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西果て鉄道運行中  作者: 斉藤さん
第二部 今日死ぬにはもってこいの日だ
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五章 前を見るなら後ろを見よう

「こういっては何だが、随分と久しぶりに対面した気がする」

「三日前に会ったけどね。なんか色々ありすぎたもんね」

「それでどうだ。ちゃんとやっていけるのか、食事なんかに困ったりはしていないか」


 何打この会話は、などと口を挟めないのは淑女だけだろうか。

 正直に言ってよく分からない状況が続いていた。

 父親が息子に話しかける内容が無いときに問いかけるような微妙な空気は、かれこれ五分ほど続いているが、これが何の進路相談だというのだろうか。


「ポーオレ、彼女には迷惑を掛けていないか、いや掛けているか、お前が掛けないわけが無いだろうな」

「掛けてるとは思うけど、それ以上に泣かされたりしてる気がする。三十分ぐらい前に婦人のところに殴り込みを掛けて負けたら無様とか言われたりした」

「ならば彼女のいう通りなのだろう。無様と言うなら否定できない立場だ」


 会話のデッドボールしか行わない父と、その言動に対して否定できない娘は、困ったような表情を作って頭をかくだけだ。

 自分が無様である。それを肯定できる人間は少なく、それに反感を内にでももたない人間はまず存在しない。しかしラディアンスに関しては、反感一つ胸に抱く事は無かった。はっきり行って彼女は、ヒサシゲに追いつくまで無様なままだ。


 既にそれだけは自覚している。力が足りないのも当然の事であり、罵倒が罵倒にならないのである。

 ましてそう自覚しながら歩き出した存在が、そうならない訳がない。


「だと思うよ。絶対に今のままじゃあ、無様のままだろうからね」

「余裕は出来たようだが、っているのが、手に取るにように分かる。全て心に沈めておけ、お前のそれは意思ではなく焦燥だ」

「まだそこまでは成長できないかな。私が成長できるとすればね。あの大地に一度さらされた時だけだよ。ポーオレはきっと私を簡単に成長させてくれるだろうけど、その程度じゃ足りないんだ今は」


 折れたって何度でも私は立ち上がれる。ラディアンスはそう宣言すると共に、クルワカミネに居る価値は無いと宣言してみせる。

 土俵の差だ。ポーオレに泣かされながらも、ラディアンスが焦るのは、ここに居る限りこれ以上の極端な成長が存在しないと言う事、たった一人彼女の全てを認めた男が彼女に言ったのは、いいから外に出ろ立った。


 多分それが一番正しい。泣き喚いてここで立ち上がり続けるよりも、ただ一歩目を踏み出す事がきっと何よりも正解なのだ。

 ヒサシゲに追いつくと言うのならば、自分を死の際まで追い詰めて、それでも足りないほどに自分を削り続ける。それが出来なければ、追いつけないのである。


「成長か、そもそもがぬるいなラディアンス。お前はその程度で本当にあの男と対等になれると勘違いしているのか」


 しかしただ一人ヒサシゲに最も近い場所に居る男は、その彼女の言動を鼻で笑った。

 その行為を彼は認めないとでも言う様だ。


「対等じゃないからね。追い越すんだよ私は」

「ならば言い変えるか、なぜ無理な事を無理と言わないおだお前は」


 ラディアンスの言動が不思議でならないと、お前のどこにその価値があるのだと疑問を抱く。

 単純な話である。彼女では力が足りない以前の部分に問題がある。


「お姫様ごっこをするのと変わらない程度の意思か、言葉に可能性しか詰まっていないぞ、お前の言葉に確実性はない。つまりな、己の弱さを肯定して、それを言い訳にしているのだ。

