ライ麦畑荒らしを追い払って
1
全く、高額で怪しいバイトほどやるべきではないとつくづく思う。主人公は金に大変困っていた。やっと農家も軌道に乗ってきたというところだったのに、昨年の台風のせいで作物は全くと言っていいほど採れず、ほとんど収入がなかった。やむなしで、この全容どころか、業務内容すらも分からない仕事をすることになってしまったのだ。
主人公はくわい農家をしていたのだ。正月に食べる芋のような作物。ただでさえ腐ってまったり、動物に食べられてしまうことも多いのに今回はその生え抜きの生き残りも、「オモダカ殺し21号」にかっさらわれてしまった。
全く、これはたまったものではない。
結果、収入がなくなり、貧しくなり、妻にも見放され、生活も荒んでいった。ふてくされたように酒を飲み、日中はパチンコ屋へ行き、「くわいスロット2」を打ち続けた。
そんな日々が続いた末、ついに金銭は尽きてしまった。とうとうくわい畑に身を投げて死ぬか、犯罪に手を染めるかの二択になった。
銀行強盗をしようと決意を固めて家を出たとき、普段の習慣でポストをのぞいたら、求人募集のチラシが入っていた。
そのチラシには「畑を守る大切な仕事です!」と大きく赤い字でかかれており、なんと日給30万と書いてあった。怪しいバイトでも銀行強盗よりはマシだと思った。持っていたピストルを玄関に置いた。
このバイトをやるしかない。食べるものも、飲む酒も、遊ぶ金もとうに尽きていたのだ。
場所は明記されてはいなかったが、小宮駅から送迎バスが出ているらしい。明日の朝七時集合となっているから今日は早めに寝ておこう。
睡眠導入のために、くわいをひとくち、しゃくりと齧った。
2
十分前に小宮駅に着いた。朝の駅はしんとしており、金属質なにおいが立ちこめていてくわいのようだった。改札を抜け、ロータリーに出る。既にバスの前には数人の人が集まっており、バスの案内板が「ライ麦畑行き」と光っていたからこれだろう、と判断してその集団のもとへ寄っていった。というか、それ以外のバスがなかった。
主人公がバスの前に立ったと同時に、バスの中から責任者と思われる男が出てきて、バスに早く乗り込むよう促した。詳しい説明はあとでするから、とりあえず乗ってください、と。
主人公たちはそそくさとバスへ乗り、各自勝手な席へ座る。「全員で六人ですか、少ないですね。」と責任者がこぼす。
エンジンがかかり、細かい振動が尻を伝って全身で感じる。脳みそがちょっぴりシェイクされる気分。ぶるぶる。
出発しますよ。と声がかけられた。
「バスドライバーがいませんが、」と参加者の1人が疑問を口にする。たしかに、運転席は空白だった。だが、「自動運転なので平気です。」と責任者は平然と返す。バスで自動運転というのは聞いたことがないが責任者がそういうのであれば、そうなのだろう。
さて、と責任者が息を整え、説明を始める。「皆様本日はお越しいただき、ありがとうございます。私はこの仕事の管理を任されています、ミハリ、と申します。」つらつらと述べる。
見張り?本名ではないだろう。なんせあやしい仕事だ、でなければ1日で三十万稼げるわけがない。
「あ、皆さん偽名だと思っているんでしょう」ミハリという男はコートの右ポケットをガサゴソと漁り、財布を取り出した。
その財布を開き中から一枚のカードを取り出し、皆によく見えるように掲げる。といっても文字が小さいからここからでは見えはしない。
「本名なんですよ?ミハリ カンシロウ」
どお!と前方でどよめきが聞こえる。主人公はバスの後輪ぐらいの位置にいるのでどよめきのサーカスには参加できない。
「みなさんにはライ麦畑の監視をしておいて欲しいのです。」
監視、フフッ、とミハリが笑みをこぼした。自分の名前と被ったのが面白かったのだろう。そんなことでいままでどう働いてきたのだ。
話がさっきからあんまり進んでいないような気がする。
「もちろん、普通のライ麦畑ではありません。ちょっぴり法の網から抜け出した畑です。でも何も危険はありませんよ。いたって安全。その、まだ政府に認可をもらっていないだけ、数カ月後には合法になるライ麦畑です。そこに来る害獣を追っ払ってほしいのです。」すらすらとまるで詐欺師のようにリズムよくまくし立てる。
しかし、「法の網を抜けた」というワードに引っかかった数名がすこしの違和感を覚えたようで、そのうちの一人が異議を唱えた。
「それって非合法ってことですよね、本当に平気なんですか?」前の方に座っていた中年だった。
「あー、平気ですよ。というか」
いつのまにか一番後ろに座っていた、力士の脂肪分をお茶目な魔女が全て筋肉に変えたような男がその体重を感じさせない軽やかさで立ち上がる。進んでいるバスのなかだと言うのに、ふらつく様子一つない。体幹もかなりのものだった。
「後ろに立っている彼、シバキ君が制裁を加えると思いますよ。「非協力的な人」には。非協力的って、非合法と同じくらい悪だと思うんですよ。もし違法なライ麦畑に嫌気が差して火をつけられてしまったらどうでしょう?大炎上の大損害ですよ。そんな危ない芽は摘んでおかなくては。」
ばんぱん、と手を鳴らした。
中年は焦って訂正する。「いえ、私に害が無ければ何でもいいんです!すみません!」
ミハリは手でこちらへ向かってくるシバキを制止し、席に戻るように言う。
「あぁ。それならいいんですよ。大体、もうバスまで来てしまったからには行くしか無いんですよ。電車なら途中下車があるかもしれないけれどバスというのはいつ止まるかというのは運転手に委ねられいます。行くしか、ない。」
「そうですよね」と、中年。
「えぇ。」
自分は金が欲しいあまり、少しばかりなら違法なことに手を染めても良い覚悟できたが、この身が危ないとなったら文句の一つも出てしまいそうだった。そうしたらこのシバキ、という者に痛めつけられてしまう。
ふと、シバキの体格をもう一度確認する為に後ろを向いた。ひょっとしたらみんなでかかれば勝てるかもしれないと思った。
そうしたらシバキは野太い腕を高く上げ薄青のカードを見せびらかしている。おそらく保険証だろう。なぜそうしているのかは全く分からなかった。
比較的近くにいたためギリギリ氏名の欄が見えた。「シバキ イタメツケタロウ」
よし、逆らうのはやめておこう。
「ではさらに細かいことは現地に着いてからの説明にします。みなさん、着くまでは自由にしていただいて結構です。前に水と弁当もあるので欲しくなったら取りに来てくださいね。」おや、案外優しいのだなと一瞬思ってしまうが、すぐに気を引き締める。
これがアメとムチというものだろう。現に中年は水と弁当を受け取り、ありがとうございますぅ、と媚びるような声で感謝している。
見事に奴らの術中にハマったというわけだ。その手は食わないぞ、と意思を固めた。
3
それにしてもこの弁当はうまい。弁当に罪はないので、美味しくいただくことにする。
実はバスに乗り込んだのと同時に座席に積まれていた弁当を受け取っていた。朝も早かったので朝食をとり忘れた。農家は朝が命なのに。
ミハリに「おなかがぺこぺこでして、いま貰ってもいいですか」と断りを入れて誰よりも早くは貰っていた。
