17. Aクラス
入学式当日になった。
学園長の式辞や高等部生徒会長の歓迎の言葉など、日本の入学式とほとんど変わらなかった。
式典が終わったあと、振り分けられた自分のクラスに向かう。
俺はAクラスらしい。
教室に入ると、すでに大勢の生徒がいた。
そして、自分の席を見つけ、座った瞬間、
「オーウェン、久しぶりね」
ナタリーに声をかけられた。
相変わらず、彼女は可愛い。
目はぱっちりしており、そのまつ毛ってどのくらいの長さ? って聞きたくなる。
シャー芯が5、6本くらい乗りそう。
この世界にシャー芯はないけど。
「ナタリーか。久しぶり」
「あれ? 少し痩せた?」
「まあね。かっこよくなっただろ?」
「そんなに変わらないわ……」
俺が冗談めかして言うと、そっけない態度を取られた。
「そ、そうか。……ところで、元気にしてたか?」
「いいえ、退屈だったわ。あなたとの夜が忘れられないもの」
「おいおい、誤解されることを言うなよ」
クラスの何人かがぎょっとした目で俺たちを見てきた。
そんな言葉いつ覚えたんだ?
子供が使っていい言葉じゃないぞ。
「誤解……? どこをどう誤解しているのかしら?」
ナタリーはクスクスと笑う。
こいつ、わかっててやってるな。
私には公爵家としての責任があるのよ、とか言っていたやつとは思えない。
将来、男を手玉に取る魔性の女になりそうで心配だ。
「お前なぁ……。それより、同じクラスになれて良かったよ」
「何を当たり前のこと、言っているのかしら」
「え、当たり前って……?」
「この学園は実力主義ってことは理解しているわよね?」
「まあ、それぐらいは」
AからDクラスまであり、Aクラスから順に成績が良い者が振り分けられていく。
特に魔法の成績が重視されるため、他の分野が全然できなくとも、魔法の成績さえ良ければAクラスになれる。
「1年生の実力はどうやって判断するのかしら? 能力測定をやったわけでもないのに」
「そうか……。魔法の素質がある者、つまり、家の格によって決められてるのか」
基本的に爵位が高い貴族の方が魔法の素質がある。
魔法の才能はほとんど親の才能で決まる。
もちろん、親に魔法の素質がなくとも、突然魔法が使える子供が生まれることもある。
その逆もしかりだ。
能力試験の代わりに爵位でクラスを決めたとしても、それは実力順でもあると言えるのだ。
例外に関しては、2年目から補正していけばいい。
「そういうことよ。これから、8年間よろしくね」
「8年間……?」
「そうよ。私達がAクラスを落ちることはないから、8年間同じクラスになるの」
随分と、腕に自信があるようだ。
俺は周りのレベルを知らないから、そこまで自信を持てない。
強みがあるとしたら、重力魔法が使えるくらいだ。
「Aクラスを落ちないように頑張るよ」
俺がそう言ったタイミングでガラッと教室の扉が開く。
「おお、たくさんいるな。お前ら、とりあえず席につけ」
入ってきたのは、門のところで騒ぎを止めてくれたイケメン女教師だ。
「よし、席についたな。それでは、まず自己紹介を始める。私はクリス・クリフォード。知ってるやつもいるかもしれないが、こう見えても三ツ星だ。魔法に関しては、しっかりと教えられると自負している。まずは1年間、よろしく」
クリス先生の自己紹介に教室がざわめく。
おそらく、三ツ星の教師と聞かされて驚いているのだ。
サンザール学園の教師はレベルが高いと聞くが、それでも三ツ星は異常だ。
まさか、初等部にこんなハイスペックな人がつくとは思わなかったのだろう。
「―――静かに」
なかなか収まらない場をクリス先生が収める。
「次はお前たちの自己紹介だ。順番は決めないから自己紹介したいやつからしていけ。ここでは身分は気にしないでもいい。誰から行っても構わんぞ」
自主性を重んじているんだな。
日本だと名前順に自己紹介をしていくスタイルが一般的だが、そこは違うようだ。
パッと一人の少年が手を挙げた。
「僕からやらせてください」
そう言って立ち上がったのは金髪の美少年だ。
彼の周りだけ輝いて見えるのは気のせいだろうか。
女子の一部がうっとりした目で少年を見る。
イケメン爆発しろ、と俺は心の中で悪態をつく。
「おっ、さすがは第三王子だ」
すみません、王子様でしたか。
爆発はしないで大丈夫です。
だから、不敬罪で逮捕しないで下さい。
「ベルク・リットンです。王族ではありますが、ここでは身分に関係なく接して欲しいです。これから、皆さんと楽しい学園生活を送れることを非常に楽しみにして来ました。どうぞ、よろしくお願いします」
ベルクの挨拶にパチパチと拍手が鳴る。
そして、次に自己紹介をしたのはファーレンだ。
馬車騒動の際に会った彼女も同じクラスだった。
アントネリという家名に聞き覚えはないな、と思っていたら、隣でこそこそと話している声が聞こえてきた。
「ファーレン・アントネリって聖女の名前じゃない?」
「え、うそー、有名人じゃん」
へー、聖女か。
聖女は聖魔法が使える人物のことを指す。
聖魔法の使い手は非常に少なく、さらに女性しか扱えないため、彼女らは聖女と崇めたてられている。
第三王子に聖女、それに公爵令嬢のナタリーって、このクラス有名人多くない?
ファーレンの自己紹介が終わると、俺はすぐに手を挙げた。
最後まで残っているのは恥ずかしいため、早めに終わらせようという魂胆だ。
他に誰も手を挙げていなかったので、俺は立ち上がって自己紹介を始める。
「皆さん、はじめまして。オーウェン・ペッパーです」
そう言うと、周りがざわつき始めた。
―――あの、ペッパー家?
―――落ち目の伯爵家だよな。
―――オーウェンは無能って聞いたことがあるぞ。
「君たち、静かに。オーウェンが話せないだろう」
クリス先生がそう言って、生徒を静かにさせる。
思った以上に、オーウェンの悪い噂は広まっているようだ。
「僕は一流の魔法使いになるためにこの学園にきました。まだまだ未熟な身ですが、みなさんと切磋琢磨していけたらな、と思っています。どうぞ、よろしくおねがいします」
そう言って、ペコリと頭を下げた。
ふー、無難に自己紹介が終わったぜ。
―――普通にいい人っぽいんだけど……。
―――噂と違くないか?
―――もっと太っているって聞いたけど、案外イケメンじゃない。
何か、周りでこそこそ話されている。
だが、俺は自分の自己紹介が終わった安心感で耳に入らなかった。
その後、自己紹介は終わり、学園の基本的な生活やルールなどを教えられ、解散となった。
ちなみに、馬車で騒ぎを起こした少年―――ドミニクも一緒のクラスだ。
ドミニクは自己紹介のとき、大人しくしていた。
第3王子やナタリーがいるから、そんなにいばれないのだろう。
俺は教室を出ようとしたところ、ナタリーに呼び止められた。
「どこ行くのよ」
「どこって寮に戻るんだけど」
「暇なようね。なら私に付き合って」
「まあ、いいけど。何するんだ?」
「―――買い物よ」
つまり―――デートか!
それなら行くしかない。
俺はナタリーとともに教室を出た。
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