 あの男はそんな事はしないぞ。ただ行く、ただ貫く。それだけで十分だと、命を振り込むのはそれでいいと、そうはっきりと私の前で宣言していた。

 成長だと、そんなのは当然の義務だ。人が生きていて、そうならないなんてありえはしない。そんな可能性にかけるだと、それ自体が逃げだと私は言っている」


 成長と言う言葉は、本来逃げではなく過程の言葉だ。

 言葉を返せなかったのは図星だったからだろうか、彼女は確実に言葉を奪われた。ポーオレには無様と言われ、父には逃げだと言われる。自分は一体どうなれば、この愚か者どもを肯定させられるのかと、家に沸く殺意で目の前が白くなる。


「こう言ってやるべきか、お前は今の自分を信じていない。未来の自分だけを見ているだけだ。方向の違いはあれど、結局自分を見てないのだろう」


 言っておくがヒサシゲもラディアンスと同じような人間だ。

 自分が足りないと思えば成長を望むが、そこにある意味差がある。ヒサシゲは自分を見ているが、ラディアンスは先しか見ない。

 安定とかそう言うことじゃない。自分のエゴを張り続けるのがヒサシゲなら、先の自分はどうにかなると思って立ち上がるのがラディアンス。どちらが悪いと言うわけではないが、その部分を突かれていらだつのであれば、彼女にとっては図星と言うことであり、自覚している内容の全てが、無価値であると言うだけの事である。


 つまりはただ純粋に彼女が吐き出す言葉に対して、ラディアンス自身の貫目が足りないのである。


 だから疑われる。だから信用されない。どこか言葉に疑問の余地を与える。

 お前には無理だとあざ笑われる。

 これがヒサシゲと彼女の差だ。西には到達できてもヒサシゲには敵わない。これが彼女にとって最も不快であり、納得できない内容でありながら、全ての人間が共通する彼女とヒサシゲの認識である。

 ラディアンスは反論が出来ない。足りないのは認めている。だがそれでは足りなかったのだと、吐き出すように殺意をこめ続けた。


 覆してやる。その認識の全てを、だが今の自分では足りない。

 説得力の無い言葉に、価値を誰も与えてくれなどしない。それを与えるのは自分だけだ。自分が亜たてやら無くては、その言葉はただの嘘にしかならない。

 そんな言葉に他人は価値を認めてくれるわけは無いのである。その差を作れる程には、ヒサシゲは彼女より上に居るが、それでもだ、それでも彼女はあきらめるいわれは無いのである。


 心には己の敗北ではなく、相手の認識に対する反抗だ。感情を抑えるのではなく、必死になって内に内にと押し込み続け、ただ声を上げるだけの自分の無駄を無くして行く。そもそもだジェイルドは彼女に対して反論を期待していない。

 そもそもだが、彼と彼女の差を問うのであれば、その差に対する明確な行動を行わなくてはならない。今のラディアンスにそれは出来ないだろう。だがそれは彼女にとっては雌伏の時間でしかない。黙ってうつむいているのも、必死になって涙を流さないようにとしているのも、全ての感情を西に向けるためなのだろう。


