十章 祭宴宣言
松江、行政区として存在し、ここはクルワカミネの全てが決められてきた場所である。
要塞列車が存在し、赤い大地を走り続けて始めてからずっと、ここではすべてが決まってきた。いろいろな歴史もあるだろう、その間に人々の営みも、考え方もきっと変わり続けてきた。
そして大地に根ざすようになっても、未だに変わらない。
ここはクルワカミネの頭脳とも言うべき場所だ。だからこそクルワカミネの屋敷もここにある。
「一度お宅の娘さんを返しますよっと」
「お邪魔しますでもいいと思うよ」
嫌がらせのつもりであったが、一番近場と言われて自分の家を選んだラディアンスも大概が、ヒサシゲもそれを面白いと言って冗談を本当にしろと指示を出す。宣戦布告のためによりにもよっていきなり頂点に突撃する。その豪胆な心臓はともかく、ある意味では納得の方法だ。
流石にここはないと誰もが思う場所である。
殺人を犯した人間が、別の軽い罪で捕まるような代物だ。
気を隠すなら森の中、人の心理の穴を付くのは定石である。最もそれでも通常の警備ぐらい入るだろうから、流石に色々と堂々とし過ぎである。
「長丁場になるかもしれないし、シュベーレに服とか積み込んどけよ」
「ここで叫び声をあげたら、それだけで解決すると思うんです私」
「無理だ無理、ポーオレが何故あそこで、拳が届かなかったと思う。流石に備えぐらいはしている」
確かに全力で拳を振るったポーオレなら、鉄板ぐらいなら歪ますのだ。
それなのに、ヒサシゲが何かをした所為で、拳が届くことはなかった。あれは完全に殺す気の拳であったのに、全く無意味であったとこを考えれば、其処の男は何かをしでかす力があると言い切れる。
彼女の中ではある程度予想は立てられるが、それも全部眉唾の都市伝説。実際には存在仕方どうかもわからない代物だ。
「とは言っても、完璧な訳じゃない。ただそう見せてるだけなんだよ。少しでも完璧お嬢さんと対等になるには、ハッタリ一つも使わんとどうにもならん」
「そうだとは思うけど、そうやって私にばらして何か意味があるの」
「ある、こうやって弱点や弱味があるって言っておけば、誰がどこで聞いているかわからない、いつか広まってそれを探そうとしてくれるだろう」
それでも彼の言いたい事がわからず、どういう事だと首を傾げる。
弱点や弱みが広がる事の何がる事に、なんの利点があるのか彼女にはわからないのだろう。普通はそうかと笑って納得するヒサシゲだが、彼にとっての普通は違うようだった。
「弱さも極めりゃ強さに変わるもんだ。それだけ相手のやって来る事や手順が読みやすいって事だろう」
「そういう考え方もあるんだ。知られている弱点は、武器に変わるか、そんな事をしてたら最終的には無敵になると思うんだけど」
「無理だ無理、世の中弱点を武器にしたってどうしようもない奴はいるんだよ。そう言った奇策を正攻法でねじ伏せたりとかな。どうにかするけどなそう言う手合いも」
そういう手合いには苦労すると、自分が負ける可能性を示すが、それ以上にそんな存在であっても勝ち筋があると言ってのけるヒサシゲの言葉に、彼女は呆れてしまう。
どちらが化物だと。
「どうにか出来るって、じゃあクルワカミネにも勝てるって事、どれだけ自信家なのかね」
「さあ、負けると思わなけりゃ勝てるだろう。その筋も出来ている、なら挑むだけだろ。蛮勇も成功すりゃ、偉業に変わる結果でしか何も変わりゃしない」
「じゃあ、あなたならどれになるの、私はどれになるのかわからないよ」
最も浮かんだところで、クルワカミネに挑んだその性根が、蛮勇か、不遜か、それとも確信か、そのどれかによって評価は違う。ヒサシゲはその中から、確信を持って行動する人間だ。
だが自分はクルワカミネと戦えるなんて、常識外の思考を頭に浮かべる事を確信と取る存在をは馬鹿か、化物か、どちらかに決まっている。
どちらも正解である辺りが面倒だが、そういう人間だけが、開拓者の資質を持てるのだろう。
だがこれは資質というよりは状況だ。