時にこのカツがうまい。ころもに煎餅でもいれてるんじゃないかと思うほどにさくさくとしていて、ソースがついていないのは素材の味で勝負したいという自信の表れのようだ。
底に敷いてあるレタスも安い惣菜弁当の油でくたくたのへとへと、二十連勤の過労したフラミンゴのようなやる気のないレタスとは違い、まさに今、収穫して水洗いし、水を切って敷き詰めたかのような新鮮さ。
弁当にくわいがはいっていないことが唯一の不満だったが、それを差し引いたとしても素晴らしい。
ものの数分で弁当を平らげると途端にヒマになる。
だからと言って窓の外を見る訳にはいかない。閉まっている黒のカーテンを軽くたたくと、カーテンの下には鉄板があることがわかるので外なんて見れるわけがない。その上前も出発してから座席と運転席で黒い板で分断され仕切られ区切られ分別されているので見えない。
後ろはどうだろうかと振り返るとやはり、同様に黒く塞がれていた。
さらにシバキがこちらを見て「なんか用か?」と低い声で威嚇してくるものだから「何でもないのです!」と素早く言い、前にむきなおいる。
最初のうちはブレーキや、赤信号なのか、「止まった」と感じることもあったがそのうち止まることもすくなくなり、止まるのも一時間に一回ぐらいになっていた。その感覚もどんどんとながくなっていき、七時間に一回ぐらいになった頃に、バスが完全に静止した。
到着なんてもはやしないと思っていたので、どうしたのだろう、事故かと思ったが前の黒い仕切りが外され外が見える。
前には途方もない一本道が続いているのが、夜間に漁船に飛び込んでくるサヨリのように目に飛び込んできた。そしてその一本道の両側にはどこまでつづいているのかわからないほど、ライ麦畑が広がっていた。くわい畑とは段違いに広大な土地にびっしりと黄色のカーペットのようなライ麦が栽培されている。
端を見ようとすると先に地平線が見えてしまいそうだった。ライ麦畑を国旗に採用している国があると聞いたことがあるがそれも納得だ。
そういえば、わが国の国旗はなんだったかと思い返す、あぁ、そうだった。
真白な背景に青紫色の丸が中央に描かれた国旗だ。
くわい色なのにどうしてわすれてしまっていたのだろうか、忘れていたことを忘れてしまっていたのか。
最近は記憶力が下がってきていてだめだ。
酒がよくなかった。アルコールは脳をちぢませる。しかも麦をつかっているらしいではないか。くわい酒ならまだしも、それ以外はよくない。せめて梅酒だ。
「なにぼーっとしてんだ。さっさと降りろ。」シバキに叱られてしまった。
気づいて見回すとまだバスにのっていのは運転手、シバキと自分だけだった。ほかの人はみんな、降りていた。自動運転なのになんで運転手がいるのかは分からない。
オロオロしながら、後ろのシバキに気を遣いながらそそくさと降りる。
降り際に、運転席をのぞいたら、しなびたナスのような顔をした運転手が死んだ目をしながらハンドル一点を見つめていた。
4
バスを降りると、初老の男が横一列に並んだ参加者の前にえらそうに立っていた。
その男にミハリは手のひらを擦り合わせ、まるで火でもつけるのかというほどのもみ手をしている。すこし火花が散った。
そのミハリに対し、初老の男は右手に握っていた杖で思い切り叩いた。
「あでっえ」という声をあげたのち、「なにかお気に召さないことでもありましたか?」
と機嫌をうかがった。
「おまえのごますりで火が上がってライ麦畑に火が付いたらどうするんだ!もう少し考えて行動しろよ、まぬけ。」と冷たくいいはなつ。
ミハリは戸惑いながらも「申し訳ございません、おっしゃるとおりです。」と謝る。
ごますりで火が付くわけないだろうと思ったが、さっき火花が散ったのを見るに、あながち間違いでもなさそうだなあと脳のてっぺんらへんで思った。
「さて、君たち、わしはこのライ麦畑を所有しているジヌシという。ミハリから聞いているように、このライ麦畑にくる不届き物を追い払ってほしいのだ。時給が高いからってけいかいしているかもしれないが、安心してほしい。いたって安全。」
それをきいたミハリがコソコソと耳打ちする。ごにょごにょにょ。
「あ?どうでもいいんだそんなこと。だってどうせ。」そこで止め、ゴホン、と咳払いをする。
「まぁいい。それと、付け足すなら、そんなに難しくない。なんせ、この広いライ麦畑のうちの一麦だけでも守ってくれればいいのだからな。」なぜか自慢げに言うジヌシ。
するとまたミハリは耳打ちしてジヌシに進言した。こんどはきこえた。
「麦の数え方は「本」ですよ。」コソコソいったせいで逆に聞き取りやすかった。
ジヌシはまた杖でビシリと叩き「カッコのなかにカッコをいれるんじゃねえ!」と何のことだかよくわからないところで叱る。
先ほどまではまるで裏カジノのオーナーのように舌を滑らせて我々に説明や脅しをしていたミハリが、この老人の前ではまるでカッコついていなかった。それだけの権力者なのか、ミハリが弱い立場の人間にだけ強く出るタイプなのかは確固たる自信はなかったが、でもどうでもいい気がした。どっちにしろ主人公には強気に出ることに変わりはなかったから。
それにしてもますますよくわからないバイトになってきた。こんなに多い麦のなかのうち一本だけでいいなんて。
思い切って手を挙げて質問することにした。
挙手。
ミハリの横に並んだ大柄なシバキのオオカミのような目玉がギョロリとこちらを注視してくるのでちぢこまってしまう
「なんだ、言ってみなさい」ジヌシが杖で主人公を指す。
「一本だけでいいのですか?ならもういっそのこと一本引っこ抜いておいて家とかで育てればいいんじゃないですか?」誰しもがそう思うだろう。周りの参加者も何人かうなずいている。
「そりゃだめだ。大衆がほしがるのは希少価値だ。金だって、高級車だって、チョコレートですら期間限定と聞けば大衆はアメンボのように群がってくる。たちまち貴重で大人気。さらに人間はその背景も欲しがる。物語によって重みが増すと信じ切っている。強欲だ。欲しいものばかり。たくさん育てたというのに様々な要因で数少なくなってしまったライ麦だからこそ格別にうまいし、格別な値がつく。もし中途半端なライ麦を出してみろ。たちまち売れなくなり、ネットでは炎上、ついでに畑も炎上だ。私はすべてをうしなう。」
それはまずいですね、というと、ジヌシはうむ。といった。
ミハリもうん。といった。
シバキはフン。といった。
ミハリはつけてもいないネクタイを締めなおすようなしぐさをしたのちに、パンパン、と手を二回たたいた。
その合図を聞いてシバキが参加者の背後に停めてあるバスのタイヤとタイヤの間の荷台を開き、次々と荷物を運び出していく。
中から次々と大きなバッグが取り出されていく。少なく見積もっても五百個はある。
バスの収納部分どうなっているのか、なんでこんなに荷物が入っているのかよくわからない。
「君たちにはこれらを支給する。これを使って数日過ごしてくれ。生活には困らない程の物資はそろっている。哺乳瓶から、墓石までな。」
「墓石が必要になるんですか。」
「必要になるかもしれないですよ。なんせ顧客が求めているのはストーリーなのですら、決死のライ麦、という触れ込みで売り出したら末代まで遊んで暮らせる程の財が築けるかもしれないです。」