 その中に見返してやると言う感情が消える事は無い。

 他者に言葉に流される。その弱さこそが彼女の弱みであり、同時に強みでもある。全て受け止めて力にする度量があるのであれば、彼女の成長が止まる事などありえないだろう。

 それを行い続ける努力あるのであればだが、人の成長が止まるはずは無い。その正解だが、人類的不正解を彼女は引けるからこそ、西に到達するなどと言い切れるのかもしれない


「言葉に詰まるか、まだ子供なのだから仕方ないのか、それとも子供である事が免罪符なのか、どちらでも構わないが、あえて問いただそうお前はどちらだ」

「それは」


 それはなんだろうと、口が開きたくて叫ぶ中で止まる。言いたい言葉が何かじゃない。

 言ったところで意味が無い事に彼女は無意識ながらの気付いたのだろうか。だがここで止まるのは彼女じゃない、ラディアンスと言う女のする所業ではない。


「それは、いや違う。私は、私だから」

「だからなんだ。お前に対して私は商業的価値を求めるための話をしている。お前の価値はどこだ、お前が吐き出せる価値は、私が対価を払うに価する何かがあるのか」


 言いたい言葉も分からないのに、なぜか吐き出そうとする感情だけは存在する。

 私は、私はと、何度も繰り返す彼女の態度は、それだけである意味価値を持っていたが、実証の無い価値などに、その男は金銭も信用も与えたりはしない。

 そもそも本質的なずれのある二人だ。会話に対して意味は無いのは、実はポーオレもジェイルドも知っているが、それでも認めさせる事は不可能ではない。存在だけの説得力を求めるのであれば、実績と言う価値が無ければ無駄かもしれないが、信じさせるプレゼンテーションに関しては利益と言う中で繋がれる。

 だからその折衝が出来るのであれば、人は殺意を抱いている人間とでも手を繋げるだろう。


「私だから、私が、私だから」


 そんな中での彼女の言葉はこれだ。こんなものに商売人が価値を見出す訳が無い。

 言いたい内容はあるのだろうが、それが言語化されていないのが丸分かりである。だから早くと彼はせかす、こう言うべきだろうか娘に手を貸す理由をお前が作れ、と。

 これが彼が出来る現実とのすり合わせ、これから自殺紛いの事業を行う娘に対する最後の餞別。だが随分とそれを行うにはハードルが高かった。


「それが理由とでも言うつもりか。それは理由じゃない、ただの無価値だ」


 そして拳固か出来ない彼女もまた、別の意味でいらだっていた。私だから、そうだそれだけで十分なのだと、苛立つ感情を隠す事も無く泣き喚くように声を上げる。


「私だから、私だから。――――っぃ、それが理由なんだから仕方ないじゃない」


 振り乱す感情が、ラディアンスの本質だ。彼女はヒサシゲとは断じて違う。

 ただ感情を吐き出す。何よりも彼女にとって正しいあり方だ。押さえ続けていた西への欲求も、今まで押し込めていた感情も、全てが全て彼女にとって無駄な事であったのは事実だ。

 だがその不満が今の彼女を作っている。自分は自分だから、それだけでいいのである。彼女は彼女であるから、それが全ての価値だと言い張れる。


「だって、私以外にそれをこなせる力のある人間が今この世界に居ると思っているの。そんな人間は絶対に居ないのに、誰に賭けて、誰が西に到達できる。

 私だけ、私だけが西辿り着く。

 それが全ての理由だよ。それ以外の理由があるわけ無いじゃない。私は西に辿り着けるんだから、私以外に辿り着ける価値のある人間を出してから価値を求めてよ」


 だがそれはジェイルドにとっての無価値である。彼はそんな事を聞きたいのではなく、言外にあの男を越えられるのかと聞いているだけだ。

 それ冠して彼女は不明としか答えられない。劣っているのは確実であり、自分の成長結果追い立てる事すら想定に入っている男に対して、どこまで縋り付けるのかと聞かれれば、ラディアンスに確証なんてものは用意できない。


