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西果て鉄道運行中  作者: 斉藤さん
第二部 今日死ぬにはもってこいの日だ
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十三章 a half year

 彼女の旅立ちから半年が立った。

 言ってしまえばその程度の時間の経過しかたっていない。だがその場所には一つの動揺が、まるで波紋のように広がって現れていた。

 場所は八分割地点、第七厄災地点前に存在するサルガスムバンド。そこは開拓者の中でも選ばれた化け物達だけで構成される魔窟だ。人類を食い荒らし続けた筈の厄災の名を持つ場所を、半分以上も踏破してしまった人類を止めている系の人間で構成される場所であるが、少しばかり今の現状は不思議とも言える物に変わっている。


 その波紋の一石は、酷く欠けていた。

 人が作り上げられる中でよほどのトラブルがない限り存在する物が存在しない。だがそれぐらいなら、ここまでたどりついた人間の中では、損傷的には比較的軽微であったのは間違いないが、それでも誰もが目を奪われていたのだ。

 まず最初に珍しいと感じたのは、性別だ。とは言え、性別が別に開拓の基準ではないが、どうしてもその無茶を考えると総数は少なくはなるので、目を惹かれると言うのもあるだろう。そして次に数だろうか、ペアと言うのはどうしてもだが開拓の歴史上においても珍しい。


 個人機である戦闘機関をペアで乗る利点は存在しない。

 稀と言えば稀ではあるが、恋人同士や夫婦と言った関係ぐらいでしか、そうあるものではないが、守る物があると言うことが、厄災地点ではプラスに働くことはまずない。なにより命の掛かった場面で、関係が試される際に、愛を貫けるかどうかは本人しだいである。


 だが世界に真実の愛など、当たり前のように生えてくる物ではない。


 そう言う意味では肉ではなく精神での繋がりが多い女同士マイノリティと、言うのは都合がいいのかもしれない。だが歴戦の古強者が驚いたのはそんな所でもない。

 その二人の関係の歪さだ。

 女同士の恋愛と言うには、その二人の関係は歪すぎたのだ。一人は怪我の一つもなく、わが道でも行くように自分の好きな所を楽しそうに歩く。それ自体は不思議ではないが、もう一人があまりにも歪んで見えた。


 彼女は誰が見ても子供としか言いようが無かった。

 彼女の目は片方存在しなかった。

 彼女の指は合計で七本しかなかった。

 彼女の右足は存在しないていなかった。

 彼女はただ地面を這っていた。


 相棒であろうもう一人は、地べたを擦りながら歩く彼女に視点さえ合せず、好き勝手に動き回っていたと言うのに、手を貸すこともせずに動き回るその対比は、化け物呼ばわりされようと人である彼らには、いやその二人以外には歪すぎて視界に入れざるを得ない。


 もしかすると、厄災を超える内に二人の心が壊れたのかとも考えるが、それにしてはなんと言うか、二人の会話は随分と軽い。


「ね、ねぇ、義足ある、義足、ここに義足ってあるかな」

「はいつくばってるほうがお似合いなので不必要だと思うのですが」

「指標操作で足も指も使えないと、色々と言うか命が大分無くなるから駄目」

「ヒース君は、視線操作でどうにかしてた気がしますが」

「無茶、無茶、キャリアが違いすぎる。出来る手をプライドなんかで失うなんて、愚の骨頂だと私は思うしね」


 年齢からしてもまだ十と半ば程度の子供に対して、相棒らしき者がかけるはずの配慮は一切ない。

 この一つ前の厄災を乗り越える際に欠損したのだろうが、手助け一つ受けようとも考えない少女の姿も、手を差し伸べる事も無い彼女の姿にも、どうしても歪な感情が浮かぶだけだ。

 人としてその状態がおかしいとぐらい、普通であるのなら気付ける。だがその関係が間違っていないとでも言うように、彼女たちはそのふざけた一枚絵を中で当たり前の会話をする。


「だったらその足が何でなくなったか少しは考えてください。まさかフィルターを貫通する厄災が溢れかえる場所だなんて、思っていませんでしたが、だからと言ってフィルターをきるなんて開き直りを見せるからですそうなるんです」


