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来栖さんちの家庭の事情。……plus麻生さんち。  作者: 根岸佳孝


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第14話 騎士くんと天ぷらの夜。

 すっかり遅くなったので、私は由奈ちゃんをお家まで送って行くことにした。


「今日は本当にありがとうね、由奈ちゃん」

「いえいえ、先輩のお役に立ててよかったです」

「いやいや、今日は由奈ちゃんのおかげで、ほんと、助かったよ。おじいちゃんとも無事に仲直りできたし。料理ってコツをつかめば案外簡単なんだってことも、わかったし。それに、こんな風に妹ちゃんと一緒に料理できる日が来るなんて思わなかった。今日は楽しかったよ。本当にありがとう」

「私もです。私もお姉ちゃんと一緒に料理をする日が来るだなんて、思ってもいませんでした。お姉ちゃんとお料理したり、おしゃべりしたり、ちょっぴりコイバナなんかもしちゃったりなんかして、本当に楽しかったです。私の方こそ、ありがとうございます」

「ともくんとのこと、応援してるよ?」

 ……ホントは、お互い両片想いだってのは知ってるんだけどね♡

「ありがとうございます。実をいうと私、セイちゃん先輩と出会ったとき、ちょっとヤバいなって思ってたんですよね……」

「どうして?」

「だって、先輩みたいに美人でかっこいいお姉さんが幼なじみだなんて、これって絶対恋のライバルになるフラグじゃないですかっ!」

「あははっ、そう思ってたんだ。でも、安心したでしょ? 私とともくん、お互い姉弟としか思ってないのは見てれば丸わかりだし。それに私、年下の由奈ちゃんに頼りまくってるような情けないお姉ちゃんで、全然カッコよくないし」

「……そんなことないです。先輩は初めて会った時からずっとカッコいい、私のあこがれのお姉ちゃんですよ」

「なんで? あんなにいろいろとカッコ悪いところ、見せちゃったのに?」

「だからですよ。年下の私にもカッコつけることなく、本当の自分のことをさらけ出してくれる。それって自分に自信がある、本当に強い人にしかできませんよ、そんなこと」

「そうなの、かなあ……?」

 なんだか聞いていて、恥ずかしくなってしまう。

「それに私、うれしかったんです。出会ったばかりの私に、そうやって弱いところまで全部さらけ出してくれるのって、私のことを本当に信頼してくれるってことじゃないですか」

「由奈ちゃん――」

 ――すっごく、うれしかった。

 由奈ちゃんが、私のことをそういう風に思ってくれていたこと。

 由奈ちゃんが私のことを、お姉ちゃんとしてずっと認めてくれていたこと。

 ホント私、由奈ちゃんみたいな素敵な妹と出会えて、よかったな。

「……由奈ちゃん?」

「はい?」

「ふつつかな姉だけど、これからもよろしくね?」

「はいっ! 聖華お姉ちゃんっ!」

(――うっ…………!)

「……どうしました? セイちゃん先輩……?」

「あ、うん……。君のそのきれいすぎる笑顔は、この私にはまだまだまぶしすぎるみたいだよ……。すごい破壊力……」

「…………?」


 ホント、いい子だよ、由奈ちゃんって……。


 由奈ちゃんを家まで送った後、家まで帰ってきたら、見慣れない自転車が玄関先に無造作に止められているのを発見した。

(――誰のだ? この自転車……?)

