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支配と理解  作者: 御中御庭より
2章 東国旅編
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第37話 同乗と出発

「……どうする?」


レヴァルが、商人二人を見た。


俺たちも見られている。


答えを出す役は、

もうこちらじゃないみたいだった。


ユイが口を開く。


「一緒に行くなら、同乗の条件は昨日のと同じで?」


レヴァルは笑う。


「当たり前だろ」


それで決まった。


商人は、短く頭を下げた。

礼か、計算かは分からない。


「よし」


レヴァルが手を叩く。


「そうと決まりゃ、明日には出るぞ!」


軽い声で言って、

もう次の話をしている。


俺は頷いた。


断る理由を探すより、

話についていく方が早かった。


買い物の続きを済ませた。


水。

乾いた食料。

布。


レヴァルはよく動く。


ゼルドは、必要な時だけ口を挟む。


「夜は冷える。

 余分に一枚」


「火種は、濡らすな」


言葉は短い。


俺は、それに従った。


ミレイアは、

露店を見るたび足が止まりそうになる。


その度に、

自分で戻ってくる。


宿に戻ると、

部屋が狭く感じた。


人数が増えたわけじゃない。

会話が、もう“明日の前提”になっていた。


ミレイアは、

何か言いたそうにしていた。


視線が落ち着かない。

口が開きかけて、閉じる。


俺は気にしないことにした。


「明日、早い」


それだけ言って、

横になる。


ミレイアは一瞬だけ口を尖らせたが、

結局、何も言わなかった。


ユイは、

黙って灯りを落とした。


朝。


扉を叩く音で目が覚めた。


二回。

ためらいのない音。


「起きてるかー?」


レヴァルの声。


俺は身体を起こした。


ミレイアが、

半分寝た顔でこちらを見る。


ユイはすでに起きていた。

身支度も終わっている。


扉を開けると、

レヴァルが笑って立っていた。


「おはよう」


「……お前ら、宿の場所」


俺が言いかけると、

レヴァルは肩をすくめた。


「昨日、見えたからな」


それだけだった。


俺はそれ以上言わない。


大通りで合流した。


馬車は一台。


古いが、手入れはされている。


馬が二頭。

鼻先に、甘い匂いが混じっていた。


女が肩を押さえている。

昨日、脱臼していた方だ。――ユラ。


もう一人の女は、

震えながらレヴァルの背にぴったりくっついている。――ヴァルシア。


怯えているように見える。


でも、足は前に出ていた。


商人は二人。

身なりは整っている。

言葉は少ない。


ユイが小さく言う。


「……乗るよ」


俺も頷いた。


レヴァルと、ヴァルシアが前に出た。


手綱を握る。


ヴァルシアの手は震えている。


それでも、

迷いなく動く。


ゼルドが馬の首を撫でて、

いつもの位置に立つ。


ユイは俺の隣に座った。


ミレイアは窓際を取る。


視線が外に向いたまま、

落ち着かない。


馬車が動き出す。


街の音が、後ろに流れる。


草の匂いが強くなる。


振動が、

腰に響いた。


「なあ」


ゼルドが言った。


「お前たちは何しに王都へ?」


質問は軽い。


俺は少しだけ考えた。


「……用がある」


濁した。


ミレイアが笑う。


「観光じゃないよ」


冗談の形にして、

間を埋めた。


ユイは何も言わない。


「ユラ」


ゼルドが後ろを振り返る。


「肩は大丈夫か?」


ユラは、

少しだけ不機嫌そうに言った。


「動く。

 さっきよりマシ」


ユイの方を見て、

小さく頭を下げる。


ユイは、

目だけで返した。


ゼルドが続ける。


「知ってるか?

 ここら辺には獣が出る」


ミレイアが身を乗り出した。


「出るの?」


「出る」


ゼルドは淡々と続ける。


「近づけないために、

 柑橘の匂いを馬車につける」


前の馬車から、

甘い匂いが風に混じる。


ミレイアが鼻を鳴らした。


「ほんとだ」


「ヴァルシア」


ゼルドがまた言う。


「寒いか?大丈夫か?」


ヴァルシアは、

震えたまま頷く。


「だい、じょうぶ……」


声は小さい。


レヴァルが前から笑う。


「怖がりなんだよ」


ヴァルシアは、

さらにレヴァルにくっつく。


俺は何も言わない。


道は、滑らかだった。


轍が続いている。


馬車は迷わない。


「飛ばすぞ」


レヴァルが言う。


「二日もありゃ着く」


言い切りじゃなく、

勢いの言葉だった。


俺は、

そのまま受け取った。


街が遠くなる。


草道の音だけが残る。


ミレイアが窓の外を見ながら、

ぽつりと言った。


「……早いね」


ユイは頷く。


「今のうちに進む」


柔らかい声だった。

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