171. 卒業式のその後に
ホールの外に出ると生徒たちがワイワイと歓談に興じていた。
俺はナタリーを見つけて、彼女のもとへと駆け寄る。
自然と彼女を探す癖がついてしまっている。
このことをポロッとエミリアに言ったことがある。
「そういう惚気やめてくれない?」
とジト目で見られてしまった。
それはそうとして、
「卒業おめでとう、ナタリー。生徒会長のスピーチは良かったよ」
と俺が言うと、ナタリーは笑顔で返した。
「オーウェンもおめでとう。あの後の学園長のスピーチで全部持っていかれたけれど」
「あれは仕方ない。経験が違うから」
「それもそうね」
学園長はさすがサンザール学園の長だと思われるスピーチをした。
今までは、ただ長い話をするおっさんだと思っていたが、その認識を改めさせられた。
「にしても最後の一年は大変だったな。あんまりにも大変だったから、本分が学生であることを忘れそうだった」
「ドタバタ……って言葉では収まらない一年だったわね」
「お疲れ様」
「お互いね」
ナタリーは寂しそうに笑った。
きっと俺も似たような表情をしているだろう。
「そして、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
ナタリーは魔導団の入団が決まった。
だから、俺達は来年からも一緒に仕事をすることになる。
部隊の配属は決まっていなく、もちろん同じ部隊になれるとは思っていない。
数少ない新人が同じ部隊に配属されることはめったにないからだ。
「なーに、二人でいちゃついてんのよ」
そういって登場したのはエミリアだ。
「いちゃついてない。これからの話をしていたんだ」
「これからの話? ナタリーのお父さんに挨拶しようっていう、あれのこと?」
「あれって、なんだよ。魔導団のことだ」
「つまんないわね」
とエミリアが口を尖らせる。
「つまらなくはないだろ。エミリアも来年から魔導団に入るんだから」
「まあ、そうね」
「エミリアも一緒で良かったわ」
ナタリーが柔らかく微笑む。
「オーウェンもナタリーも。もう、8年以上の付き合いだけど、この付き合いはどこまで続くのかね?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないよ」
エミリアは首を振ってから続けていった。
「嫌なわけないじゃない」
エミリアはそう呟いてからナタリーに抱きついた。
「ひゃぁ!」
ナタリーが小さく悲鳴を上げる。
「こうやって、ナタリーに抱きつけるんだから」
「いや、エミリア……ナタリーに抱きついたことなかっただろ?」
「ふふふん、どう? 羨ましい?」
エミリアが挑戦的な笑みを向けてきた。
「はっ、そんなのもう経験済みだっての」
「ちょ、オーウェン! なに、恥ずかしいこと言っているのよ!?」
ナタリーが抗議してきた。
「ほんと、惚気とか勘弁してよね。独り身の私に対する嫌味ですか?」
エミリアがため息をつく。
そして、彼女はナタリーから離れた。
「はい、あとはどうぞ」
エミリアがナタリーの背中を押す。
そしてナタリーを俺に渡してきた。
「私は物じゃないわ!」
ナタリーがエミリアに向かって怒るが、エミリアは「アハハハッ」と笑いながら遠くに逃げていった。
「もう、エミリアったら!」
「まあまあ、ああ見えてもエミリアは寂しいんだろ」
「あの子は意外と自分の感情を表に出すのが苦手だからね」
「ナタリーも他人のことは言えないけどな」
「そう?」
「でも昔よりは素直になったかな。初めて会ったときは笑顔を貼り付けていたし。お人形みたいだったぞ」
「あれは……仕方ないじゃない。面倒な誕生日パーティーで面倒な人たちの相手をさせられたのだから」
「たしかに、それは面倒だな」
しばらく俺たちは思い出に浸るように話し込む。
学園生活での話題が中心だった。
初等部、中等部、高等部と話題に尽きない。
色々なことがあった。
どれも良い思い出だ……とは言えないけど。
良いことも悪いことも引っくるめて懐かしい記憶だ。
そうして話し込んでいるときだ。
突如、ナタリーが「あっ」と声を上げた。
「どうした?」
「……お父様とお母様が来ているわ」
「それは良かったな」
「まさか来るとは思わなかった」
ナタリーがちらっと俺の顔を覗く。
彼女は心配しているような目を俺に向けてくる。
俺の両親が来ていないことを、ナタリーは気にしているのだろう。
結局、両親であるブラック・ペッパーとアイシャ・ペッパーは一度も学園のイベントに参加しなかった。
俺の顔を見たくないようだ。
おそらく俺の活躍を見ると劣等感が刺激されるのだろう。
「俺のことは気にしなくて良い。それよりも早く両親のもとへ行ったらどうだ?」
「オーウェンも一緒に来る?」
「俺が行ってどうする? 恋人ってことを報告でもするのか?」
「それは恥ずかしいわ」
「だろ?」
「わかったわ。じゃあ、また後で会いましょう」
「うん、また後で」
ナタリーは小走りで彼女の両親のもとへと向かった。
恥ずかしそうな笑顔を浮かべながら。
その表情から、彼女が喜んでいることがわかった。
少しだけ羨ましいな、と感じた。
今世の両親ではなく、前世の両親に俺の晴れ姿を見てもらいたいと思った。
ランキングタグに貼り付けた3巻の表紙ですが、貼り付け方が悪かったせいで、画像が見にくくなっておりました。
すみません……。
今は修正して見やすいようになっているので、興味がある方はちょこっと覗いてみてください。
また3巻は8/5に発売されます!