 不審に思いつつ、家の中に入ってみると、おじいちゃんと、もう一人若い男の人の笑い声がリビングから聞こえてきた。

 って言うか、まさかこのもう一人の声って、もしかしてっ……⁉

 まさかと思いつつ、急いでリビングの中に入っていくと――――


「――騎士くんっ⁉」


 なんと、騎士くんがリビングでおじいちゃんにお酌をしていた。

「よーっ、セイっ。ただいまのおかえりっ」

「なんで騎士くんがうちにいるのよ? 電車賃も無くって帰れないんじゃなかったの?」

「寮の先輩にチャリを貸してもらってそれで帰って来たんだよ。いやーっ、一時間くらいかかったけど、案外何とかなるもんだなーっ!」

「ああ、玄関の自転車はそういう……。ってか、今までロクに帰ってこなかったのに、どういう風の吹き回しなのよ……?」

「じいちゃんに寮でとれた山菜とたけのこの料理を作ってやろうって思ってさ。前にセイにやったたけのこは全部麻生家にやっちゃったって言うし。てか、ダメじゃないかセイ。せっかくレナ姉に料理してもらったんだから、自分一人で食べちゃわないでちゃんとじいちゃんの分ももらってこないと……。そのために麻生家の分も多めに渡したのによ。そういうところがセイって気が利かねぇんだよな……」

「それについては申し訳ないと思ってるわよ……って言うか、その言葉だけは騎士くんには言われたくはないわよっ! 私たちが料理ができないってわかってるのに、なんであんなに大量のたけのこを渡してくるのよっ!」

「えーっ? だってセイ、どうせレナ姉あたりに頼んで料理してもらうじゃん? そん時にうちの分も分けてもらえばいいと思ったからさ……」

「だったら最初っからそう言ってよ……。いくら相手が麗奈さんだからって言ったって、頼むときにはそれなりの礼儀ってものがあるんだからさ」

「だから礼も込めて麻生家の分も多めに渡したって言ったじゃんか。てか、双子なんだからそれくらい分かれよな? ホントにセイってカンの悪いやつだよな……」

「ねぇっ、おじいちゃんっ⁉ 今の聞いたっ⁉ 今のって悪いの私っ⁉ 今の私が悪いのっ⁉ ねぇっ!」

「いいじゃねぇかそんなことどうでも。せっかく騎士も帰ってきて兄妹そろったんだから仲良くしろって、なぁっ――⁉」

 だめだ。おじいちゃん、完全に出来上がっちゃってる。酔っぱらってすべてのことがどうでもよくなっちゃっている。てか、もう寝落ちしそう。

「まあまあ。セイも落ち着けよ。ほらお前もさ、座ってメシにしようぜっ! 俺、必死でチャリ漕いで来たから腹減っちまってよ……」

「……いや、さっき私たち、ご飯食べたばっかなんですけど。……て言うか、なんか天ぷらの量が明らかに増えてるし……」

 そこには、由奈ちゃんが帰るときに残っていたやつの三倍以上の天ぷらが小山のように積まれていた。て言うか、どうすんのこの量……。

「ああ、天ぷらの準備ができてたから使わせてもらったぜ? て言うかセイ。お前も天ぷら作れるようになったんだな……」

「そうよっ⁉ かわいい後輩ちゃん……いや、妹ちゃんに手取り足取り教えてもらってねっ!」

 以前に騎士くんにドヤ顔で自慢された仕返しに、今度は私の方が騎士くんにドヤ顔をしながら自慢げに言い放つ。

 すると、それを聞いた騎士くんがちょっぴり不機嫌になってこう言ってきた。

「――ふぅ~ん、そうなんだ……。お前、俺の知らないうちに、このお兄様に無断で妹なんて作ったんだ……。ふーん……」

「何よ? もしかして、私が勝手に妹ちゃんを作ってたから、いてるの?」

「別に妬いてなんかねぇよ。ただ、せっかくセイに天ぷらの作り方とか教えてやろうって思ってたのに、その必要なくなっちまったから残念だなーっとか、そんなこと、別に思ってないんだからなっ⁉」