それを目指そうとするなら、追い立てられるか、追い詰められるか、そして開き直るか、結局はこうなれればいい。つまりヒサシゲはこの三つの要素を手にしてしまっただけ。
強迫観念に追い立てられ、クルワカミネに追い詰められ、そして開き直った。あとは成功すれば一流、失敗すれば三流、なんともわかりやすい構図である。
「知らないね。目指す場所を目指して、そしれで勝手に燃え尽きるもんだろう」
天才的弁者が、全ての言葉を使って否定しても、ヒサシゲが結果を出せば全て裏返る。
とは言うが、基本的には失敗すればおしまいだ。特に命がかかればそれは顕著である。そこに後悔を残さないヒサシゲはきっと、命に対して後悔がないのではないかと思われるかもしれない。だが彼は臆病な部類の人間である。
ただ目指している夢の為なら命は払えるというだけ、それが他者であろうと、自分であろうと変わらない。
その割り切り方は異常だが、基本はバカで済ませられる程度の男だ。
西の為なら命を惜しまないが、それ以外では命を使いたくない。だからそれ以外の場面での被害を好まない。元々だがクルワカミネに雇われていた西域開拓のエースであった事からも、本来は確実性を求める人間であるのは間違いない。
だが先のクルワカミネが行った事が、何もかも彼らにとってマイナスを意味する方向に作用した。
それが今の現状を作り上げている。
今となっては、彼がペナダレンとにしに向かうのであれば、クルワカミネとの敵対は避けられない。なら、どう転んでもマイナスからのスタートにしかならない。
それはゼロになることもないのなら、一のマイナスだろうが千のマイナスだろうが関係はないだろう。
時折通る警備の人間に挨拶をしながら、歩くの男は、敵にしてはいけない男だ。
変わらないのなら、面白いと思う事を選ぶ。そして無意識であろうと、意識的であろうと、的確に嫌がる事だけを行う。
ラディアンスが、嫌がらせの天才と思ったのも、この彼の気質が作用している。天賦の才とさえ言える代物だ。
「燃え尽きるなら、意味がないんじゃないのかと私は思うけど」
「そうかもしれないな。けどな、どうせいつか燃え尽きるんだぞ、それがここなら後悔はないと言えるぞ」
ほとんど中身のない会話だ。
だがラディアンスはヒサシゲの会話を聞くたびに、何度も考えるような仕草を作る。価値観の全く違う二人だが、その根本は酷く似通っているせいでもあるだろう。
何より、目の前の存在は、どこまで変人であろうと彼女の憧れだった。そして今も変わらず、自分に西を見せてくれる存在だ。
同時に自分がこうだったらと考えてしまう。
彼の現状は最悪に等しい。クルワカミネの命を奪い去っておきながら、それを気にするわけでもなく飄々としている。ただ生きているだけで、神様に喧嘩を売るようなものだ。
その状況下にありながら、ただ嵐の中で一人平然と歩いているような姿を見て、どう思うかは人によるだろう。
だが断崖に立っている中、その先を見つめて、飛び降りるようにあと一歩を踏み出そうとするヒサシゲに、一体何を思うのかは大体決まっているかもしれない。
ただそんなヒサシゲに対して、平然と色々と聞き出そうとする彼女は、自分の胸に燻る感情を止められないでいるのだろう。
それ以上にこれが平然とクルワカミネの屋敷で歩きながら行われている会話だということだろう。ある程度の変装をしているとは言え、二人は堂々と屋敷中を歩いている。
本当に追われているのかと疑うほど堂々としている。警備の人間達に挨拶する余裕すらあるのだから、異常事態と言われても仕方のない光景だろう。なぜこんなことが起きてしまったかといえば、やはりこれもヒサシゲのせいだ。
単一結晶を操り、光を屈折させて姿を変えているのだが、たやすくそれに気付く者はいない。この世界でこんな事が出来る人間は、二人しかいないのだ。
それに気付けというのも無体な話である。とは言え、普通の人間の心臓なら多少の動揺もあるはずなのだが、そういった気配は一切ない。むしろ楽しそうですらある。
結局二人は下らない話をしながら、誰にも捕まることなく目的の場所に辿り着く。
