真相フラミンゴ
どうもさっぱり、おれにはまるで分からないんだ。何がというかというと、真実ってやつがさ。
いくら考えてみたところで、まるで分からない…。
ピンクの頭のピンクの脳みそがむずむずするばかりで、これっぽっちもそれらしい真相は浮かんできそうにない。
おれはどうにかして考えようと思案してるんだ。もちろん悩み事には欠かせない、相談というやつも、同僚にしてみた。同僚といってもいつの間にかここ、どうぶつえん、とやらで、一緒に暮らしてた隣のボウドのことだ。フラミンゴの。もちろんそんな俺もフラミンゴ。そりゃ当然のお話。フラミンゴはフラミンゴとし同じ区画。
そんなわけでおれのこの一生をかけても解決しそうにない悩みを聞いてみたんだ。「おいボウド、おれたちフラミンゴはどうして片足なんだろうな?」
そしたらやっぱり短慮なボウド、こう答えた。
「どうでもいいだろう。そんなことは。片足で生活できて、片足で困ってないんだからな。もう片足は疲れたら使えばいい。そんなことよりな、知ってるか?飼育員のジェフの話さ。あいつ、奥さんに愛想尽かされて、出ていかれたらしいぜ。めちゃ落ち込んだらしい。そんなわけでジェフは今休職中さ。だから当分の問題は新しく入ってきた変わり者の飼育員のニシキってやつが、ちゃんとおれたちの世話をするかどうかだ。ペレットだけ振りまくんじゃなくて、ちゃんとオキアミとか撒いて、水質管理もやってくれるか、心配で眠れないよ…。」
「そんな眠れないで不安になってる時でさえ、おまえは片足で立っているんだろ?やっぱり気になって仕方ない。何でおれ達はそんな状況でも片足なんだろうか。」
「それならお前はなんで片足で立ってるんだよ。そんなに気になるなら両足で立てばいいだろ?」
「そこなんだよ。まさに。理由はおれにはどうも分からない。なんか、クセ?どうも両足で経ってると落ち着かない。」
「それならそれが理由なんじゃないのか?」
「それならなんで足は2本あるんだよ。」
「そりゃ、飯取る時とかは両足立ちするだろ、でもそれ以外、じっとしてる時なら足なんてものは一本で済むというわけ。」
どうも要領を得ない。
「それはそうなんだが、ただそれなら、人間だってそうだろ?じっとしてる時は片足で立てばいいだろ?でも両足しっかり地面につけて。なんかまけたかんじするけど。」
「あっちは多分勝ち負けなんて気にしてないけどなぁ。」
バサバサとボウドが羽を広げる。ピンクの羽がこっちに舞ってくる。ちょっとくすぐったい。舞い終わった羽は水面に浮かび、そのまま視界外に流れていって見えなくなる。
「そんなに気になるなら新人のニシキに聞いてみたらどうよ?好き好んでわざわざ俺達の世話をしてるくらいだから、よっぽどフラミンゴに詳しいだろ。」
自分で自分のことを知ろうとしないボウド。フラミンゴとしてのプライドはないのか?
飯が出てきて明日さえ凌げばいいと思ってるオキアミ野郎だ。
やっぱりこんなやつに相談を持ちかけたのが失敗だったかも…。
そもそもそんなこと気にしてるやつなんて、おれしかいないんじゃないかっておもったら急に心細くなって急に自信がなくなってきた。
そうすると遠くからカランカランとバケツを持った新人飼育員のニシキがやってきた。言わずもがなデッキブラシも持っている。
おれはもちろん見逃さなかった。きいろとくろの鋭い瞳で。バケツのなかにスポンジが入っていることに。
おれらの住処を磨くつもりだろう。なんてったっておれらの糞でちょっとばっちい。
ついでになんで俺達がなんで片足なのか聞いてみようか。
ニシキはげっそりとした顔でデッキブラシを握り、長靴を履いた足でおれたちの住処に侵入してゴシゴシと苔と糞を真面目に擦っている。
そんな勤勉なニシキにバサバサ近づき、おれは聞いてみる。
「なぁおい、新米のニシキとやら、なんでおれたちフラミンゴは片足で立ってるのかな?」
ニシキはそのナスみたいな顔と目でこっちを見てくる。
「なんで僕がその質問に答えなきゃならんのですかね…。」
勤勉に掃除してる割にはこっちの質問には答えないのかよとちょっとムカついた。この黒いくちばしでおまえのつむじを刺してやることもできるんだぞ?
