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169. エピローグ

 学園を襲った回帰集団たち、これは国を揺るがす大事件として刻まれ、人々を震撼させた。


 被害は甚大であり、死者多数――死因のほとんどは瘴気による魔力暴走だ。


 重傷者も多く、四肢欠損や魔法を一生使えない体になった者もいる。


 幸いなことに、俺が特に親しくしていた人たちは、比較的に軽症で済んだ。


 今回の事件は、苦い経験として大勢の記憶に残るものとなった。


 襲撃犯の顛末はそれぞれ異なる。


 ファラは幻術死刑という最も残酷な方法で死刑されることになった。


 魔導団の情報を流し、テロリストの一員として学園を襲撃した罪は重い。


 ちなみに幻術死刑とは、記憶の中、様々な方法で死を体感させられるものだ。


 幻術であるが、肉体的なダメージは鮮明に感じるらしく、痛みは想像を絶するものらしい。


 また、ファラの記憶の一部が魔法によって消されていた。


 消去された記憶の中に、回帰集団に繋がる手がかりがあったのだろう。


 人斬りのジャックと黒帽子のレオン、そして、レン先生は死亡している。


 モネは行方不明。


 トールの行方も知れず、彼ら姉弟はどこか遠くに逃げたのだろう。


 俺はモネを逃したことで後悔はしていない。


 彼女が捕まれば確実に死刑だろうからだ。


 結局、何が正しいのかよくわからないし、モネには生きていて欲しかった。


「二人が幸せなことを、願うよ」


 と俺は呟く。


 俺は事件の解決に大きく貢献したとして、実力を認められ、三ツ星に認定された。


 これで一流の魔法使いになるという目標を達成できた。


 しかし、三ツ星になったことで、劇的に何かが変化するわけではない。


 責任と肩書がついたぐらいだ。


 むしろ、魔法使いのあり方について考えていこう、と思うようになった。


 三ツ星としてできることは沢山あり、得た肩書をどう使うかは自分次第だ。


 世界を変えよう、なんて大きな夢は持たない。


 だけど、俺を支えてくれた人たちのために恩返ししたいな、と思っている。


 そして、最後に……ナタリーについてだ。


 魔女に体が乗っ取られていたが、レオン以外は誰も殺していないことから、無罪だった。


 そこは運が良かったと言える。


 ナタリーがベルクの近くに空間転移していなかったら、酷い結果になっていたかもしれない。


 ナタリーは事件当時のことを魔導団に聞かれる羽目になり、事件直後から今日まで忙しいようだ。


 俺も同様に忙しく、ナタリーとはしばらく会えていない。


 そして、今日、俺は久しぶりにナタリーに会うことになっている。


 集合場所は学園街の正門。


 俺は時間の10分前についた。


 そして待つこと数分、金髪碧眼の少女が現れた。


「おまたせ」


「俺もいま来たところ」


 いつもどおりの、だけど、久しぶりにみるナタリーの制服姿。


 とんでもないハプニングのせいで交流会は中止になり、そして色々と追われるように日々が過ぎ、もうすぐ卒業だ。


 彼女のこんな姿を見る機会も、もうほとんど残されていない。


 そう思うと、寂しさが押し寄せてくる。


 楽しかった学園生活もそろそろ終わりなんだな、と実感した。


「なんかオーウェンと会うの久しぶりね」


 そうだな、と頷いていてから、


「身体はもう大丈夫なのか?」


 と尋ねた。


「ええ、目が覚めてからしばらくは辛かったけれど、もう大丈夫だわ」


 申しわけないことに、俺が魔法で攻撃しまくったせいで、ナタリーは結構な傷を負っていた。


 あのあとにファーレンが来てくれたおかげで、特に後遺症はないとのことだ。


 しかし、一時的とはいえ、魔女の残骸が体に入っていたのだ。


 その影響で、しばらく高熱を出していたらしい。


「本当に、良かった」


 安堵のあまり彼女に抱きつきそうになるのを、理性で抑える。


 そんな俺を見て、ナタリーは恥ずかしそうに、視線を下げた。


「その……オーウェン。実は私、魔女に操られているときの記憶が残っているのよ……」


「そっか……結構、攻撃しちゃって悪かったな」


「いや、それはいいのよ。あんな状態だったから、それも仕方ないと思っているわ。でも……そうじゃなくてね」


 なんだか端切れの悪い言い方をするナタリー。


 なんだ? と視線で訴えると、彼女はしぶしぶ答えた。


「最後、レン先生が出てくる前に、しっかりと聞いたの」


 顔を赤くしてナタリーは呟く。


 最後?


 レン先生が出てくる前のこと?


 あのときは必死だったから、あんまり覚えていない。


 だけど、何か重要なことを言ったような気がする。


「あ、そう言えば……」


 ナタリーが好きだから、と叫んだのを思い出す


 急激に、顔が熱くなる。


 勢い余って言ったが、聞かれていたと思うと途端に恥ずかしくなった。


「いや、あれは……だな」


 ごにょごにょと言い訳をしようと口を開く。


 しかし、ふと思った。


 何を誤魔化す必要があるのだろう、と。


 つい、口に出してしまったのは事実だが、彼女を好きな気持ちは本物である。


 俺が今考えるべきは、誤魔化すような言葉じゃない。


 彼女の顔をしっかりと見つめた。


 言うべきことは難しいことじゃない。


 飾らなくても良い。


 ただ思ったことを、感じていることを言葉にするだけだ。


 緊張で心臓がうるさく脈打つ。


 言葉が喉元で引っかかり、空白の時間が生まれる。


 しかし、ナタリーは俺の顔を見て、言葉を待ってくれていた。


 しっかりしろ、俺。


 自分を叱咤して、ナタリー……さん、と彼女の名を呼ぶ。


 ナタリーは「はい」と返事をする。


 彼女の碧眼は凛とし吸い込まれそうなほど綺麗だった。


 ナタリーが好きだ。


 気がつけば、俺の口から、想いが溢れていた。


「好きです。付き合ってください」


 言った直後の一瞬、静けさが俺の胸をつく。


 心臓が口から飛び出すほど緊張しながら、ナタリーの言葉を待つ。


 ナタリーは小さく息を吸ってから、俺と目を合わせた。


「はい。よろしくお願いします」


 春の兆しを感じさせる朗らかな笑みで、ナタリーは応えた。


 少しの間、俺は放心状態となる。


 その直後に感じた、得も言われぬ高揚感に襲われた。


 これは初めて魔法が使えたときよりも、三ツ星認定されたときよりも、遥かに嬉しいことだ。


 俺は右手拳を強く握り締め、よっしゃあああ、と叫んだ。


「そんなに、喜ぶこと?」


「当たり前だ! 人生で最高の瞬間なんだから!」


 満面の笑みを浮かべて、俺は言う。


 こんなにうれしい日はない。


 生きていて、転生して良かったと心の底から思える。


 ぽかぽかと暖かくなりかけている季節、穏やかな日差しが俺たちを包み込んだ。


 こうして俺は、ナタリーと恋人になった。

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