行政区松江の中で最も高い場所となれば、観測塔と言われる建物になるだろう。元々は、戦争で使われたレーダーだったのだが、今となっては要塞列車に極端な警戒をする必要もない為、一部が解放されている。
接触変化の中でも災害と言われる異常変化を観測する為の設備に今は変わっている。
フィルターがある以上心配はある程度しかないのだが、警戒して困ることはない。いまヒサシゲはその場を占拠した。
ラディアンスの権限を使い、最上部に到達すると隠れたまま単一結晶を巻き即座に警備を含めた人間全てを拘束する。そして邪魔が無くなった所で、整備用に作られた外への扉を開いた。
吹き荒ぶ風を感じながら、何もかもを見下ろす場所へたどり着く。
「早業と言うより。御伽話って本当だったりするもんだと感服したよ」
「あれはただの技術、感覚とか勘で動かすものだからポーオレにはちょと出来ないが、使える人間はほかにもいる」
「どうやってだか、錬金術師か。まさか古典が本当の事を語ってたなんて驚きだよ。じゃあ、かつての世界は水が溢れかえって緑の世界だったって事かな」
赤錆のように真っ赤に染まった世界を見ながら笑う。
ありえないと。だが古典は嘘を言っていない、事実としてそこにいるのだ。万能結晶を操る三倍偉大な存在が、傍から見れば神の御技と見間違えなんの不思議がある。
ただ彼は赤い砂に息を吹きかけた。それだけで全ての人間は眠りについた。赤い大地を屈服させる力を証明してみせたのだ。
「どうだろうね。だが西域には、きっとそれがあるんだよ。あんな厚ぼったい雲に覆われていない世界がある。きっとだが、その古典の中に西域の本当の姿もあるんじゃないのか。もっと正しい名前で呼ばれてたりとかな」
「シルマーネとか、ウンシュとか、イズームグーウとかがそれになりそうなるのかな。どれでもいいけど、行ったらわかるんじゃないかと思うよ」
そりゃそうだと、頷いて見せるヒサシゲは楽しそうに笑った。
自分がそれを見つけ出すと、そう考えてまた西を目指す意志を強めているのだろうか。結論がどうあっても西を目指す男は、気付けば必ず西を向く。
観測塔の上は風が強いというのに、貧弱とまで言われた男は、根を張るように風に脅かされることはない。遮るものは何もない世界で、ヒサシゲは世界を撫でるようにして何かを掴もうとする。
「ま、それはともかく始めるか。夢も願いも叶える正念場だ、徹底的にコケにしてやろう、徹底的に遊んでやろう」
「遊んでやろうって、本当にクルワカミネをなんとも思ってないんだ。世界を玩具にしているようなもんだよそれ」
「それは面白いな、世界は玩具か、いいなそれ、玩具か。じゃあ俺は世界で遊んでるわけか」
だったらと、彼は両腕を振るった。
そこから一種の幻想を見た様な錯覚を彼女をぼ得ただろう。一度だけ、なにかが震える、僅かな振動であったが、それはクルワカミネ全てに同じ時間に同じだけ震える。
「世界で遊べか、昔だけど誰かが言っていた気がするよ」
「それを平然と言える人間はきっと人間にクズですよ」
「違いない。だが、そんなクズの一人でね。クルワカミネって玩具があるんだ、せいぜい楽しませてもらうさ」
そして呟くように掴んだと彼は笑う。
それと同時に赤い光が、一瞬世界を駆けた。それに気付いたものは何人いたか、ただそれが万能結晶と言われた赤い結晶の鼓動であるのは間違いない。
錬金術師なんとも相応しい名だ。賢者の石を扱うもの、三倍偉大なるヘルメス、かつて呼ばれたなはともかく、詐欺師の血脈はいま世界に侵食を始めた。
本来これが出来ると言う事は、クルワカミネ全てを纏めて滅ぼす事だって可能な所業だ。
ただどうあっても存在してしまう無反応の万能結晶や、単一結晶を爆破させるだけで、クルワカミネ自体が滅ぼせる。だと言うのに、ヒサシゲはそれをしようとは思わない。別に蹂躙が趣味なわけじゃない。
何よりそんな事をすれば、ポーオレやペナダレンが傷付く。なにより、人を殺すのは面白くない。相手を馬鹿にするのに、恐れさせるなんて、そんなつまらない事はしない。