「それにしても墓石って。死者が出るんですか?安全ではなかったでしたっけ?」
「いやもちろん安全です。全く危険はない。でもどうします?ひょっとしたら老衰で死ぬ人がいるかもしれない。ライ麦を見てショック死するひとがいるかもしれない。そうでしょう?」
「ライ麦をみてショック死ってのは聞いたことはないですけど。」
「備えあれば憂いなし、でしょう?それにもし一ミリ程の確立だとしても死者が出ればブランドが付く。さらにはたけに墓石でも立てておけば聖地巡礼で顧客が足を運んできてくれるかも。」
すました顔でしゃべり終わったミハリはまたすぐにジヌシに叩かれる。
「おい、線香で畑に火が付いちまうじゃねぇか、考えて喋れよ、青二才が。」
叩かれて悔しそうに、唇をかみ、「申し訳ございません、もう少し緊張感をもって、しりに火が付いたと思って取り組みま」
「だから火をつけるなっていってんだろうが!ガキ!」
またもや叩かれている。
こんなことで大丈夫なのだろうか…
5
一通り説明を終えたジヌシはライ麦をかき分けて畑の中に入っていきそのまま姿を消した。ジヌシがバスに乗っていなかったことから考えると、ひょっとすると畑が彼の家なのかもしれない。
ジヌシ、とは「地主」だろう。地の主、ということは地中にモグラのようにして穴を掘って棲みついているのかもしれない。
ということはジヌシも追い払う害獣ということなのだろうか。
頭がこんがらがった蔓のようにこんがらがってきた。一旦、頭をさっぱりとさせるためにポケットからくわいを取り出し、かじる。
半分くさっている苦味と酸味がすうっと頭を冴えわたらせる。
「おい、なにしてる、さっさと着替えろ。」
頭上から槍のような鋭さの言葉が飛んでくる。あまりに頭上、つむじらへんに言葉がささった。いくらなんでもシバキもそこまでの
身長はなかったぞ、と振り向くと、いつのまにか、テニスの審判が座っているような、プールの監視員が座っているような高い椅子に座っていた。なるほどこうやって仕事をする主人公たちを監視するつもりなのか。
バスからシバキが降ろした「一人分」と書かれたガムテープが貼られたバッグに手をのばし、中から衣類らしきものを取り出す。
ほかの参加者たちはすでに着替え始めており、急いで主人公も着替える
一般的なねずみ色や薄水色の作業着ではなく黄色の作業着というのに違和感があったが、気にしないことにした。
「いい保護色です。」ミハリが話しかけてくる。同じく高いところから。
「よし、皆さん着替え終わりましたね。では手に棒をもってください。そこにあるでしょ、そこのバッグの横、ビニールテープで留められてる、それそれ。テープはちぎっちゃっていいから。そう、それ一人一本持って。」
上から支持されるのはいい気分はしないが高い日給をもらっているから仕方ない。八十センチくらいの棒を握りしめる。
「そろそろ奴らが来る頃合いか。」シバキが腕を組み、畑の地平線を見つめている。
「その通りですシバキさん。今日は…あー良かったですね。比較的マシですよ。」どこからか持ってきた双眼鏡を目に当てがい、はるか後方を眺める。
「ぐずぐずしていたらライ麦を一つ残らず食い尽くされてしまいますので配置についてください。八人ですね。では四人ずつ、道路の東の方と西の方で別れましょう。」テキパキ仕切る。
主人公を含めたグループは、東の方を任された。
はるか前方から、何かがやってくるということは気配で分かる。ちょっぴりすこし及び腰。
「ほら、走れよ!ここまで来させるつもりかよ!前に走って食い止めてくるんだよ!」
ぼうっと立ち尽くしていた八人にシバキが罵声を飛ばす。表情は鬼のようだ。
主人公たちは運動会の徒競走に出場した小学生のように棒を持ったまま走り出した。
ワサワサ、とライ麦を押し倒しながら迫ってくる何かに戦慄するが、自らを奮い立たせてライ麦かき分けて進む。
「ギイギイ」という鳴き声のような音が来終えてくる。ほかの参加者たちも足を震わせながら、それでも金のために歩みを止めない。
何が来るのだろう。ミハリは「マシ」と言っていた。しかし気配からして一匹どころではなく無数に迫ってきていそうだ。いくら一匹の脅威が少なくとも、この大群では危ないのではないか。小魚の大群が大きな魚に化けて、マグロを追い返したという話を聞いたことがある。そもそもなぜ作業着が黄色なのか。
考えれば理由は一つだ。いざとなったら畑の中に身を隠すためではないのか。
思い返せばミハリは保護色、と言っていたじゃないか。目に優しい色、という意味で「保護色」といったわけがない。保護色ってそういういみではないか。未知の恐怖でよくわからなくなってきた。棒を五本の指でぎゅっと握りしめる。この棒きれで追い払えるのかな。
ライ麦をかき分け搔い潜り、ついに害獣が見えた。
主人公たちはひどく困惑した。
「くるっぽーくるっぽー」
鳥だった。くるっぽう。
こちらに敵意はなさそうだったが、一心不乱にライ麦を食べている。すこしだけ愛らしい気もするが、これを追い払うのが自分たちの仕事だ。
隣に立っていた参加者の若者が鳥に近づいていき、言う。
「これライチョウだよ。キジの一種。人は襲わないから安心だよ。」屈託のない笑み。
なるほど。鳥なら主人公も少々詳しい。農家にするにあたって、害鳥についても調べる。
そして作物に網を張ったりして対策を練る。
そうやって鳥について調べていくうちに鳥が好きになっていた。もちろん畑に来る鳥は追い返してきた。無論今回もそうするつもりだ。
ライチョウはそうしている間にもくるっぽーといいながら次々にライ麦をかじっていく。
ぱくぱく、くるっぽー。くるっぽーぱくぱく、ぱくぱくるっぽー。
食べるのに夢中でもちろんこっちに危険はないけれど、このままにしておくと食べつくされてしまう。気が付けばもう全体の三割は食べられてしまっている。急いで追い払わなくては、すぐに一本も残らんばくなるだろう。
くるっぽーうるさいな、ちょっと苛立ちながら棒をぶんぶん振り回し食べるのをやめさせる。ライチョウはくるっぽう、と短くなき、棒を躱す。
そうしてまたパクパク、と貴重で尊いライ麦を食べた。
俊敏で躱されてどうしようかと悩んでいたところで、そうだ、考えつく。
普段自分がやっていることをやればいい。
主人公はいつも、くわい畑を荒らしに来る鴨を大声を出して追い払っていた。
もちろん網をかけているのでその網をくぐってくわいの実をかじる鴨は少ないが、それでも来る奴らへの対抗策だ。
肺に思いきり空気を入れて、うおおおおと叫ぶ。がライチョウはこちらに首を傾けるだけで、頭の上に?という記号を出して、食事を再開させた。いきなり大声を出した主人公を他の参加者たちはいぶかしげな眼で見ていたが、ひとりは違っていた。
「おじさんだめだよ。そんな声じゃあ。」と話しかけてくる。先ほどこの鳥の種類を判別した若者だった。
「ならどんな声がいいのだろうか。」
「こいつらの捕食者は主にキツネだ。だから、」喉の奥を使ってその若者はコン、コン、というキツネの鳴き声のような音を出した。
ライチョウはぴっくりして飛びのいた。
くるっぽう!?
