってくれている。
本当に優しい子だよな。
そんなナタリーのためにも、負けたくないと思った。
「言われっぱなしってのはしゃくに触るし、次の試合、全力で勝ちにいく」
「ええ、絶対に勝ってよ!」
「もちろん」
ずっと、悪い噂のせいで馬鹿にされるのは嬉しいことではない。
俺だって人間なんだ。
それに、俺はもう以前のオーウェンでない。
俺は俺だ。
今の俺がどういう人物か見せる良い機会だ。
相手が誰であろうと勝ちに行く。