馬鹿にするのだヒサシゲは、世界が自分の玩具であるように、世界で遊べるのはただ一人とでも言うように。そのためのこれは前哨戦、赤い大地に送る彼の宣戦布告。
お前の敵は準備が出来たのだと。だから、ヒサシゲにとってこれは祝砲だ。今から起きることの全ては、彼が彼のために行う宣戦布告。
音を響かせようと、絵を届かせよう。世界全てに轟かせようと。
「祭宴の始まりだってな。宣戦布告は派手に行こう、そして最初の挨拶は夜分遅くに申し訳ないでいいか」
「なんでもいいと思うよ私は、ただやるからには徹底的にすればいいかな」
「お前もう人質の自覚ないよな。明らかに共犯者の発言だぞ、それ」
今更対面を気にしても遅い。ヒサシゲの前で仮面を被った所で全く意味はないのだ。
それにラディアンスも自覚しているのだろう。
少しづつヒサシゲの言っている言葉に同調している自分がいるのに、それ気づいたところでと思いながらも、彼に問いかける事を止められない。
どうしてどうしてと、何度も心に重ねる。結論はわかっている、自分も西に向かいたいのだ。
「言われるままについてきて、人質やってる人間は、というかいくらでも逃げる機会があったのに逃げない人質は、ただの共犯者と変わらないよ」
「そんなもんか、もうそろそろ準備もできる。適当に見学してろ、俺は好きにやるさ」
いつでも自由にやっている癖に、嫉妬から出てくる言葉は皮肉で、それが自分を余計に惨めに指せる。
ただ古典に乗っていた、世界を撫でるだけで変貌させる人。錬金術師と呼ばれた、その冗談が現実になった存在は、準備を終わらせ完了だと笑った。それと同時に通信システムが彼に掌握されることになる。
だからきっとこれから起きる事は、全ての衆目に晒される事になるのだ。
ただクルワカミネの王様にビーフジャーキーと呼ぶという嫌がらせの為に、こんな下らない事を言うためだけに、異端の技術は振るわれる。
声が響く、映像が届いた。それはトンツーと響く、通信の音を連想させた。
現れる顔は笑顔であったし、何が起きているのか誰もわからなかった。どうしてこんなバカをしたのか誰もわからなかった。
ただ一つの世界に確実に響いた声が、ここに存在したのだ。
『夜分遅くに申し訳ない。こちらはヒサシゲ=タナカ、壁外の住人だ』
世界に馬鹿と言われ続ける事になる男が、それを初めて実践した最初の言葉だ。
***
同時刻、ポーオレは頭痛を抑えていた。
能面と言われた当主に状況を報告した後、鉄道網からシュベーレを探してみれば、ふざけた事にクルワカミネの屋敷にあるというではないか。
そんな馬鹿なことを実践するヒサシゲを知っているが、この土壇場ですらやってのける心臓に彼女は呆れを通り越して、賞賛しそうになって飲み込んだ。
そして今になってみればアレだ。
堂々と流れている映像、そこにはどうでもいい内容の声明が何度も繰り返されていた。人が集まりやすい行政区の監視塔に、警備も含めて次々と人が集まっていく。
野次馬に武装警察、更には虎の子とも言える鉄道警察までいる始末だ。そんな中で、ラディアンスを蹴り飛ばし、塔から落とそうとするわ、噴水を破壊してみせるわと、周りを牽制しながら改名を要求していた。
弱点も極めれば武器になるといったが、馬鹿も極めれば武器だ。
なにせ行動だけで頭痛を起こさせて、こっちにダメージを与えてくるのだから、弱点の武器化よりはよっぽど有用だろう。
ふざけるなと怒鳴り散らすジェイルド=クルワカミネの声を聞きながら、やっぱり嫌がらせに関しては、勝てる気がしないと溜息をつく。
だがポーオレからしてみれば、ヒサシゲを変えたのは、あなただと言いたい。だがそれを言った所で路傍の石が、列車砲になるなんて誰にも予想はつかない。ましてあっちは命懸けで嫌がらせをするという、奇抜なのか、それと相手にとって奇特なの変わらない行動を行う馬鹿だ。
やっぱりこうなったと内心では彼女も思っている。
どこか燻っていたヒサシゲを見続けていた彼女は、いつかヒサシゲは同じような事をしていたと思っている。これは当たり前の現象であると、不思議と違和感も抱かなかった。
彼が自分を置いていく事も理解していた。