ほかの参加者も今の若者の話を聞いて、全員で、コォン!とキツネの鳴き声を真似してライチョウを退かせる。鳴きまねをしながら棒をぶんぶん振り回すとたちまち一匹、二匹と逃げ始めた。逃げた二匹を見て、四匹が逃げ、逃げた四匹を見て十六匹が逃げて、二百五十六匹がにげて、というふうにライチョウの大軍は退却していった。
とりあえず、いったん息を吐いて、地面に座り込む。どっと疲れが出てきた。
これで終わりな訳はないのだ。出なければあんなにバスから荷物を降ろす必要がなかったからだ。
あと何日続くのだろう。そう考えるとげんなりした。
6
寝袋からはいずり出る。朝日が頬を刺した。
昨晩はよく眠れなかった。支給された寝袋の性能がわるかったわけじゃない。むしろ完璧だった。だが考えることが多かったせいだ。
まずライチョウをすべて追い払った後で、畑を確認してみると四割はたべられてしまっていた。この調子ではあと二日と持つか分からない。というか一日で四割を失ってしまう時点で無能な集団な筈だったがへとへとで帰ってきた主人公たちに対してミハリは、「お疲れさまでした」とにこやかに返し、飯金粒を一人二本配っていた。食べながら仲間と少し話した。
ライチョウと教えてくれたのは二二の若者で名前をワカ、というらしい。なぜ鳥に詳しいのかを聞くと、ワカも農家をやっていたようだ。飯金粒をかじりながら暫し雑談。
「何を育てていたんですか?私はくわい農家です。」
「そうなんですね。僕はマンドラゴラ。それとヒュドラ。二毛作でやってたんだ。」
ん?よく聞き取れなかったぞ。マンドラゴラ?ヒュドラ?まるで聞いたことのない作物だ。と言いかけたが、そういえば都内の方で誰が一番大きな作物を作れるかの大会があった。確かそれの優勝者がワカという名前だったような気がする。七メートルオーバーの度肝を抜く大きなマンドラゴラで会場を混乱させていた。だがその話題で一躍有名になっていたはずだった。
なぜこんな仕事をしているのだろうか。食うには困らないはずだが。
「いやね、夜中に作物泥棒が来て、マンドラゴラを盗もうとしたんだ。なんせ僕のマンドラゴラは市場でかなりの高値で取引われているからね。まぁそれで、泥棒がマンドラゴラを引っこ抜いたとき、マンドラゴラが叫んで、泥棒はその声を聞いてしまって死んだ。その香典台で全財産の半分、泥棒の遺族に持っていかれてしまったんだ。」苦くわいを噛み潰した表情になる。
「半年後、また別の泥棒が入って、収穫目前のヒュドラに食い殺された。残りの半分の財産も遺族に持っていかれてしまったんだ。ということで今ぼくは一文無し。人生簡単なことで転落してしまう。これも全部自分のせいなんだ。」ワカは目に涙を浮かべてとうとう泣き始めてしまった。主人公は、明らかにそれはワカのせいではないだろうとは思ったが、なんと声をかけていいのかわからずにそのまま寝袋に潜り込んだ。
そうして今日の失敗を振り返りながら寝て現在、というわけだ。
朝飯は長方形四角立方体ブロック一本だった。かなりうまいが、少々量が足りなかったのでポケットからくわいを取り出して、しゃくり、と景気の良い音を立てながらかじった。
ミハリから二日目に支給されたのは釣り竿だった。
「今日も比較的マシな奴らが来てますねぇ。」双眼鏡で遠くを見ながら主人公たちに呼びかけた。
「ただ、昨日みたいに少し脅かしただけじゃ帰ってくれないかもしれないですよ。なんせ奴らはしつこいですから。台所の油汚れが羽毛のように感じるほど、質量をもったしつこさです。」なんだか要領を得ない例えだ。
「釣り竿だけで、エサはいらないんですか」
誰かが言った。なぜ誰が言ったか分かったかというと自分は言っていなかったからだ。
自分で言っていたら自分と分かっていた。寝ぼけて混乱していてよくわかっていないことが自分でもわかった。
「エサはライ麦ですよ。ここに来る連中はライ麦目当てできてるんですから。釣り針の先にライ麦をくくりつけておきなさい。一本釣りにできますよ。」
「でもあたり一面ライ麦ですんで、わざわざ釣り針についてるライ麦じゃなくて、そこら中に生えてるライ麦を食べるんじゃないですか?」
確かに、とおもった。なぜわざわざ釣りという回りくどい方法をとるのだろう。昨日のように棒で追い払えばいいのではないのか。
大体、今日「も」比較的、だったり、「昨日みたいにいかない」だったりと、昨日来たライチョウとは違う生き物が来るのか?
くわい畑にだって、せいぜい鴨とアライグマぐらいしかくわいを食べに来ない。網を張ってしまえば実質は収穫後、夜な夜なビニールプールにおいてあるくわいをくすねようとやってくるアライグマくらいだ。ライ麦にはそんなに多種多様な害獣が来るの?