 だが同時に彼女の言っている事に納得できない訳でもないのも事実である。

 彼女の言葉を否定する事は出来ない。何せ、本当にそんな価値を認められる人間が、このクルワカミネにはもう彼女しか存在していない。

 しかし足りないのだ。彼女には素質があるだけで、それ以上のものが無い。そんな価値ではジェイルドは、ラディアンスに対して価値を与えてやれない。


 もっと言うのであれば、その価値を彼女が作らなくては何の意味も無い。


「それで、お前の未成年の主張は分かった。一理あるのも認めよう。それで価値を何時になったら見せるのだ。それでは私はお前に納得してやれないぞ」

「納得しろ。納得できないならお父様の目は節穴だ」

「よく言う。お前のどこで納得しろと言うのだ。少なくともお前よりは見る目があるつもりだが」


 実際その通りである事をラディアンスは否定しない。

 しかしそれでも彼女は、父を節穴呼ばわりするだろう。


「節穴を節穴といったって、なんら間違いは無いと思うけど。だって私の価値を見極める事の出来ない程度の目でしょう」

「それでもだ。私の目が節穴とて変わらん、お前の言葉で私は納得できない」


 自分の価値を信じる以外にありえない。感情を押し込めて前に進む力にしたのなら、後は無尽の野を行く意志を貫かなくてはならない。

 覆す、人の認識も全ての価値も、彼女にとっては一切合財同じものであるから、自分があの男に勝る存在であると認識させる為に、彼女の意思は確かに一つ一つが研ぎ澄まされていくように鋭くなっていた。


 とはいえ彼女はまだ幼い。その発言をしながら、自分が感じる不安をぬぐう事が出来ずに片眼鏡の調整をするように少しだけ動かしたときに、銀の鎖を握って自分が認められない感情を体に押し込んで、己の意思の主張を叫ぶように行う。

 私は私だから、それだけが理由なのだ。自分に賭けられる人間が居るならそれしかないとラディアンスは言う。


 それはどこまでも自分本位のエゴイストだ。しかし夢をかなえる奴なんてのは大体そんな奴だ。

 他人の事なんて考えない。他人の為には動かない。自分の結果を省みない。そんな屑の中の屑だけが、自分と言うエゴを張り通せる。

 夢は綺麗なものなんかじゃない。常に汚濁と人の妄執によってのみかなえられる。自我を押し通す存在たちが、結果を出したときの賛美の言葉に過ぎない。


 自己を押し通す。

 それはつまりは他人を省みない事だ。他人に価値を求めない事だ。だから結局、その部分で彼と彼女は対等になる。

 気持ち悪いほどに押し寄せる感情、それを無理矢理に引き出しながら、それがいつの間にか、彼女の当たり間に変わって、今となってはそれが溢れ出す。


 人は生まれて死ぬまで、他人に寄りかかっても結局一人なのだ。そこに立つ巌の感情は、自分以外と歩く事が出来ないと言うだけの孤独な感情でもある。

 知り合いと足並みそろえてなど、彼らの中では存在しない。遅れるのなら走ればいい、一緒に進みたいのなら、相応の努力をしろという。そんな状況にあっても、彼らは足早にそんな人達を置いていく。


 その人間がこちらに足並みを合わせろといわれても、ラディアンスが出来るはずも無いのである。

 彼女は常に無人の野を歩ける人だ。どれほどの困難も先頭に立って、ただ一人で自分の道を作っていくだろう。そんな人間が、他人の為に自分の所業を解説しろと言われて出来るわけが無い。

 ジェイルドもそこまでは求めていなかったが、ラディアンスは更に性質が悪かった。自分だから認めろといったのだ。自分以外が出来るのかと、実際にそれは事実であり、反論の余地の無い事ではあったが、彼に確証を与えるには足りない。


 ここに現実と夢の誤差が現れる。

 彼は本質は政治家であるが、その基盤はあくまで商売と言う形を取る。そうしてある程度の境界線を作って、すり合わせをしながらある程度の形を作っていく。

 だがラディアンスもヒサシゲも違う。自分のために何もかもを巻き込んで台無しにする。彼らにとって正しい事は、はっきり言えばジェイルドにとってはゴミにもならない代物であるのは間違いない。


 現実主義の狂人と夢想主義の狂人。夢に狂っていても、願いの方向性が変われば認識すらも崩れていく。まるで何を言っているのか分からない娘の言葉に、彼は理解出来ずに四苦八苦するが、理解できないのが当たり前であって、通じるのは多分ヒサシゲぐらいの内容である。

 それを理解出来ないくせに、悔しさの募るのは間違いなく嫉妬深いポーオレだけだろうが、それでも言葉にまだ重みが足りない。貫目が足りないといったが、彼女のあの言葉に納得できるだけの力がまだ存在しない。