「答えなきゃいけないということはないけど、別に教えてくれてもいいんじゃないかな?」だけどおれは賢いフラミンゴなんだ。揉め事と恐喝が生きがいの群れのアウトロー、メリカンとかとは違う。あくまで平和的。
「ジェフがいないからフラミンゴの世話は緊急なはずなのに、そんなに給料も貰ってなければ、感謝もされない。なんだか親切にしてやる気なんて微塵もないんだ…。答えて給料がちょっとでも上がるなら答えてやってもいいけど。一介のフラミンゴにはどうせできないことだろうさ…。あぁなんで僕はアメリカの超メジャーリーガーだったのにフラミンゴの飼育員なんかをやってるんだろうか…。」
しなびたゴボウみたいな声を出す。
「きみ、メジャーリーガーだったの?」
「あぁ。試合に出れば毎試合ホームラン。そんでもって二百四キロの剛速球もお手の物。二刀流さ。ただ、試合中にその剛速球を乱入したフラミンゴにぶち当ててしまった。そのフラミンゴは羽がごっそり抜けて、緊急入院。なんとか一命はとりとめたけど、あのオキアミ野郎、僕を刑事告訴しやがった。慰謝料で年俸は全部持ってかれちゃったし、それでも足りないから更に成績を伸ばそうと、またマウンドに立とうとしたら、動物愛護団体から総叩き。野球界に俺の居場所なんてありゃしない。監督がフラミンゴ好きなことも祟った。『お前はフラミンゴさんへの償いでフラミンゴさん飼育員をしとけ!』って言われて。今じゃバケツとデッキブラシの二刀流なんだ…。」
なんだかおれよりも悩みが深そうな気がしてきた。そもそも、おれ、そもそもそんなに深いことで悩んでたのかな?
悩んでいたか悩んでいなかったかで悩む。
あ。というか一つ、心当たりがある。
「それってもしかして、メリカンのことかな?」
「何のことかな?メリカン?僕はこれから掃除とか忙しいから後でにしてくれないかな。」
「いや、その、君がボールをお見舞いしたフラミンゴの名前。」
「いやぁ。弁護士を通してるから相手の名前は分からないんだ。」
「アレだよ。」
指を差す。指じゃなくて羽だけど。羽を差す。
差した方向には濃いピンクのフラミンゴがいて、両足で悠悠とエサを食べていた。
「あ、アレだ。あのフラミンゴ。濃いピンクというかもはや赤だからさ。覚えてるんだよ。」
え、でも。と続ける。「あのフラミンゴ、弁護士からはまだ入院中って聞いてるけど。だからこうやって病院代を稼いでるわけだし。」
「あのフラミンゴ、メリカンって言うんだけど、あいつ、あくどいやつでさ、当たり屋で荒稼ぎしてるわけよ。おれはてっきり車相手に当たり屋してるってって思ってたけど、まさかボールに当たってるとは。でも流石におかしいと思ったんだ。車なら流石に轢かれるだろ。でもその点、片足ならボールのあたったところを支点にくるくる威力をいなして、それこそノーダメージとまではいかないけど、羽が抜けるくらいで済むんじゃないのかなぁ。」
それを聞いたニシキの顔がみるみる真っ赤になってくる。おれの体色より濃さそう。
怒りのメジャーリーガーは「おい!おまえ!こっち来いやぁぁぁぁぁぁ!」と怒鳴る。
メリカンは究極的にばつが悪そうにばさばさとこっちに近づいてくる。頭を垂れて、申し訳なさそうに。あれ、それはフラミンゴみんなそうか。
「きさまぁ!おまえのせいでさぁ!僕はさぁ!」と、自分に起きた不条理や都落ちエピソードを大音量で怒鳴りつける。延々と。つばが撒いたオキアミっぽく飛んだ。
メリカンはすでにくたくただった。
「とにかく、訴えはとり下げろよ!鳥だけに!」
「分かりやしたよ…。」
満足したメジャーリーガー・ニシキは直ぐに電話を手に取り、スムーズに数字を打ち込む。
「もしもしぃ!監督ですか?とんだ詐欺にあってたんですよ。いやこの間のフラミンゴがさ、違うよサギじゃなくて…あぁそうそう。 この間僕がボール当てたフラミンゴ。メリケンっていう奴。違うってペリカンでもなくて、そのフラミンゴの名前がメリカンっていうの。そいつ当たり屋だったんですわ!ほんと、勘弁。そう。片足で。クールに衝撃いなして。冤罪なら僕メジャー戻れます?あぁ!良かった!じゃあ、ロサンゼルスで。はい。はーい。失礼しますぅ。」
電話を陽気に切ったニシキがこっちに向き直って言った。
「いやぁ本当、助かったよ。持つべきものは友人、いや友フラミンゴだね。」ニコニコしてる。
「ところでさ、話戻すけど、なんで片足か知ってる?こっちも助けたんだし、おれに教えてくれても損じゃないとおもうんだけどね?」
「あぁ、そんなことならお安い御用さ。今みたいに、当たり屋するために片足なんだろ?全く、にくい奴め。」
うりうりとくちばしの下を撫でる。
そう断定して、浮き足立って、足一本で、ヒャッハーメジャーマウンドだぁ、とかなんとか言いながらどっかに走っていってしまった。
「明らか違う気がするんだけどなぁ…。」
と小さくくちばしを噛み合わせた。でもなんだか、もうどうでも良くなってしまったような気がしてきた。こんな悩みなんて。
結局、悩みを解決するのは何時だって金だと、おれはニシキを見てそう思ってしまった。金がないと悩み、金が入るとわかると全部の悩みが吹っ飛んではしゃいで。
よし、ちょっくらボールに当たって金をせしめてやろう。おれはばさばさと空へ飛び立った。
さしずめロサンゼルスの球場にでも行って困らせてやろうとか風を切りながら思った。