主人公は自分の見識が狭いだけだと思うことにした。
「なぜライ麦をくくりつけて釣りをするかって?いやいや、それを言うならなぜ釣り人は撒き餌をするんですか。撒き餌をしてもきちんと釣り針のエサにも食い付くでしょう。」
ますますわからない。撒き餌というのは魚をおびき寄せて釣るためにやるもの、つまり目的は「魚を釣る」ということだ。我々は逆に、追い払わなくてはいけないのではないか。
どうにもつじつまが合わない。
「細かいことをウダウダ言ってんなよウスノロ!ライ麦全部なくなっちまうぞ。」
シバキがいつものように怒鳴り散らかした。
急いでまた畑に向かってそれぞれが走り始める。もう理解する気はなくなっていた。
皆、釣り竿を両手で抱えるようにして持つ。ぷらぷらと釣り糸に結ばれた釣り針が揺れる。特筆してどこが、というところはないが、なんだかもう面白くなって笑ってしまった。
昨日と同じように、前方ではカサカサと音がしている。昨日ほど奥行きのないライ麦畑をかき分けると、麦と麦の隙間から、招かれざる客の正体が見え始めてきた。
尾びれ、背びれ、胸びれ、腕びれ、頭びれ、三角筋びれ。
魚だった。白黒の。魚が浮いて地上を泳いでいる。まだら模様で毒でもありそうだった。
パンダを中型のプールでうるかして、白黒のインクをはぎ取った後、その中に無色透明の大型魚をぶちこんで色付けしたようなかんじ。
「あん魚は、ライギョだな。」ワカでも主人公の声でもない人の声だった。老けた声だ。それなら自分の声の可能性もなくはないが、まるでわからない。睡眠不足で思考力どころか認知力まで低下している。
そのライギョとやらは、昨日のライギョのように、むしゃむしゃと贅沢にライ麦を貪り食っている。主人公たちがノロかったせいかすでに全体の半分はくわれてしまっていた。
急いで近くにあるライ麦を毟って、針先にくくりつけ、群れの真ん中あたりに投擲する。
ふと思う。すでに半分ぐらいライチョウに食われた。そしてまた今日で半分食われると想定する。昨日も半分、その次も半分、半分、半分、と食われ続けたとする。するとアキレスと亀のように永遠にゼロにはならないのではないのか。そうしたらちょうど一本になるではないか。我ながら名案だ。つまりそうするためにはどうす。
ライギョの引きで現実に戻される。いい食い付きだった。周りのみんなも一本釣りをしており、次々とライギョがつりあげられていく。
自分も他に負けないように、リールを巻き上げる。釣られまいとライギョも必死に抵抗している。いやそもそもすでに地上にいるのだから釣るもクソもない。じゃあなにをもって釣り上げるのかを考えたときに脳みそが分裂してふっとんでしまいそうだったが、この手に手繰り寄せて無力化することを「釣る」と定義することでなんとか正気を保った。
ひたすらに反時計回りに腕を回す。だんだんと巻けてきている。
なぜほかの人は一本釣りしているのだ。できているのだ。次々とライギョは減っていくというのに自分は、まだ、一匹に、苦戦して、いる。えいよえいよと巻き上げる。竿はしなれるだけしなり、糸はぴんと張り切れそうだ。
ようやく群れの中から自分と戦っているライギョが出てきた。なんだか他と比べると少しだけ小さい気もする。そのことも主人公を落胆させた。よそを見れば、みんなが釣っているライギョは艶もあり丸々と太って、色もはっきりと分かれている。自分の釣ろうとしているライギョはそれに比べなんだかみすぼらしい。白と黒の境界線はくすんでいるし、なんだか細い。なのになかなか吊り上げられないのはなぜだろうか。
釣り上げられないな、と四苦八苦しているとそれを見た一人、ライギョを見てライギョと分かった男がシバキ顔負けの大声で主人公の事を怒鳴る。「その手をはなせ!」
言葉の意味を理解せずとも、釣りに集中しているときに大声を出されたので反射的に釣り竿を手放してしまった。
手を離した数秒後、バリバリ、とライギョは帯電し始めて、バチンと大きな雷光を放出したのち、そのライギョは絶命した。放電したライギョの周りにはライギョの死体が積みあがっていた。おそらく放電に巻き込まれたのだろう。釣り竿も真っ黒になっていた。いやもともと黒かったのだろうか、どちらかは覚えていない。
もしあの男に大声を出されていなかったら、感電していたに違いなかった。いや、大声を出したから放電したのか?まぁどっちにしろ命を救ってもらったことに変わりはない。
ミハリは安全と言っていたが、全然危険ではないか。すっかり信じられなくなってしまっていた。振り返って大声を出した人を見ると、よく日に焼けた白髪の初老の男だった。
「危なかったな、どうやらあいつがヌシたっだようだな。」豪快に笑いながら言った。そう言っている間も散りつつあるライギョの残党をほいほいと一本釣りしていっている。
「ライギョって電気を放つからライギョなんですかね。」なんだか聞くことはたくさんありそうな気もしたがとりあえずそれを聞いてみた。
「当たり前だろ。この国に生息している電気を使う魚はデンキチンアナゴかライギョくらいなもんだ。」 ふふんと鼻を鳴らし知識を自慢する。
「デンキチンアナゴ?デンキウナギではなく?」この話をしている間にもこの白髪男の後ろに一本釣りしたライギョがどんどん積みあがっていっていて恐ろしかった。いつのまにか隣にいたワカが感嘆の声をもらしていた。
「これ一人で釣ったんですか?」
「おう、ワシ一人で釣ったんさ。」
「あの、デンキチンアナゴって何ですか。」
「知らないのか?あんちゃん、国の魚に指定されてるじゃねえか。学がねぇんだな。」ガハハと笑っている。
「え、わが国の魚ってミズウオじゃないんですか?」学校で習った。確か小学生のころだ。理科の時間に勉強した。今でもはっきり覚えている。
「バカ野郎!そいつはにっくき日本の魚じゃねぇかよ!この売国奴!」売国奴の意味が違うような気がしなくもない。白髪の男は顔を真赤にしてカンカンに怒っていた。
「家系ラーメンのテーブルみたいですね…」
それがまた怒りを買ってしまったらしく、どんどんヒートアップしていく。
その間も手だけは規則的に動いている。どんどんライギョは積みあがっていく。天まで届かんばかりの高さになって、崩れてこないか心配になった。
「家系だと!?国家の犬が!調子に乗るなよ、ここは自治区だ!クソヤロー!」
そんなわけないだろう、日本は島国で、バスで移動したのだから海外にいる訳がない。
そもそもだ。主人公はバスの中でこの白髪の男を見かけなかった。ワカもそうだ。
いつのまにいたのだ。だんだんと怖くなってきた。こう考えている最中もとなりでは「出てけ!出てけ!」と叫んでいる。
ついに積み上がらなくなったライギョが主人公の腹にすっ飛んできた。ダーツのブルのごとくみぞおちの真ん中にライギョが刺さってしまい、意識が遠のいていく。
遠くからは「デテケ!デテケ!」という声が聞こえいた。
7
主人公が目覚めたときには、すっかりあたりは暗くなっていた。
状況を把握しようと起き上がろうとしたが、うまく起き上がれなかった。金縛りにあったような感覚だったがよく自分を見てみると、寝袋に対っていただけだった。
「大丈夫?」声をかけてきたのはワカだ。ラムプに照らされた優しい顔で分かった。
「なにがなんだか。なんで今自分は寝てるんだ?」
ズン、と大きな影が動いた。
「ライギョの電気にやられたんだ、あんちゃん。」
白髪の男が顔を近づけてくるのでびっくりして、寝袋に入ったままゴロゴロ左に転がる。
「大丈夫だったか?結構長い間気絶していたんだぜ?」もうこの男は自分に怒っていなさそうだった。
体をよじらせて寝袋から抜け出し、立ってみると確かに手足の先がビリビリとしびれた。
立っているのがつらく、思わずしゃがみ込む、
「ここはどこなんだ?」一つずつ聞いていく。
「ライ麦畑だよ」ワカが答える。
「この国はどこだ?」
「はぁ?」ワカと白髪の男はよくわからないといった声を出した。
「何を言ってるんだこいるは。まだ脳みそがしびれてんのか。」
「いいから教えてくれ。」
「アメリカに決まってんだろ。」平然と答える。階段の一段目を踏み外し、四段目の角が鼻にぶち当たったような痛みが主人公を襲う。
「一応何州かも教えてもらってもいいかな。」
「もちろんテキサス州。」
なにがもちろんなのかまったくわからなかった。
痛めた鼻にワサビを詰め込まれたような痛さの追撃を食らった。
