16. 学園到着
無事、王都にたどり着いた。
整然と建物が立ち並んでおり、外観が美しく保たれている。
旅行に来たようなワクワク感を胸に、馬車の中から街中を見渡す。
レンガ建ての建物が立ち並ぶ町並みは、ヨーロッパの古い町並みを彷彿させる。
そうして外を眺めているうちに、いつの間にか学園の近くまで来ていた。
馬車で来ている人が多いため、門の前で多くの馬車が順番を待っている。
俺の乗っている馬車も最後列に並び、順番を待つことになった。
しばらく待機していると、後ろから喚いている声が聞こえてきた。
「なぜ、こんなに待たせるのだ! 早くしろ! 俺は侯爵家の人間だぞ!」
以前の俺みたいな奴が喚き散らしている。
その少年は、自分の目の前にある馬車すべてに言っているのだろう。
「おい! 聞いているのか!? 早く俺を通せ!」
クラクションを鳴らす車が後ろにいるみたいに、騒々しい。
ああいう人間と関わっても良いことがない。
前世では煽り運転でトラブルになったってニュースをよく耳にした。
注意したところで、罵られるのがオチだ。
黙っておくのが一番だな。
と、考えているときだ。
「ここでは爵位は関係ありません。静かにした方がよろしいかと存じます」
「あん……? 誰だ、お前」
どこかの少女が喚き散らす少年を注意した。
勇気ある人がいるもんだな、と興味本位で覗いてみると、純白の衣装に身を包んでいる少女が立っていた。
白銀の髪と相まって、浮世離れした雰囲気を放っている。
「私はファーレン・アントネリです」
「アントネリ? ふん、知らんな。どこの貴族だ?」
「貴族ではありません」
「貴族ではないお前が、侯爵の俺に歯向かうってか?」
「先ほども申しましたように、この学園では身分は関係ありません。実力が全てです」
「うるさいやつだな! 実力が全て? それなら俺の実力を見せてやろう!」
そう言って、少年はファーレンに右手の掌を向け、攻撃態勢に入った。
こいつ、こんなところで魔法をぶっ放す気か?
さすがに、それはやばいだろう。
傍観していようと思っていたが、すぐに魔法を放てるように、右手に魔力を動かした。
「何をするつもりです……」
「何って? 決まってるだろう。魔法の実力を見せてやるって言ってんだよ! ―――炎弾!」
少年の手から放たれた魔法が、真っ直ぐに少女へと飛んでいく。
「火球!」
俺は少年の放った炎弾を相殺するため、魔法を放った。
ファーレンの目前で火球と炎弾がぶつかり合い、消えていった。
そして、俺は馬車から降りて、ファーレンに声をかける。
「大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
彼女は非常に整った顔立ちをしていた。
色素が抜けたような白い肌と、吸い込まれるような黒い瞳が印象的だ。
その腕には銀色のブレスレットが見える。
「誰だ! お前は!?」
ファーレンに見惚れていて、一瞬、少年の存在を忘れていた。
まあ、野郎よりも美少女に関心が行くのは当然だよな。
しぶしぶ彼の方を向いて、質問に答える。
「俺はオーウェン・ペッパー」
「ふん、落ち目のペッパー家か。俺に盾突くとはいい度胸だな」
お前が誰かは知らんし、盾突いてもいない。
ただ、危ないことしているから止めただけだ。
「火遊びは良くないよ」
「俺の炎弾を……火遊びだと?」
「火遊びじゃないっていうならなんだ? 本気で彼女を傷つけようとしたとでも?」
「平民がどうなろうと俺の知ったことではない!」
「平民とか貴族とか関係ない。この学園で一緒に学ぶ仲だろ」
「一緒に学ぶ? 馬鹿馬鹿しい。俺が平民と同じ空気を吸うだけで吐き気がする!」
と、そのときだ。
「お前たち! そこで何をしている!」
騒がしいことに気づいたのか、背の高い女性が近づいてきた。
「お前、誰だ!? ……って、三ツ星? なぜ、こんなところに……」
三ツ星だと!? と少年と同様に、俺も驚愕して女性を見る。
女性の胸には、三ツ星が刻まれたバッチがあった。
三ツ星は魔法使いの最高位であり、現在、この国にわずかしかいない国家最高峰の魔法使いの証。
「なぜ、と言われてもな。サンザール学園で教師を務めることになったのだ。―――そんなことより、お前たち。あまり騒ぐな。迷惑だ」
「ふんっ!」
その少年は鼻を鳴らした。
それに対し、俺とファーレンは素直に謝った。
「入学前から騒ぎを起こすなよ」
そう言って教師の人は少年を軽く睨んだ。
「はいはい、わかりましたよ」
少年は気のない返事をして、そっぽを向いた。
■ ■ ■
その後は特に問題もなく、学園に入ることができた。
学園の中は広い。
そこだけで小さな町ができているのだ。
学び舎や寮だけでなく、商業エリアもあり、簡単な買い物なら学園内だけで済ませることができる。
また、サンザール学園には初等部、中等部、高等部がある。
初等部に3年間、中等部に3年間、高等部に2年間の最長8年間在籍が可能だ。
俺が高等部を卒業する頃には大人になっている。
学園内は徒歩での移動のため、俺は歩いて寮に向かった。
今日から暮らす部屋は10畳ほどの一人部屋だった。
貴族目線では狭いと感じるが、前世でもこのぐらいの部屋に住んでいたのだ。
学園に頼み込めば、変更してもらえるが、この広さで問題ない。
一人暮らしに不安がある場合、上級生と同じ部屋にしてもらうか、実家から使用人を連れてくることができる。
もちろん、俺は一人で大丈夫。
「今日から学園生活がスタートか……」
学生をやることは二度とないと思っていた。
大人になってから、あの頃は良かったと感じることが多々あった。
もう一度、学生をやれる。
俺はこれからの生活に期待を膨らませた。
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