たとえ彼女が化物であったとしても、やる気の無い人間を載せる事は、それだけで足でまといを用意するのと変わらない。赤い大地は、化物たちを皆殺しにした上で成り立つ世界だ。
天才であってもなんの意味もない。あそこは強情な馬鹿が意志を張る場所だ。
だからこそ、ヒサシゲは彼女を連れて行こうとしない。はっきり言えば邪魔だから、足手纏に決まっていると断言できたのだ。
だが彼女も今回ばかりは引く気はない。
こちらのほうが勝利条件は多い、何より甘いヒサシゲが自分に勝てる訳がないと確信していた。そのための準備は万端、公開するのはきっとヒサシゲと箱庭の王様だけだ。
その宣戦布告を彼女は受け入れる。邪魔をしてやると、もはや引き返せないのであれば、ポーオレとて引く気はない。
ラディアンスが居たのならきっと、呆れたままにお似合いだよと言ってくれるだろう。
お前らの方が似ているんだとポーオレなら行ったかもしれない。ここはきっと夢の境界線、諦める事を知らない人間だけが踏み越えられる破滅の最後の場所。
ヒサシゲは踏み越えた、ポーオレも踏み越える。さああと一人はどうであろうと思いながら、王手をかける場所に向かう。
これからは時間の勝負だ。
馬鹿の筆頭はこれから何もかもを馬鹿にしながら動き出す。だからあっちに定石はないだが、ヒサシゲが逃げられない場所に彼女は陣取る。そのために二人のエースを引き抜いたのだ。
彼女の力を落とす為に、足手纏いをつけたといったヒサシゲだが、彼はこうも言っていたはずだ。
弱点も極めれば武器となる。相手の手が読みやすくなる、と。なら、二人のどちらが先にその武器を振るえるか。
それは確実に誰も知らない戦いだろう。結局は馬鹿が馬鹿をしたとしたわからない。
だがヒサシゲは、その赤い大地を駆けようとしていた。そして彼女は純白の道を共に歩もうとした。
ポーオレは面倒な男に惚れたもんだと嘆息しながら、あそこまでやってのけるのなら惚れ甲斐があるとも思ってしまう自分間抜けさを笑う。昔から言葉が変わらなかった、態度が変わらなかった、きっとそれだけでいい。
ヒースはあのままじゃなければ嫌だ。
そう思わせてしまえば惚れた方の負けだ。だからここでは勝たせてもらいますと、多分馬鹿を馬鹿らしくやっているヒサシゲの方を見て笑う。
楽しくやるは勝手だが、敵が誰か忘れているんじゃないかと、クルワカミネなら遊んでも相手になるかもしれない。けれど自分は違うのだと、嫉妬でするような視線だ。
きっとその通りでもあるし、彼女はそれを否定することもしないだろう。
むしろその何が悪いと言い放つに決まっていた。現状ですら不服はあるのだ、ヒースは敷にやっているのに、自分はそうはいかない。
嫌がらせと言うより、相手の弱点を見つけたのなら徹底的にその部分を攻撃するヒサシゲは、直接戦うには面倒な相手だ。だからクルワカミネという盾がいる、そうでなければいくら彼女でも、あの暴走機関車を相手にするのは流石に辛い。
弱さを武器にするだけでも足りない。強さも武器にして、そしてあとは、武器ばかりの男の対策として盾を作る。攻撃一辺倒というヒサシゲの弱点を彼女は突くしかない。ポーオレからしてみればヒサシゲほど面倒な敵はいないし、勝ちづらい敵もいない。
全くもってお似合いの二人だが、彼らは必死だった。夢を追いかける馬鹿と、現実を見てと怒鳴る女、別れて違う道を行ければ清々するというのに、腐れ縁がたやすく解けるほど彼らの愛情も薄れてはいないのだろう。
「さてまず最初に連絡するのは、やっぱりお爺さんですよね」
頑張りましょうと、ヒサシゲに対する最大の鬼札を行き成り彼女は切り出した。
宣戦布告は終わったなら、後は野となれ山となれ。流れるように川は流れるし、雨は降ってお天道様は上がるってものである。
「ヒースくん、たやすく逃げられると思わないように。あなたの愛情試させてもらいます」
だから聞こえない声でも、奥ゆかしさと取ればさほどの意味もない。
はらりと騒動の風に流されながら、開拓史のページは紡がれ始めようとしていた。




