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170. 学園長のスピーチ

 しばらく月日が流れ、サンザール学園の卒業式の日となった。


 俺は今、卒業式典に臨んでいる。


 本来、卒業式を行うはずだったホールが修復中のため、少し小さめのホールで式が行われている。


 短いようで長かった学園生活も今日で終わりだ。


 そう思うと、寂しくもなってくる。


 特に最後の一年はドタバタだった。


 回帰集団の襲撃のせいで、様々なイベントがなくなり、メチャクチャな一年となった。


 この卒業式に出られなかった卒業生もいる。


 先日の事件で亡くなった人や重症を負った人だ。


 そのため卒業式は暗い雰囲気を引きずったまま進行していた。


 生徒会長であるナタリーを含め、壇上で話す人たちは皆、痛ましい事件についてを話す。


 生徒たちの顔も自然と暗くなる。


 と、そんなとき。


 キラーンと輝くスキンヘッドの人物が登壇した。


 学園長だ。


 学園長は卒業生たちの顔を見渡す。


 一瞬だけ俺と目があったような気がした。


 そう思わされるほど、学園長は生徒一人ひとりに目を向けていた。


 そして彼は暗い雰囲気を吹き飛ばすように声を張り上げた。


「諸君! 卒業おめでとう! これで君たちは晴れてサンザール学園の卒業生となる。しかし、これが終わりではなく、ここからが始まりだ。今年に起きた学園での悲劇。君たちの記憶には鮮明に残っているだろう。忘れ難い記憶として深く刻み込まれたことだろう」


 俺はちらっと周りを見る。


 隣には目を真っ赤にしている女の子がいた。


 きっと彼女の親しい人が不幸な目にあったのだ。


「だが、しかし!」


 学園長が怒号とも取れる声で続けた。


「この悲劇を、痛みを、決して忘れてはならぬ。君たちの命が多くの犠牲の上に成り立っていることを決して忘れないで欲しい。ただし過去に囚われてもならぬ。君たちが生きているのは、いまこの瞬間だ。私は多くの魔法使いを見てきた。職業上、死を身近に感じる機会も多くあった。これまで何人もの人を見送ってきた。特に未来ある若者が死ぬのは堪える。そして過去に囚われた者たちもたくさん見てきた。嘆き悲しみ、生を放棄する者もいた」


 経験から語られる学園長の言葉が、俺たちに重くのしかかる。


 身近な人が死ぬのは耐え難いことだ。


 ナタリーやエミリア、カザリーナ先生など、脳裏に多くの人が顔がよぎる。


 彼らの死を想像しただけで、ぶるっと体が震えた。


 心の奥底が冷たくなるような感じだ。


 親しい人との死別は俺にも起こりうる未来だ。


 そんな冷えかかった俺の心に火を灯すかのように、学園長は怒号を上げた。


「どんなときも、生きて前を向き、そして強くなれ! 今日は終わりでなく、始まりだ。社会に出れば、さらなる苦難が君たちを待ち受けている。辛く、悲しく、どうしようもない時間(とき)が訪れる。そのときが訪れなかったら者たちは幸せ者だ。だがおそらく……いやきっと、君たちの前には、大きな苦難が壁となって立ちはだかるだろう。その壁を前にしたとき、君たちはどういった行動を取る?」


 学園長が一度言葉を止める。


 すると、ホールに静寂が訪れた。


 俺ならどうする?


 飛翔の名に相応しく、壁を飛び越えるか?


 それとも来た道を引き返すか?


 そのときになってみないとわからない。


 でも、できることなら壁を乗り越えられる男になっていたい。


 俺は強い決意を胸に抱き、学園長の話を聞く。


「身を翻す者、壁を壊す者、壁を乗り越える者、違う道を探す者、そして壁の前で呆然と立ち尽くす者。どの行動を選択するかは君たちの自由だ。しかし、君たちは今から社会人になる。つまり大人になるということだ。選択や行動には責任が伴ってくる。これまでのように教師が教え導き、ときには責任を被ってくれるようなことはない」


 学園長は一拍置くように大きく息を吸った。


「せいぜい悩みやがれ!」


 それは突き放すような言葉にも聞こえる。


 しかし、俺は学園長からの強いメッセージを感じた。


「魔法とは想像を現実に変える素晴らしい力だ。だが、君たちは既に知っているだろう。魔法を扱うには、厳しい修練が必要になることを。魔法とは、奇跡の力なんかじゃない。考えて悩んで藻掻いた末に、魔法はようやく魔法使いの味方をしてくれる」


 俺は学園長の言葉に頷いた。


 万能の力じゃないから、魔法にはもどかしさがある。


 けれども、それでも魔法には無限の可能性が潜んでいると思っている。


「今日この日が魔法使いとしてのスタート地点だ。立派な魔法使いとは悩みながらも前に進む者たちのことを指す。君たちの描く理想を現実に変えてくれるのは、ここで学んだ魔法であり、これから習得していく魔法だ。ここにいる卒業生全員が、立派な魔法使いとなることを心から祈っている」


 学園長はそういって締めくくった。


 その直後。


 まるで悲鳴のような興奮を伴って万雷の拍手が起きた。


 学園長の言葉は生徒たちに届いたようだ。


 ここから、俺は魔法使いとして社会に関わっていくことになる。


 今までの学生生活よりも、さらに厳しい環境に身を置くことになる。


 俺は学園長の演説のおかげで決意を新たにすることができた。


 こうして卒業式が終わり、俺はサンザール学園を卒業した。

読者の皆様お久しぶりです!

だいぶ時間が開いてしまいましたね。

申し訳ありません。


さてさて、3巻が8月5日に発売します!

後書きの下に3巻の表紙が見えると思いますが、今回も児玉様が素敵な絵を描いてくださりました。


また「マンガよもんが」にてコミカライズが連載中です!

漫画はシメサバ先生に描いていただいております。

作者である私も引き込まれるような素晴らしい出来なので、よかったらそちらも見てください。

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