 第六シヴィルウォーは、フィルターの中で発現する現象であり、乗り手に直接攻撃を与えてくる。

 蜂の機体が一万以上同時に襲い掛かってきたと思えばいいだろうか、もはや壁となって襲ってくる現象を生き延びてここに居るのが彼らだが、そんな彼らでも当たれば同じだからといってフィルターを切るような無茶苦茶をする奴はいない。

 たしかにそれ以外の部分に結晶を処理のリソースを使うのは正しい事だが、そもそもそんな事が出来るのは彼女やヒサシゲ達のように結晶捜査が出来る人間に限られる。どうやってやるんだよと、声の届く範囲にいる者達は心の中で突っ込んだ。


 第六ともなると、殆ど化け物の棲家とは言え、バンドと言うものは挫折した者たちの受け皿でもある。

 かつてここまで辿り着いた開拓者達の子孫によって運営され、人類の生存拠点のひとつと変わっている。クルワカミネのような要塞列車の中の人間には詳しくは知られていないが、開拓を封印した事出来てしまった紛失技術を継承していたりして、独特の特色を持った世界が形成されている。


 そんな化け物たちを見てきた彼らをして、ラディアンスの言動は狂っている。

 出来るからすると言うものではない。被害を最小限で抑える事の出来るフィルターを解除すると言うのは、裸で銃撃戦のクロスポイントに突っ込むようなものだ。


「けど、死なない以上は私が正解だよ。あのタイミングで、フィルターを切って加速しなければ、私だけじゃなかったでしょう」

「知ってますが少しばかり反省しなさい。地べたを這いつくばって、自分が正しかったとしても、ヒース君ならあの程度、そんな無様を見せる事はありませんよ」

「あの反則と一緒にするなー。私とあいつが違うのは当然の事だからさ、とりあえずおぶってよ」


 嫌ですと彼女は首を振る。これまでの道のりはラディアンスと言う道のりが無ければ、確実に自分の命は消し去っていたと言う事は分かるが、彼女の今の状況は、自業自得でしかない。

 ポーオレはへらへらと笑っている少女に、旅立つ前から嫌悪感しか感じる事が出来なかったが、第六を超えて彼女は理解するしかない。ラディアンスは無意識にだが、自分でこういう状況を作り出し続けている。


 多分こちら側に着てからは間違いなく、強欲と言うだけでは足りないほどに彼女は飢えてしまっているのだろう。彼女の基準は常にヒサシゲと言う男に代わり、最終厄災地点に魅入られていた。

 ことあるごとに、ラディアンスはあの男には届かないと言う。

 それは否定する事の出来ない事実だ。しかしそれを肯定できる程に、彼女と言う存在の矜持は低いものではない。


 成長するでもなく、ヒサシゲを追い抜くために、可能性を得るために命を削り続けたのだ。


 だからこそ現状でヒサシゲに劣ると分かっているからリスクに飛び込み、限界を超えようとあがく。第一から第六にかけて、彼女はそれを貫き続けていた。

 本来ならばもっと安全に抜けたかもしれないその場所を、自殺紛いと言うよりも自殺その物を行い続けていたのだろう。

 それにつき合わされ続けるポーオレの心身の衰弱は、いかほどの物だったか、問う問われる以前の問題だ。


 自殺なら好きにしろ、私を巻き込むなと言うだけだが、今回は無傷とは行かなかった。

 すでに第四を越えた時点で、結晶操作に関して言うのなら十全に操れるようになっていた。ラディアンスは少なくとも領域的には人外の位置に達しているが、彼女の貪欲ぶりはもはや彼に勝る以外ではどうにもならないだろう。

 彼女の知るヒサシゲと言う存在は、自分の能力を半減させられ、その上で第七を笑って超える事の出来る実力の存在だ。それを目前で見せ付けられた彼女は、第六を見てこうも思ってしまう。


 あの男の敵じゃない。

 それは彼女のもはや根幹にある欠陥となっている。すべての基準をヒサシゲに合わせている所為で、自分を徹底的に卑下する。追いつけないという焦燥感と、それを当然と思う彼女の感情は、完全に屈折した者と変わり、傍から見れば土地狂った自殺者へ言うしかない醜態だった。