「ここは日本じゃなかったでしたっけね?」
恐る恐る聞いたせいで変な言葉になってしまった。また怒り始めるかもしれなかったからだ。
そうしたらワカも男もひょっとこみたいな顔をしながら「日本ってどこだ?」と同時に聞いてくる。
「いやまって、」ワカが考えるしぐさをする。
腕を組んで右上を向く。そしてうん、とつぶやく。
「確か東の方にそんな国があったよ。」
「あったかー?そんな国。」
「あったよ。テレビで日本特集をやってたからね。たしかシノビ、サムライ、ブシ、ブシドウ、ニンギョウジョウルリ、ニンキョウドウ、ってやつだよ。いやぁ、サムライソードはカッコよかったよ。かっこよすぎて一時期ヒュドラの収穫をサムライソードを使ってたぐらいだもんね。」知らないといっていたわりにやけに詳しかったが、やけにステレオタイプな日本に困惑もした。
大体、今使っている言語は日本語じゃないかと言おうとしたが、そういえば五年前に制定された共通語をみんな使っているから証明のしようがなかった。自分の住んでいる国が日本かどうかの記憶もあいまいだった。バスに乗った時が遥か昔のようだ。
もうこの際何も考えないようにしようと思った。
回答に「そうなんだ」と返し、二つ目の質問に手を伸ばした。
「それで、あなたは誰なんですか?」白髪の男に手を向ける。
「わしの名前はボンサイだ。」胸を膨らませて誇らしげに言う。
「ノルウェー生まれアメリカ育ち。もともとは漁師をやってた。」
「やってた、ということは今は違うんですか?」
そう聞くと少ししぼんだような声で、「そうなんだ。聞いてくれるかい?」と主人公を横目で見てきた。
聞いてあげなきゃ悪い気がした。
「ぜひ聞かせてください。」
「いやな、去年のセプテムバァ頃か、遠洋漁業でバミューダトライアングルに行ったんだ。」
「へぇ。」思わずまぬけな相槌が出た。
すでに聞いたことを後悔し始めているが、聞いてしまったからには我慢して最後まで聞いてみる。
「その三角形を線分したとき、三分の二くらいのところで漁をしていたら、あるものを釣ったんだ。いや、釣ってしまったんだ。」
「何を釣ったんですか?」
「クラーケン。」
「はぁ。」
「そしてそれを市場に流したらたちまち神秘主義者の奴らに総叩きを食らって、ノースカロライナ州を追い出された。そのまま各地をオロオロ歩いて、行きついたのがこの仕事だ。」
「あぁ、そうなんすねぇ。」まともに聞いてたらあたまがぶっこわれてしまう。
隣でワカが涙ぐみながら相槌を打っている。
バミューダトライアングルで漁ってなんだよ、クラーケンを釣るってなんだよせめて網にかかるとかだろ、そしてそれを売るなよ逃がせよ、あと神秘主義ってそういう意味じゃねーだろ、なんでノースカロライナだけ位置がまともなんだよ、こういうながれはアメリカ南アフリカ州とか言い出すだろ、そもそも名前が「ボンサイ」って日本の名前じゃねぇかよ、それがもし「凡才」だとしたらクラーケンを釣るお前は間違いなく天才だろうが。
それら全てを飲み込んで、
「まぁたいへんだったっすねぇ。」といった。
「そうなんだよ、分かってくれるかい。」穏やかにほほ笑む。
夜風が頬をかすめた。ライ麦がこすれて自然の風鈴のようだった。
ライ麦畑を見てみると被害はそこまでではなかった。もちろん多少食い荒らされてはいるものの、そこまでではない。
ただ、ここからすこしはなれた所が黒く焦げている。ふわぁと小さな欠伸をする。とても眠かった。気絶している時間は睡眠時間には含まれないらしい。尤もそんなことは気絶したことがないから全く分からないが。
黒く焦げた所を見つめながら、寝袋に足を突っ込む。
だれかあそこで雷にでも打たれたのだろうか、とそんなことを考えながら眠りについた。
8
目が覚めてから周りを見渡す。朝靄がかかっていて全体を把握することはかなわなかったがライ麦はがっつりと減っていた。金色になびく部分、荒らされたライ麦の死体が倒れ黄色の床を作っている部分、完全に茶色の部分がむき出しになっている部分とで、あまりよくないグラデーションになっていた。
焦土ともいえる大地を見て、ふう、とため息を吐いた。また一日が始まる。農家をやっていた頃は一日の始まりはこんなに億劫ではなかった。いつからかこんな風になってしまったのだろうか。重い肩をぐるぐると回す。
向こうの方で案の定、シバキが怒鳴っている。さっと寝袋を畳み、ミハリ、シバキのところへ集まると、また変なことが起きていた。
今までの人生でこんなに奇妙なことが怒涛に押し寄せてきたことはない。いつの間にかアメリカにいたり、記憶がいびつにゆがんだり。この仕事を始めてからなんだかおかしい。きっと夢でもみているのだろう。そうに違いない。
だから目の前のミハリが一メートルくらいの子供になっていたり、シバキは四メートル以上ある巨人になっているんだ。
ボンサイが質問した。
「なんでお前さんらはでっかくなったり、ちっちゃくなってたりしてるんだ?」
こほん、と小さく咳払いをしてミハリが口を開く。
「それは今日に備えてデカくおく必要性があったからに決まってるじゃないですか。」平然と答える。分かりきっているだろうと少し呆れてすらいる様子。
「ならなんであんたは縮んでるんだよ。」
「何をさっきから当たり前のことを。双子なんだから片方が伸びたら片方が縮むのは当たり前のことじゃないですか。下がれば上がる。すべてそうです。逆も然り。君たちが今苦労して働いているのも、この仕事が終われば大金がはいるからです。」小さな口でがんばって言ってる。
「そう言われちゃあな。」なんか勝手に納得するボンサイ。
上から風が吹いてきた。シバキがフン、と言った時の鼻息だった。
朝食を食べた後に今日の支給品が配られる。開けるように指示されたゴルフバッグの中からは猟銃が何本も出てきた。そしてそれが一人一本、配られる。
猟銃の使い方は皆心得ている。日本も五年前、共通語の制定と共に銃社会が浸透しているので、主人公も使い方はマスターしていた。そんなことは当たり前だ。今さら説明するまでもない。分かりきっていることを説明させられるミハリの気持ちが分かったような気がした。
縮んだり伸びたりする理由は分からないが。
それはそうと、今日は猟銃と、何が来るのだろうか。猟銃が必要なほど凶暴な生き物もライ麦に惹きつけられてやってくるのか。
数十発の弾丸をもらった者から次々とライ麦畑に入っていく。主人公もライ麦をくぐり入る。
はるか遠くからは、響くような唸り声が聞こえてくる。
それがすぐに物凄いスピードで近づいてくる気配がする。
目の前に来たと分かった時にはもう遅かった。
ライ麦と同じ黄金色の毛が見えた時、死を覚悟した。
「アレは流石に手に負えないよ!」慌てふためくワカが左にいる。
「上等じゃあねぇかよ。」いきり立つボンサイが右にいる。
「ガルルル…」牙をむき出しにしているライオンが正面にいる。
三人と一頭が数秒にらみ合う。
ライオンは自分のほうが有利と見るやいなや、野生で生き抜いてきた強靭な筋肉のバネを使い、こちらに力強く飛び掛ってくる。狙いはボンサイだ。
ボンサイも漁師のパワーと反射神経で後ろに飛び退く。そしてすぐに猟銃を構えて頭目掛けて撃ち込む。バン、と耳をつんざく音が銃口の煙と同時に出る。
ただ獣の反射神経も舐めてはいけない。ライオンは素早く左にかわした。
そしてまた数秒の沈黙があった。
音に反応したのか後方からはさらに数頭のライオンが援護に来るかの如く向かってきている。一様に「グルルル」と地を揺るがすようにうなっている。爪も牙も、夏祭りに来た少女の乙女心のように剥き出しだ。
「ボンサイさん!これは逃げるしかないよ!あの数はどう考えても追い払えない!」ボンサイに向かって大声で伝えるがボンサイは微塵も動じていない。
「そう思うならあんたは逃げな。」
ワカは「シバキさんを呼んで来る!あの巨躯ならなんとかなるかも!それまで時間を稼いでてください!」と素早く伝え、主人公たちが寝泊まりしていた方へ戻っていく。
「あんちゃんは?逃げてもいいんだぜ?」
「申し訳ないです。逃げさせてもらいます。どうか生き延びてくださいね、」言い終わらずに走り出す。
銃を小脇に抱えたまま走り出す。
本当にごめんなさい。でも平気なんだ、これは夢なんだ、だからボンサイは死なない。頼む、そうであってくれ。意味が分かんないだろ、なんだよライオンって。「ライ」が付けば何でもいいんだろう?