「……なによ、そのわかりやすいツンデレは。あっ、そうだ。騎士くん、これからご飯食べるんでしょ? だったらいいもの作ってあげるわよ?」

「いいものって何だ?」

「まあまあ見てなさいって」

 そして私が騎士くんに作ってあげたのが、先ほどおじいちゃんに出した、由奈ちゃん流の細切り豚肉入りそば。

「おおーっ! 神龍苑のピーマン入りの肉そばじゃんっ! セイっ、お前なかなかやるじゃんかっ!」

「へっへーんっ! すごいでしょっ! さあ、食べて食べてっ!」

「おうっ! いっただきまーっすっ!」

 そして、騎士くんはおもむろにその肉そばをすすりこんだのだったが…………。


「――――まずい」


 肉そばを一口食べるなり、騎士くんが険しい顔になってこう言い放った。

「えっ……? マズかった? おじいちゃんはうまいうまいって言ってくれたんだけど……。やっぱり神龍苑のレシピとかじゃないとダメだった?」

「……料理が全くダメだったセイがちょっと教えてもらっただけでこんなうまいものを作っちまうなんて、これはまずいぞ……」

 ……なんか、よくわかりにくいけれど、とりあえずは褒めてくれているらしい。 

「何だ、よかった。まずいなんて言うからおいしくないのかと思ったよ。よかったよかった……」

「――ちっともよくねぇよっ!」

「おっ、おーっ…………?」

 なんか、騎士くんがキレてきた。

「せっかく俺の方が料理がセイより上って言うアドバンテージができたのに、これじゃあまた追いつかれちゃうじゃねぇかよっ!」

「えっ……何? その逆ギレ……。て言うか騎士くん、昔から思ってたけど、なんでそんなに私との勝ち負けにこだわるわけ? 別に勝とうが負けようがどうでもいいことなんじゃじゃないの?」

「どうでもよくねぇよっ。だって俺は兄貴なんだぜっ⁉ 妹に負けるだなんて、沽券こけんにかかわるじゃんかよっ!」

「……沽券って。そこまで言うんだったら騎士くん、私のことをもっと妹として大事にしてくれてもいいんじゃない?」

「それは無理っ(きっぱりっ)。だって、セイは俺のライバルだし」

「妹って言ったりライバルって言ったり、それって、あまりにも自分に都合よすぎない? 設定をどっちかにしなさいよ……」

「だってよぉ、セイって勉強も運動も俺よりできるし、正直いって俺のことなめてるじゃん? それにセイ、何でも一人でやっちゃうから俺のことちっとも頼ってくれないしさーっ。そんなやつを妹扱いで可愛がれってのは無理があるだろ……」

「……騎士くんって、そんなこと思ってたの?」

 正直意外。騎士くんって無神経だからそういうことは気にしないもんだとばっかり思ってたけど……。

 て言うか、別に私、騎士くんのことなめてるつもりはなかったんだけどな……。

「なんて言うかさ、ホント騎士くんって子どもだよね……」

「ほらっ、そうやってすぐマウント取ってくるじゃねぇか。そういうところが俺のことをなめてるって言ってるんだよっ!」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃないって。ほら、冷めないうちにラーメン食べちゃいな? 足りなかったらたけのこご飯もまだあるからね?」

「そうやって、俺のことすぐに子ども扱いするしさ……。これじゃあどっちが上か、わかんねーじゃねぇかよ。大体みんな、初対面のやつはセイの方が姉だって勘違いするしさ……ブツブツブツ……」

「しょうがないじゃないの、兄妹って言ったって双子なんだし。ほら、騎士くんが自分で作った天ぷらもまだまだあるよ? て言うか、どうすんのよこの量。私たち三人で食べきれる量じゃないんじゃないの……?」