 ラディアンスが死ねば、彼女は彼女でヒサシゲへの道を失う。

 そうなってしまえば、悲嘆にくれた悲鳴のままに災害に飲み込まれてしまうだろう。せめて死ぬのなら、ヒサシゲに殺されたいと本気で言いそうな彼女は、それだけは絶対に認められない結末だ。

 だからここまで来たラディアンスを否定する。


 彼女にとっては、自分に被害無くヒサシゲに合える場所に辿り着く事だけが目的だ。

 だからそれ以上は求めない。なによりリスクを手にするつもりが一切無い。ただ安穏に確実に、だがそれでは済まされないラディアンスとでは、考え方に絶望的な差が出来てしまう。

 どいつもこいつも、自分の事しか考えていない事を証明するような根性腐ればかりであるから仕方ないが、最近になって彼女に付いて行けないと思う事が増えすぎていた。


 第六を抜けて彼女が倒れていた時に、暢気に「芋虫」などとふざけた言葉を言われた時には殺してやろうと、ポーオレは計画を立てたほどだ。

 彼女にとっての大事な物を平気で台無しにしかねない。そろそろ捨てるべきか、本当にそう言う計画を彼女は立てたくもあった。


 それでも捨てられなかったのは、情などではなく、彼女はその場で見続けてきたラディアンスと言う存在の素質を見せられ続けたからというのが大きい。

 間違いなく彼女は怪物なのだ。第六にいたるまで彼女も色々な開拓者を見てきたが、少なくとも自分を縛ってまで、第六を抜けた存在を彼女は聞いた事が無い。全身全霊が開拓に改造されたような存在であるラディアンスの実力だけを彼女は認めていた。


 物が違うと言う言葉を始めて知らされた気になった。

 ここにいる人間達はきっと、ポーオレが考える以上の化け物達だろう。それを食い散らかすほどの存在として、確かにラディアンスは存在していると、ポーオレは確信してしまっている。

 目は抉られ、足も惨めに一本だけ、傍から見るなら夢の終わった敗残者だろう。だが彼女は凶悪だった。時間が惜しいと、本来なら、いや一人だけならこの少女は、この場所にこなかった可能性がある。


 自分が出来ると言う確信を持ち続ける少女は、躊躇いの感情が無い。

 たぶんだが第七をそのままでも抜けていた。そう思わせる素質を感じずにはいられない。だがくるりと見回す人の流れの中で、そう出来ると確信する者達はポーオレには見受けられなかった。

 ある意味で、開拓と言う存在の頂点に近い思考をしていた化け物に晒されていたからだろう。


 開拓者に対する審美眼が磨かれすぎている。キチガイを見すぎて、キチガイを選別できる目を持っただけ、自慢になるような代物では無いけれど、彼女が手にしているその感覚は、たぶんだが間違いない。

 ここまで来た推定でもトップエース級の実力を持つ乗り手達に対して、彼女は第九や第八に到達できるものがいるかと考えた時に、彼らはもう歪んでしまって見える。自然にゆっくりと屈服させられている。