「それが全てなんだよ。それ以外に私は言いようが無いよ」

「それがどうした結局はお前の語る内容は軽いのだ。どの言動も、実績の無い小娘が喚き立てたとて変わらん。お前はお前の実力をまだ誰にも見せては居ない。それで私に何の納得をさせたいのだ」


 だからこそ、納得してもらえないのだ。

 言葉が軽い。言葉に価値が無い。無茶と分かっていても納得させるだけの力が無いと言うのは、ただの無価値以上の代物にはならない。

 彼女が納得させる力を手に入れるには、まして相手に認めさせるには、実績かそれを上回る超常の決意を見せ付けるしかないのである。


 また足りない、世界を殺しても彼女の言葉は足りない。重さとは、人生の積み重ねだけではない。

 人に見せ付けるにはもう一歩が足りないのだ。悔しさに感情を滲ませるラディアンスは、自分だからと何度も口にするが、意味が無いものに意味を与える事が出来るのは、まして自分の言動に価値を与えてやれるのは自分だけだ。


 何で分からないのと思う不愉快な感情が、私は何も間違っていないと思う意思が、その全てが彼女の言葉を無価値にしている。

 理解してもらうでは何の意味も無い。彼女に必要な力は、無理矢理に自分のその一言を納得させる力である。覆すにはそれしかないのだ、実績は無い、実力も無い、今の彼女は所詮口だけなのだ。その口だけでも西に到達させなければ、誰一人価値を認めてくれるはずは無い。


 でかい口を叩いた所で、認めさせるだけの力の無い奴は、所詮は口だけの存在だ。

 現状の自分がそうである事をラディアンスは気付いていると言うのに、狭窄になった視野が、自閉の領域にまで落ち込んでいる。

 こんなもの言葉を聞く馬鹿なんてそう居るわけも無い。この状況になった人間を喜ぶのは、詐欺師か宣教師だけだ。それ以外にも居るだろうがろくな人間じゃないのは間違いない。

 もっともそんな人間であっても、ラディアンスに触れる事を考える人間は居ないだろう。何せ今はくすぶっているとはいえ、それでもこの娘はガソリンタンクみたいなものだ。何時爆発するか分からない性質だけは常に備え居ている。


「もしその言葉で私を納得させたいのなら。もう少し、時間を掛けるか、お前にそんな時間があるのか分かりはしないが、私には無いと考えているが」

「ないよ。私にはそんな時間は無い。お父様の仰るとおりでしょうね。私は軽いのかもしれない。けど、それがやっぱり全てなんだよ」


 ヒサシゲを会話に出した瞬間、ラディアンスの何かがぷつりと変わった気がした。

 自分の敗北を認めた言動は常だが、先程まであった彼女の子供のような駄々が一瞬にして霧散したのだ。

 少しの静謐が、一瞬だが体の一部分でも奪われたような喪失感を感じて、腕をジェイルドはまさぐった。当たり前の事ながら存在するその感覚は、一体何を失ったのかすら理解し得ない。


「私が、私だから、西に迎える。私は私だからあの男に追いつける。誰もが諦めてるから、私だけが追いつけるんだ。何も出来ない人間は引っ込んでおけばいい、私は私というだけで理由になりえるんだよ」


 自分信仰、ヒサシゲとは別の意味での極点だろう。個人主義の頂点ともいえるエゴの帰結。

 結局彼女から出される言葉の全ては自分の為の言葉であり、それが全ての説得力を兼ね備えていると思うから出てくる代物である。

 ラディアンスは自分を信じているのだ。信じすぎるほどの自分を疑っていない。


 その根底を覆しているのがヒサシゲであり、だからこそ彼女は敵対するように感情を向ける。そして同時にあのような男に挑もうとする存在はもうこの世界には居ない。

 実際には勝利者ともいえるポーオレが居るが、赤い大地でヒサシゲと四つに組んで戦えるのは、ラディアンスだけだろう。あそこはヒサシゲの土俵であり、ポーオレの土俵ではないのだ。その中でヒサシゲに太刀打ちできる方法がポーオレには浮かばない。