タタッ、とリズミカルな足音が聞こえてくる。ボンサイか?そんな訳はない。明らかに四足歩行の足音だ。ボンサイは死んでしまったのか?
前方にはまだ荒らされていない煌めいているライ麦が広がっている。主人公はなんとかライ麦に飛び込み、身を隠す。このための保護色の作業着なのだろう。使うときが来ると、薄々思っていた。
ガルルとライオンの息遣いが横を通る。よだれが頬を掠める位の距離に落ちる。頼むから気が付かないでくれ。死にたくない。死にたくない。
なんでこんなバイトに申し込んでしまったのだ。金欲しさに命を落とすとは、落ちぶれたものだ。いやいや何で今日死ぬみたいないいかたなんだ。
匍匐前進で少しだけでもライオンと距離を取る。腹は土に塗れ、腕も痺れてきた。足はもとよりすくみ、力がはいらない。
体をよじり指で土を掴み、なんとか前へ進む。いやもはや進んでいるのかは分からない。
不意に前に何かが見えた。
二つの柱が前に聳え立っていた。少なくともライオンではない。
ライ麦にも縋る思いでそこへ行く。肩が痛い。つりそうだ。
ようやくその柱へたどり着いた。柱だと思っていたのは近くで見ると、人の足だった。地を這っていたから大きく見たのだ。
上を見上げてみると仁王立ちで腕組みをしているジヌシが立っていた。
ジヌシは口を開き、天地がひっくり返るほどの声量で「汝、ニゲルコト、マカリナラン!!」と咆哮した。
主人公は思わず「は。」と言ってしまう。
ジヌシの少し後ろには人一人が通れるくらいの穴があり、成程、そうやって地下へ潜って生活しているのだな、と能天気に思ってしまった。
ジヌシは鬼の面をそのまま体現したような表情と、牙と角を生やしていた。
「汝、ナニユエニゲヨウトシテイル!?!」
狼狽しながらも必死に答える。「ら、ライオンが来てて、こ、怖くて」
それを聞いたジヌシの頭からバチバチ音が鳴った。いや厳密には頭のてっぺんから生えている角からだ。
「汝ハシュジンコウナノダ!ニゲテハナランノダァ!」ぐんぐん角が伸びていく。
自分が主人公?確かに自分の名前は主人公だが、あのいい方は物語の主人公、みたいなニュアンスだろう。
「アァ!我ハ、コノ畑ノ主ナノダアアアアアア!」そう叫んだのち、雷光を纏いながら何倍にも大きくなる、
その大きさはついに雲を超えて頭は以上からは見えなくなってしまっている。
ジヌシは空を裂く勢いでしゃがみ込み、地球をけって垂直にジャンプした。
浮かび上がるときの風圧で、ポケットに入っていたくわいがすっ飛んで行ってしまった。
ジヌシの着地の時、大地震が来るだろうと頭を手で守り地面に伏せておくがそうはならなかった。
そのまま浮かび上がり、雲に下半身を埋めて、そのままするるると地上に降り立つ。
それを見たライオンたちがすぐさま集まって来て「ぐうるるる、がうがう」と吠えるがゴーレムに威嚇するモグラにしか見えない。
いつの間にか背中から生えているフラフープにでんでん太鼓を六つつなげたようなものを掌で力強くたたく。重苦しい低音が一帯にこだまする。
ふとボンサイたちはこの音を聞いているのだろうかと浮かんだ。
そんな思いはすぐに稲妻にかき消された。
ジヌシの太鼓からぴしゃりと雷が伸び、ライオンの群れの中心に落ちる。雷に貫かれたライオンたちは泡を吹き一匹残らず気絶している。
「ありゃ一体どうなってんだ。」聞き覚えのある声。ボンサイだ。
「生きてたんですね!本当に良かった。」
「まあな。ライオンらと一進一退の攻防をしてたら、急にデカブツが現れてライオンがそっちに向かってったんだ。んでなんだ、あのライオンの屍の山は。」
「まずあのでかいのはジヌシなんですよね。信じてもらえるかは分からないですけど。それであの背中の太鼓で雷を落としてライオンをまとめてやっつけました。」
自分でも何を言っているのかわからないのに説明を受けている側はその三倍はわからないだろう。
しかしボンサイはなるほどな、ワシがライギョを積み上げたみたいにか。とすんなりと理解し、納得した。
それを聞いて主人公の方が理解できなくなってくる。ライギョを積み上げながら自分に出ていけ、と言っていたのは夢ではなかったのか。昨日のことはどこまでが夢でどこからが現実なのか全くわかっていない。
ライギョの雷を受けて記憶が前後している可能性がある。それならライギョの雷を遥かに凌駕するジヌシのワットアンペアボルトに感電すると記憶どころか肉体がひっくり返ってしまうだろう。
両手でアレグロ奏でながらでんででんと太鼓をたたき雷を次々ライ麦畑に落とす。ライオンはすでに全滅しているのに雷を落とす理由が分からなかったが、ジヌシの真赤な顔と白目を見れば理由なんてない気がする。
ひとまず止めなくては。
いつの間にか力の入っている足で、シバキ、ミハリのもとに走り出す。
9
「これはまずいことになりましたね。」ミハリはさきほど見た時よりもさらに小さくなっている。五才ほどだろうか。
「フン。」そういうシバキはゆうに十メートルは超えていた。
「のびるよりちぢむほうがむずかしいんですよ。というよりは、わたしがちぢんではじめてシバキがのびれるというか。わたしにきいんしてるんです。」誰も聞いていないのに説明を続けている。年齢は変わっても中身はそのままなのだろう。
「みらいへはじっとしてればすすめる。ただかこへいくにはタイムマシンがひつようになる。それとにたようなものですよ、」舌っ足らずで言っているのがなんともかわいらしい。
てちてちと支給品のバッグが積みあがったところへ駆け寄る。荷物をかき分けて、他とくらべて少し小さいバッグを取り出す。
中から一枚の布らしきものを引っ張り出してきた。バスタオルほどの大きさだ。
「しばき、はい、これ。」
「これは何なの?」いつの間にか近くにいたワカがミハリに聞く。
「せつめいがむずかしいですねぇ、じゃあまず、じぬしさんのしょうたいはしってますか?」
「この土地の地主じゃねぇのか?」ボンサイが口をはさむ。