 かつて第六を超えた所で諦めた者達は、これから先に脅えて旅立てなかった。

 そして限界点を迎えた彼らの中には、一歩もこれから先に進めなくなった者達もいる。そうでなければ、バンドと言う場所に人が溢れる事なんて無い。

 六の恐怖を乗り越えて、彼らは厄災に心を食い殺された。


 結局そう言う人間が集まったのがバンドと場所の結論である。良くも悪くもバンドの中には負け犬の匂いがする。

 ポーオレはそれを変わらない人間達の所為で理解させられてしまっている。


「私と貴方は独立独歩でしょう。歩けないなら這いずるのは貴方の義務です」

「義務って、そうなの。けどポーオレは私に対して最近容赦って言葉が抜け落ちてる気がするけれど」

「色々とありましたからね。ただ貴方が今更私の言葉を気にするような類とでも思えません」

「いやいや、私も小娘の一人だからね。熟年者の言葉には、それなりに色々と感じ入るものはあるよ」


 彼女なりの嫌味だろうが、それをポーオレは嫌味ととらない。

 年齢なんてのは重ねた時に、恥じる物のある人間が若さに対する嫉妬を述べるときの典型的な文章だ。

 そしてその言葉を子供が使うときは、老いに対する憧れだ。

 そんな何でも無い会話のはずなのに、ラディアンスの言葉に背筋が寒くなるのは、まだこいつは足りないのかという感情だろう。

 あれだけ厄災の中で遊びまわったくせに、まだ足りないのかお前はと、声を上げたくなる。


「感じたところで変わらないのなら意味は無いでしょうディン。貴方はなにをしても結果は一つだけなので、言葉に重みもかすれも無いんですよ」

「そんな事は無いと思うけど、完璧ポーオレさんが言うと私もそう思ってしまう気がする」

「むしろそうじゃなかった事を教えて欲しいですね。貴方はもう何もかも戻ってこれないのですから」

「だってほら私って、未熟者じゃない。まだ変われるよ、まだ足りないから」


 お前の足りないと言うのは、ヒサシゲに及ばないだけだと言いたいが、今更過ぎる無いように、疲れが肩に圧し掛かる。

 往来の真ん中の会話だが、歪な二人の関係に開拓者や住人の視線は彼女達に釘付けであるが、それは彼らの会話の内容と、状況がとち狂っているだけで、話しかけられないのはあまりにも彼らが開拓者の中でも歪だからだろう。


 確かに彼らは大多数から見れば歪すぎるが、もしここにラディアンスの祖父がいたら泣き出したことだろう。


 なにせ全身全霊が開拓に集中した存在だ。自分の孫からこんな存在が生まれたとしたら、彼が生きていたなら、きっと自分は間違っていなかったと歓喜に染まってくれただろうが、生憎とその狂気と差し支えないような行動力を持って動く彼らを、賞賛する姿は無い。


「こうやって体を引き摺ってるわけだしさ」

「それは未熟じゃないでしょう。自殺の変わりの代価って言うんです。命の変わりに足を払ったんでしょう。なら次の足を得るまでは自分で足掻きなさい。

 生憎私は、私で手一杯なんです。私の貴方の足はまったく違う方向を向いているんです」

「耳のいたい説得力だなぁ。確かにそうだけど、そうなんだけど、最近は本当に私に一人出歩けと言うよね」

「ええ、正直に言って私が貴方に言える事はもうそれだけですよ。勝手に成長して、勝手に走っていくのは知っていますが、これ以上私から言葉が必要かと問われればいらないでしょう」


 ポーオレの言動に言葉を噤む。

 彼女はもうラディアンスに出来る事は無い。後は自分で歩くだけ歩いて進み切れば良いとは思っている。だがその彼女の進む過程で、自分を巻き込んだ自殺騒ぎをしてくれるなと言うだけだ。

 自分がいらない事実はもうクルワカミネから出る前から知っている事だが、ある程度彼女に方向性を与えていたのも事実だ。


 だがその全てが無駄になったのもまた事実だ。

 変える必要が無い。ポーオレが西域開拓に関してラディアンスを手助けした事は無い。食事に対する価値観が絶望的に違うお嬢様である為、自分の役割は飯炊きだと本気で考えることもあったが、あながちそれは間違っていない。

 それでもお嬢様は常にポーオレは絶対必要だよと、言ってくれるものだから、裏を考えずにはいられない。が、ラディアンスの程度の思考がポーオレに読まれないわけも無い。


「私が使えるポイントは一つきりでしょう。ヒース君との戦いの時ぐらいしか予想が付かない」

「なに言ってるの、その一つが大切だから私はポーオレを逃がすつもりが無いんだよ。

 私は他の人間はいらないと思うけど、ポーオレは私の目的に必要だからいらないとは思わない」


 善悪の概念がどこかに消えうせたその自意識の塊は、何でそんなに自分を卑下するのと困った笑い方をする。

 内心気持ち悪いと思いながらも、怪物へと変わっていくラディアンスの形に冷たさを感じずにはいられない。まだましだった頃を知っているからこそ、彼女の変わりように、別人ではないのかと言う錯覚すら覚える。


