表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子殿下、逃亡。  作者: 花日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/16

13.悩む者たち

 面会を終えたグレゴールは、眉を寄せ、唇を固く結んでいた。


 そのまま王宮の廊下を歩いていると、先を歩いていたエドガーの足がピタリと止まる。


「?」


 グレゴールも足を止める。


「あちらにいらっしゃるのが、ノエル殿下です」


 エドガーは窓の外を覗き込みながら言った。


 そこでは、まだ幼さの残る少年が、懸命に剣を振っていた。


 グレゴールは目を見開いた。


 その少年の面差しが、あまりにもルシアンにそっくりだったからだ。


 もしルシアンがあのままクラリッサの護衛を務めていたなら、二人の関係はもっと早くに露見していただろう。


 それを見越して、ルシアンは早々に国へ返されたのかもしれない。


 そこまで考えたところで、グレゴールはきつく目を閉じた。


 その様子を見たエドガーが、静かに語りかける。


「かのお方に掛けられている嫌疑は、不義密通だけではありません。他国との内通、そして国家内乱の罪にも問われています」


「……そうか……」


 グレゴールは、それだけ答えるのが精一杯だった。


 窓の外では、何も知らないノエルが剣を振っている。


 その姿を見つめながら、グレゴールは拳を固く握りしめた。



 ◇



 一方その頃――


 マリアベルは、婚礼準備のために用意された一室で、結婚式の席次に頭を悩ませていた。


「……どうしろというのよ」


 今の席次は、今回の一件が明らかになる前に組まれたもの。

 定石通り、王妃クラリッサの兄でありヴァルネの大公であるグレゴールには、王族に近い席を用意していた。


 だが、事情が変わった。


 クラリッサは王妃の座を失うどころか、不義密通に他国との内通、さらには国家内乱の罪にまで問われている。


 当然、親族であるグレゴールを、王族の近くに座らせることなどできなくなった。

 だからといって、ヴァルネの大公である彼を、あからさまに末席へ追いやるわけにもいかない。


 だが、クラリッサの罪と処遇を知ったグレゴールが結婚式に参列するのかさえ、今となってはわからないのだ。


「……いや、参列するかどうかはさておき、ひとまず出席する前提で席は用意しておくべきよね。……そうなると、急遽欠席になった場合の変更案も必要か……」


 マリアベルは目の前の席次表を見つめ、深いため息をついた。


「何を悩んでいるんだ?」


 不意に背後から声をかけられ、マリアベルは振り返った。


「ギルバート……」


「ああ……席次か」


 ギルバートは机の上の席次表を覗き込み、納得したように小さく息をついた。


「ええ。大公閣下のお席がね……」


「……そうだな」


「そもそも、参列を辞退されるようなことはないかしら?」


「まあ……本人の気持ちからすれば、式など出ずに、すぐにでもヴァルネへ戻りたいだろうな。だが、だからと言って使節団が式を欠席すれば、ヴァルネがこの婚姻を快く思っていないと受け取られかねない。これ以上、両国の関係を悪化させるつもりがないのなら、参列するだろう」


「そうよねえ……」


 マリアベルはこめかみを抑えた。


 グレゴールの人間性を知らない以上、彼がどれほど理性的な判断を下せるかは未知数だ。

 感情に任せて動く男なら、国同士のしがらみなど無視してあっさり欠席するかもしれない。

 そもそも、先の件で両国の関係はすでに先行き不透明なのだ。今さら表面上だけ取り繕っても意味がない――彼がそんな考えに至っても不思議ではなかった。


 マリアベルは席次表に目を落としたまま、ぽつりと呟いた。


「外交を弁えている方ならいいのだけれど……」


 ギルバートは腕を組み、少し考えるように眉を寄せた。


「大丈夫だろ」


「ずいぶんあっさり言うのね」


「グレゴール殿は、そこまで短慮な人には見えなかったからな」


「あら、あなた大公閣下にお会いしたの?」


 マリアベルは顔を上げた。


「いいや、覗いただけだ」


「ああ……面会の場はあの部屋だったのね」


 あの部屋には、隣室から鏡を通して室内を覗ける仕掛けがある。


 王太子妃候補として選別された際、あの部屋に通されたマリアベルは、その仕掛けを見破っていた。


 そう、二人きりの面会のように見せかけながら、実はあの面会の様子は、多くの者に見張られていたのだ。


「うーん……じゃあ、欠席されることは考えなくてもいいかしら」


 マリアベルはギルバートを見上げて、首を傾げる。


「もしもの場合は空席にすればいい」


 ギルバートは淡々と答えた。


「でも、それでは……」


「来賓の前で、ヴァルネの使節団が感情に任せて婚礼を欠席した――そういう話になるだけだ。その印象を取り繕うのは、ヴァルネ自身の仕事だろう。こちらが尻拭いまでしてやる必要はないさ」


「……まあ、それもそうね」


 マリアベルは席次表のグレゴールの名に目を落とした。


「では、王妃様の親族としてではなく、ヴァルネ王国の大公として、外国からの高位の賓客にふさわしい席次に変更しておくわ」


「ああ、それが一番波風を立てずに済むだろう」


 ギルバートも頷いた。


 ――婚礼そのものが取りやめになることはなかった。

 これまで進めてきた準備も、そのまま使える。

 それはマリアベルにとって喜ばしいことだった。


 だが、席次・来賓の扱い・警備・外交上の対応など、再調整が必要なことも多かった。


「ふう……」


 マリアベルは小さく息を吐く。


「あまり手伝えなくてすまないな」


 ギルバートは、疲れた様子のマリアベルを見て眉を下げた。


「いいのよ。あなたの方が忙しいでしょう。それに全部の準備が無駄にならなかっただけ、いいわ」


 マリアベルは肩をすくめて苦笑した。


「苦労をかけるな、王太子妃殿」


「よろしくてよ、王太子殿下」


 二人は顔を見合わせ、笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