「それもそうなんですけどあのひと、らいじんのまつえいなんです。」
「なるほどね。」ワカ
「ほぉ。」ボンサイ
「はぁ?」主人公
「ちからはおとろえてはいますけど、いかりがげんかいをこえてしまうと、いかりのえねるぎーで、らいじんになってしまうんです。だからわれわれ、ふうじんのちをひくものをやとってとめるやくわりをしています。」
「ただわれわれはふうじんのちがうすく、こうやってかたほうがちぢみ、さらにこのじんぎをつかわないとふうじんにはなれないんですよ。」
しなびたタオルを「神器」と呼んだ。
シバキはかがみ込み、指でタオルの両端をつまむ。
そしてシワをとるようにはたいていくうちに、気が付けばシーツくらいの大きさに、また一振りすると横断幕くらいの大きさに、もう一振りすると巨人の掛布団くらいのおおきさになった。シバキにぴったりだ。
それを首にかけ、両端をしっかりと両手に握ると、額に見事な一本角が生え、鋭利な牙が口からはみ出た。
神器をもう一振り、雷神の方に向けて振る。
暴風が巻き起こり、風神が吹っ飛ばされそうになるが、なんとか持ちこたえ、こちらをにらみつける。
風神を視認した雷神は「ぬぐぁ!」と威嚇しながらせまってくる。もちろんその間もでんでんと太鼓を鳴らして周囲に雷を落とす。
その雷は遠慮なくライ麦に直撃し、延焼している。もう守るはずだったライ麦はこれぽっちも見当たらない。
「あれだけひをつけるな、といっておいてじぶんでもやしてるじゃないですか。」あきれた声がかなり下から聞こえてくる。
「バッハハ!」雷を風神に向かって飛ばす。
が、それをすべて風神は風で跳ね返す。電気を風で跳ね返せるかは知らないが、現実として起こっていることだ。
雷は明後日の咆哮へ飛んでいく。負けじと再度雷を放つ。
ここからは乱打戦だった。
でんでん、ぶんぶん、でんでん、ぶんぶん、
でんでん、ぶんぶん、でんぷん。
互いに拮抗している。その戦いの余波はすべてライ麦が受け持つ。
ライ麦たちはズタズタのボロボロのぐでんぐでんのふにゃふにゃのドロドロだった。
主人公たちの上では雷と風が行きかう。
空気が震えていた。顔の産毛はビリビリと電気を感じる。
ようやく決着が付きそうだった。
雷神が太鼓をかき鳴らそうとしたが、息切れと手の甲の痛みで一瞬、叩くのが遅れた。
その隙に風神はぶん、と今日一番のタオルスイングをみせ、やっとの思いで雷神に攻撃が届いた。
暴風が直撃した雷神はびゅーーんと飛んで行ってしまい、キラリと空に消えていった。
風神はまたバサバサと布を振り、今度はちぢんで一般男性の元のサイズに戻った。
元のサイズに戻ったシバキは、フン、と鼻を鳴らした。爽やかな微風が飛んできた。
「お疲れさまでした。これで仕事は完了です。」ミハリもいつの間にか元の大きさになっている。
ライ麦畑にはもはやいっぽんたりともライ麦は残っていないように見えたが、ミハリの右手には黄金に輝くライ麦が握られていた。
「君たちには三日分の給料、九十万を支給します。」
フン、シバキも少しだけ上機嫌なようだ。
「よくやったな。」短く告げるシバキ。
いつの間にかジヌシも隣におり、主人公たちに拍手を浴びせている。
もはや雷神様と呼べばいいのか、ジヌシと呼べばいいのかは不明だった。
ミハリを軽く杖でたたき「よくやったな、ほとんどは燃えたり、食われちまったりしてるが、しっかりと一本守り切ったな。」
大団円だとふと心の中で思った時、けたたましいサイレンが遠くの方から聞こええてきた。
その方向をみれば、赤いラムプを車体の上にのっけたライギョ色の車がものすごいスピードでやってくる。
パトカーだ。
一本道だから加速に加速を重ねている。見たかんじ、雷よりも早そうだった。
そうしてパトカーは主人公たちの前で止まる。バカでかいサングラスをかけた警察官が「おとなしくしろ!ロス秘密警察だ。」とこちらに拳銃を向けて牽制してくる。
主人公は両手を上にあげながら小声でボンサイに話しかける。
「ここってLAなんですか?」
「当たり前だろ、くそ、ワシらは終わりだ。秘密警察に見つかっちまったんだからな。」
「でも最初に大きな声で秘密警察だといっていましたけど、秘密なのに大きな声で言っちゃうんですか?」
「おいおい、ここは自由の国だぞ。秘密にするのもしないのも自由だ。」おまけに、ワシらを生かすも殺すもな、と諦観の表情をしている。
「おい、責任者はどこだ!」警官の声で、ミハリが両手を挙げたまま一歩前へ出る。
責任者はジヌシではないのかと思ったが、ジヌシはいつのまにか、畑の穴の中にもぐっていってしまったのか、見当たらなかった。
「おい!なんだそれは!」
右手に握られている作物の事を言っている。
警官はライ麦をひったくり、嘗め回すようにライ麦を凝視する。
「おいおい、これは困るなぁ、お前さ、ライ麦法知ってる?困るんだよ。かってにそういうことされるとな。この国でライ麦は違法、もし栽培したなら強制労働七十年間!いいのか?」
「いえ、よくないですよね…」そわそわするミハリ、一刻も早くライ麦を取り返したいようだ。
「ふむ、よくないと来たか、ならばこうしよう。」いきなり警官はライ麦にむしゃり、とかじりついた。
「これでライ麦があったという事実はなくなったな!この件は本官、ライキャク・マネカレザル警部が預かろう!」
ライキャク警部はパトカーに素早く乗り込み、「それではさらば。アデュー。」と吐き捨ててどこかへ行ってしまう。電光石火、嵐のようだった。
捕まることもなかったがもちろんライ麦はなくなってしまったのでもらえるはずだった金は支払われないことになってしまった。
得るものも失うものもなく、リセットされてしまった。いっそのこと捕まった方がマシに思った。
なんだか主人公は憔悴してしまい、ポケットの中ををまさぐり、ある筈もないくわいをさがす。だがポケットの中にはなにもなく、小さなため息を一つ吐く。
目の前にはズタズタになったライ麦畑がどこまでも続いていた。