「確かに、そう言う有用性を見せて置かないと、私も途中で放り出されてしまいますから。使える貴方を手放してしまう訳には、いかない訳ですから当然ですね」


 だが同時に彼女も同じようにラディアンスを道具のように扱う。

 彼らは発想と行動が実はかなり似通っているが、それを二人手間ともじゃないのはあちら側と言って聞かないだろう。

 突き抜ける方向性が違う所為で、二人ともまともとは言いがたい思考をしている事に気付けない。


 あいつよりはマシと言う感覚が強すぎる。


 周りが聞いていれば、いやどっちも最低だよと言いたかっただろうが、色々と係わり合いになりたい連中ではない。


「それで後十五メートルぐらいなんですが、そこの芋虫さんはいつになったら人間らしい二足歩行で歩けるのでしょうか」

「もしこう言う人を大切にする権利団体があるなら、ポーオレの言動全部がひきつけ起こしそうな言葉の暴力だよ」

「ディン、貴方こそ失礼すぎませんか、私が見下しているのは貴方一人だけです」


 人類失格宣言を軽く行いながら、その自身満々な言動に流石に声が出ないラディアンス。

 こう言うポーオレの発言を聞く度に、ラディアンスからすれば自分はまともだと思うが、まるでいぬでも招くように、おいでおいでと手を叩かれるのは流石に不愉快では合った。

 人権団体どころか普通に生きている人間が、ポーオレを殴りつけてもさほど不思議では無い光景が、まさかポーオレな理の激励だと知ったら、一帯どういう反応を一同がするのか見ものではある。


 だがどう考えたって差別主義者よりたちの悪い光景は、周りから見ればこいつ本当にまとも脳の構造をしているのかと戦慄させる力は在る。

 少なくともそれは仲間に掛ける言葉じゃない。厄災を乗り越えて怪我をした人間を芋虫呼ばわりしてのあの言動は、戦慄させる力もあるが、中には逆鱗に触れる事だってある。

 そうあってもポーオレが彼女に言う理由を分かっているから、ラディアンスはまだ納得できているが、そうで無い人間も多いことだろう。

 まさかこれた立ち止まる暇があったら動け、這ってでも前に進む力に使えと言っているなんて誰が思うだろうか。これはポーオレが出来る最上限の他人への配慮でもあるが、行動と言動だけなら最低だけを煮詰めて発酵させたような代物だ。


 このバンドに合って彼女達は常に異質に見える。

 それは当然だったのかもしれない。ここは諦めと次への恐怖が停滞する場所だ。だがこの二人に限ってもっとも歪だったのは、彼女達だけは間違いなくその場所に不釣合いだった。

 だからだろうか、本来なら人の逆鱗に触れそうな言動の数々に、憤慨しながらも口に出すものがいなかったのは、もしかしたらその場所との不一致だったからかもしれない。


 それはとても簡単な事で、この場所にいながら心に対して傷が無い。

 ここにまで辿り着いたのなら、多少は刻まれる筈の厄災に対する恐怖は、二人の女には存在していない。

 むしろ脅える事も無く次を目指している事が行動全てから強烈に溢れている。


「うゎ、凄い腹立つ。こう見えても色々頑張ってると言うのに」

「それは見ているから分かっています。ただ、頑張っても、結果を出さなければ、頑張っただけでしょう。何だってそうだけれど、頑張ったは勲章じゃないことぐらい知っていますよね。そして言い訳でもありません」

「耳が痛くなるから止めてよ。分かっているけど、一刀両断されたら逆上する人もいるよ」

「図星ってだけでしょう。こう言う事に優しさなどいりませんよ。それで納得できないなら、諦めなければいいだけです。貴方にはいらない忠告ですがね」


 これは強者の言い分に近い。

 だがポーオレにとっては興味が無いのだ。ベクトルが違うとは言え、彼女も変わらない恋愛狂いである。開拓狂であるラディアンスとは、方向性が違うだけだから仕方がないと言えばそうだ。

 だからこそ彼女は、ラディアンスとは違うが自分の夢からぶれる事は無い。そう言う彼女だからこそ強者の弁を振り回す、弱者の論を切り落として、踏みにじるような言動が出来るのは、ポーオレと言う存在が、夢のためだけに故郷を灰にしても構わないと思い実行してしまったラディアンスとなに一つ変わらない存在である証明だろう。


 この歪な二人の関係を傍観する人々は、義足を手にしようと這いずる彼女らの姿を黙ったまま、じっと見続けていた。

 その会話に憤慨する事も出来ず、これからこの場所に災害を呼び起こすであろう彼女達の姿を彼らはただ呆然と見ていることしか出来なかった。

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