 それに喰らいついていこうなどと考えるのは、ラディアンスを除いて世界に存在しない。

 その程度にはヒサシゲの領域というのは狂っている。だからある意味では最高の証明を彼女は果たしているのは間違いない。

 自分は西に迎える。自分だからヒサシゲに追いつける。その暴力的な意思を彼女は、どこまでもゆがめることなく告げているのだ。


 私だから、言うは易いがこれほど自分に対して自負を込めた言葉も無い。


「それで足りないなら、そもそも投資する必要すら感じない。私に対して価値を認めないなら、お父様の目は節穴で、投資家としては無能だってことでしかない」


 少しずつ世界に亀裂の走る音が響いた。

 流石に呆れるしかない。彼女は結局自分を疑わないのだ。だれが疑ったとしても、自分が出来ないとは思わない。私だからというのは結局そう言うことだ。


 全ての人間に自分を見ていろと宣戦布告している。

 自分に足りないのは時間だけだと、それを埋める方法を持っているのであれば、父の投資も受けようとしたが、時間を奪うのであればもう不要だ。

 しかし時間を掛ける理由も無い。彼女は歩き出そうとした。これ以上は時間の無駄というだけで、だが結晶操作を操るジェイルドは彼女をそこに縛る。


「いらないって言ったよね私は」

「悪いが、これは商談であると同時に、進路相談でもある。お前がどうなるか、父親としては知っておく必要があるのでな。無能とそしられ様がさしたる意味は無い。結局お前はお前の価値をあの男の様に刻めないというのだけは理解した」

「その挑発はずるい。確かに劣っているけれど、結果で見せるしかないじゃない。私は私だからあの男に追いつくって、西に辿り着くって、実績を見せ付ける方が得意なんだよ」


 それでもまだ自分は足りないだろうとどこかで思う。

 彼女に植え付けられた敗北感はたやすく抜けない。あえてヒサシゲが植えた代物なのだから当然であるが、彼女はそれを完全に原動力扱いしている。

 ラディアンスは止まらないのは、ヒサシゲという存在が彼女を掻き立てるからでもあるのだ。


 不愉快ながらそれ彼女は流されてしまう。人の願いを自分の為に使う化物呼ばわりしたヒサシゲに対する彼女の認識はこの辺りから来ているのだ。

 ヒサシゲの思惑通りに動かされる自分という状況、そしてそれを悪くないと思ってしまう現状、そしてそれを勝てにして進むしかない事実、全部が彼女にとっては不愉快であったが、それだけが糧であったのも事実だ。

 それを原動力にするしか進む方法が今は無い。敗北を認めながら、それを租借しながら道を作っていく方法しか彼女には存在しないのだ。


 敗北宣言にも似た今の現状、それに苛立つのは仕方なく。そのために時間を無駄にしたくないのも当然だろう。

 その上で、あえてポーオレが彼女のその部分をつくようにして笑った。


「頭を下げればいいじゃないですか」


 ああ殺してやろうかこのクソ女。吐き出しそうになった言葉は随分と野蛮だったが、今それをしたところで全てジェイルドに阻まれるだろう。

 ただ怒りに満ちた衝動は間違いなくポーオレに向けられ殺意と呼ばれる代物であるのは間違いない。


「なんですか、折角のタイミングですよ。こういっては何ですが、あなたの開拓者としての実力は正直に言って未知数と言えば聞こえがいいですが、機動戦をした事も無いだけの三流以下です。そこに援助がもらえるのであれば、靴をなめてでも願い出るのが常道でしょう」

「そうだけど、そうだけど」

「プライドですか、それとも失敗したときの言い訳ですか。あなたは言い訳できる立場じゃない、そして失敗できる立場じゃない。その上でこのまま道を進むか、自分で道を切り開くか、少し私に見せてもらえると嬉しいですよ」