「こうなったらヤケだっ! ここにあるもの全部食い尽くしてやるっ! ほら、セイっ! お前も付き合えっ! どっちがたくさん天ぷらを食べられるか、勝負しようぜっ!」

「えーっ? なんで騎士くんとフードファイトしなきゃいけないのよっ⁉」

「何だセイ。おじけづいたのか? それじゃあ、今日の勝負はお兄様の一方的な勝利でいいなっ?」

「(ぴくっ…………)何、ですって……?」

 別に、勝負に負けること自体には問題ない。

 だけど、勝負を挑まれたままの敵前逃亡で不戦敗は、私の流儀に反する。

「……わかったわよ。そこまで言うんだったらやってやろうじゃないの。吠え面かくんじゃないわよっ!」

「よっしゃぁっ! 行くぜセイっ! ちゃんと数を数えとけよなっ!」

 そして私たちは、大量に作ってしまった天ぷらを消化するために、不毛なフードバトルを繰り広げた。

 その横で、すっかりいい気持ちになってしまったおじいちゃんは、畳の上に寝っ転がって高いびきをあげていた。

 そして、三十分後…………。


「――うぇ―――――っ、気持ち悪…………」

 すっかり天ぷらの油にあてられて気持ち悪くなってしまった私たちバカ兄妹は、畳の上でぐったりとしたまま死にかけていた。

「……なあ、結局どっちが勝ったんだ?」

「知らない。てかもはやどっちでもいい…………」

「……そうだな…………」

「ねえ、何か飲みたくない? 口の中が油でもう、ギトギトなんだけど…………」

「それじゃあ、コーラを…………」

「……私も飲む…………」

「……なんだよ……。持ってきてくれるんじゃないのかよ…………」

「……無理。ちょっと動いたら口の中から色々出てきそう……。お兄様……。かわいい妹のために、早く、コーラを…………」

「仕方がねぇなあ。この勝負、俺の勝ちでいいな?」

「……うん、それでいい…………」

「わかった。行って来る…………」

「愛してるよ、お兄様…………」

「……心にもないことを…………」

 そして、騎士くんは冷蔵庫にコーラを取りに行った。


 そして、しばらくして。

 ようやく体の中の油も落ち着いてきた私たち二人は、キッチンのテーブルに座って、まったりと世間話をしていた。

 そんな中、騎士くんがこんなことを言ってきた。

「実はさ、俺が今日家に帰って来たのって、トモに怒られたことがきっかけだったんだよな」

「ともくんが?」

「ああ。アイツ、寮に乗り込んで俺に説教していきやがった。自分ばっかり寮で好き勝手楽しんで、じいちゃんのことをほったらかしてセイに任せっきりなのはけしからん、たまには家に帰ってじいちゃんの面倒を見てやれってな」

「そうなんだ、ともくんがそんなこと……」

「トモのヤツって、一番チビのくせに、先生みたいに真面目なんだよな」

「しっかり者なんだよともくん。そういうところ、ヒメ先生や志摩さんにそっくり」

「ほかにもさ、シマ姉やらヒナ姉やらレナ姉からもお叱りの連絡がジャンジャンかかってきててさ、ヒナ姉やシマ姉は二人のことを大事にしないんだったら道場に強制的に連行してして根性叩き直してやるっていうし、レナ姉にいたっては、俺の遊んでいるオンラインゲームにハッキングして、俺のキャラクターの名前を『ジジ不幸者の騎士』に書き換えてやるってとんでもない脅しをかけてくるし、このままじゃ自分の命が危ないと思ってあわてて飛んで帰って来たんだよ」

 そうなんだ……。ともくんだけじゃなくって、ヒナちゃんに志摩さんに麗奈さんまで私たちのこと、心配してくれたんだ。

 ありがとう、みんな……♡


「――まったく、なんでみんなセイの味方ばっかするんだろうな。正直、不公平だと思うんだけど……?」

「それは、普段の素行とか言動の差じゃないの? ちょっとは反省したらどう?」

「……ぼくちん、こんなにいい子なのに?」

 そう言って、うるんだ瞳をこちらに向けてきて、上目づかいで私のことを見つめてくる騎士くん。

「…………一生言ってなさい」

 ……なんだか、また胸焼けがしてきた。


 こうして、天ぷらの油まみれのギトギトした夜は過ぎていくのでありました。

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