 つまりだ利益のすり合わせなど全てが終わった後、相手を信じるに値するかを判断する際に、最後に見せるのは誠意だけだ。自分を信じさせる事と、自分を裏切らせないために、その時に自分が出来る全ての方法を模索して、それでも出来ない最後の一線を見せながら、相手に対する謝意を見せる。

 だがラディアンスには出来ないだろう。彼女はそうする事をしない人間だ。


 こんなとき彼女の頭に浮かぶのは大したことではない。

  自分にとっての最善が何かしか見れないその頭で、頭を下げるのなんざ死んでもごめんだ、と言う結論しか出ないのである。


「それでもだよ。言い訳じゃない、私だからなんだ。やっぱりその全ての言葉にそれしか返せない」


 夢は自分のもので、他人のものではない。だから彼女はどんな状況であっても同じ結論を下す。


「それならそれでいいのでは」と、嬉しそうなポーオレだが、彼女はどの結論でもこういったのは間違いない。彼女の言葉に偽りがないのであればそれが正しいのだ。

 それに納得できないのはジェイルドだろう。彼は頑固者がとため息を吐いた。


「結論はそれか、餞別をやるには程遠い結論だな。お前はお前だからか、そんなのが何の意味も持たないのは知っているな」

「それはあなたの娘なんですから当然の事だと思う」


 意味は無い、価値は無い、それはどういいつくろっても否定できないだろう。

 それを説明も出来ないのも当然とは言え、ジェイルドのいう言葉はひどく重く響く。悔しくても何があっても、今の状況では彼女の価値なんて滓すらも無いのだ。

 だがそれを肯定した時、ジェイルドは彼女に何かを投げ渡した。


「支援はやれん、だが父の置き土産だ。それでまずい飯を食う必要はそれでなくなるだろう。お前の言葉ではその程度の価値しかない」


 結局は交渉は決裂、支援は途絶。元々無いものだとは言え、渡された代物はある意味ではこれからの活力になる代物だ。

 なにせ開拓用とはいえ、食料生成によって出される代物は、栄養しか揃っていない生ゴミである。

 ラディアンスはそれが餞別だとは思わなかったが、ジェイルドに残った父親としての最低限の行為だったのは間違いないだろう。


 そしてそれが最後の別れで会ったのは間違いないだろう。これより先に親子の上は存在しなくなる。

 ラディアンスがデータを受け取ったのを確認すると、彼から感情の色は消えうせた。それが歯車の頂点たるクルワカミネの王、総長ジェイルド=クルワカミネに敵対者に対する殺意である。

 もはや能面と呼ばれた意味も、そして血が通ってないとまで言われた本当の意味も理解する。彼が化物であると、これが災害の一角理性の巨人の本性ともいうべき形だ。


「最後に言っておく。お前は支援を受けなかった以上ただの犯罪者だ。こちらも相応の手を持って捕まえさせてもらう」

「いや、それでこそお父様。娘であってもここに必要なら切り捨てるその部分、随分あいつとそっくりだよ」


 甲高い笑い声、落とすだけ貶めた彼女の夢も決意も、そして何も無くただ荒野を走るための選別の何もかもがようやく始まる。


「私は比較的理性的だあいつよりも」

「違うでしょう。理性しかないんだ。だからそうなれるんだよ皆、ポーオレもあいつも私もお父様も、皆は理性に狂っているんだ」


 自我と言う自分の欲求を晴らすために、ただ人間のままに人であり続ける。

 それを狂人というのか、それとも開拓者と言うのか、それとも革命家と言うのか、全部同じで全部違うのだろう。

 とどのつまりは、自分であると言うだけなのだ。


「そんなどうしようもない人達だから、夢に命を賭けられるんだ」


 そんな人間だからこそ、彼らは、いやラディアンスはこう言うのだろう。


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