2章:2節【二柱の聖獣】
アルフレッドは、アストたちへの叙勲を終えると、
場を見渡しながら静かに口を開いた。
「さて、アスト殿。
そなたは世界の危機に立ち向かう存在であり、王国としても協力を惜しまぬつもりだ。
だが、そなたをこの国に縛り付けることはできぬ。
ゆえに、王国としては“もう一柱の聖獣”を正式に迎えたいと考えている」
その言葉に、参列者たちがざわめく。
王はリュミナの腕の中にいる小さな影へ視線を向けた。
「ノヴィア――いや、ノヴィアーナ・セレイア殿。
そなたを、ゼフィレイア王国の正式な聖獣として迎えたい」
ようやく諸侯たちも、リュミナが抱えている存在に気づく。
「聖獣……あんな小さな……?」
「アスト殿の姿を考えれば、大きさは問題ではないだろうが……」
アルフレッドは続ける。
「アスト殿が魔神王を討伐する際、神王ヴィクトリアスの“善なる心”を持って生み出された聖獣――
それがノヴィアーナ・セレイア殿である」
アストは内心で、微かに苦笑した。
(……自分で提案したことですが、“神王の善心から生まれた”とは……ものは言いようですね)
ノヴィアはきょとんと目を瞬かせた。
「私、聖獣?」
アストは優しく答える。
「そういう形にした方が、リリシア様と一緒に居やすくなるのです。
ですが、もちろんあなたは好きに生きて良い。
嫌であれば聖獣を辞めても構いませんよ」
「アスト、すぐ辞めてもいいって言う……」
リンネが微笑みながら囁く。
「アスト様。自由を認めるばかりでなく、時には道を示して差し上げることも大切ですよ?」
「……そうですね。ではノヴィア、しばらく聖獣をやってみてくれませんか?」
ノヴィアは首を傾げる。
「聖獣、何をしたら良い? 分からない」
「いつも通り、リリシア様と仲良くしていれば十分ですよ」
「分かった」
そう言うと、突然リュミナの腕からふわりと抜け出し、リリシアの胸元へ飛び込んだ。
「わっ……ノヴィア?」
リリシアが驚きながらも受け止めると、ノヴィアはすぐに気持ち良さそうに目を細める。
その愛らしい光景に、諸侯たちの表情から緊張が抜けていった。
「……可愛らしい」
「あの者が聖獣殿と同等の力を……?」
「あの光景、肖像画にしたいものだ……」
ノヴィアの存在に対して危険視よりも、肯定的な声が多いことに安堵するアスト。
だが同時に、別の囁きも耳に入った。
「しかし……言葉を話す獣というだけで聖獣なのか?」
「そもそもアスト・ロカスなる存在も、本当に王国の力になるのか……?」
諸侯の中には懐疑的に捉える者もいる。
アストはそれを見越して、ある計画を提案していた。
「アルフレッド王。ひとつ、よろしいでしょうか?」
アルフレッドはニヤリと笑みを浮かべる。
「なんであろうか、アスト殿」
「このような式典を開いていただき、感謝いたします。
つきましては、私からも“贈り物”をさせていただきたく思います」
「ほう……聖獣殿から贈り物を賜れるとは。
これは王国の歴史に語り継がれる出来事となるであろう」
アストが合図を送ると、玉座の間の扉が再び開いた。
二メートルほどの物体が、布を被せられたまま運び込まれてくる。
「献上のご許可をお願いします」
「よろしい。こちらへ運ぶがよい」
赤い絨毯の上を車輪付きの台座が静かに進む。
周りの人々は興味津々に囁き合う。
「銅像か?」
「聖獣殿の贈り物だぞ、ただの像ではあるまい」
「ふん、像であるならあの程度の大きさ、たかが知れている……」
台座がリンネとリュミナの後ろまで来たところで、布が取り払われた。
現れたのは――
巨大な金属塊と、炭、そして金属片。
「なんだあれは!?」
「これが王への贈り物だと!?」
「不敬にもほどがある!」
ざわめきが広がる中、王が低く声を発した。
「静まれ。ここは式典の場である」
そしてアストへ向き直る。
「アスト殿。私としても、これが贈り物というのは……いささか理解に苦しむが?」
アストは落ち着いた声で答えた。
「はい。このままでは贈り物とは言えません。
しかし、あらかじめ完成品を用意しては“私自身の贈り物”とは言えません。
つきましては、この場で仕上げさせていただきたく思います」
「……面白い。見せてもらおう」
アストは炭へ手を当て、アークテクトを実行した。
その瞬間、炭は眩い光を放ち――
巨大なダイヤモンドへと変わる。
「炭素は、高い圧力を加えることで――ダイヤモンドになります」
炭の塊だったものが、光を受けて無数の煌きを返す。
玉座の間から、息を呑む音がいくつも重なった。
続いて金属片と金属塊に手を当てると、二つの金属が光に包まれた。
やがて光が消えると、そこに現れたのは一塊の銀色の金属だった。
「鉄にクロムとニッケルを混ぜることで、ステンレスという合金になります。
高強度で錆びにくい、極めて優れた金属です」
アストはその金属を削り、叩き、熱し、冷やし――
徐々に“形”を与えていく。
白銀の体。
青く焼き入れされた尾。
胸元には波紋のような模様。
両目にはめ込んだダイヤモンドに魔素を通し、赤みを帯びさせる。
そして台座を回し、王の方へ向けた。
「私?」
その場に生み出されたのは――
木の上にちょこんと座り、わずかに首を傾げるノヴィアの姿を模した像だった。
「完成です。どうかお納めください」
アルフレッドは立ち上がり、声を上げた。
「すばらしい! これは王宮の象徴として飾らねばならんな!」
王の感嘆の声に隠れるように、諸侯たちも一斉に囁き始める。
「あのような精巧な像を瞬く間に……」
「ダイヤが石炭から生まれるなど聞いたこともないぞ?」
「それにあの銀にも劣らぬ輝きを放つ金属はなんだ!?」
「それよりもあの力だ、金属を素手で切っていたぞ……!」
ざわめきが最高潮に達したところで、宰相ジェラルドが静粛を促す。
アルフレッドは満足げに頷き、締めの言葉を述べた。
「この見事な贈り物は、然るべき場所に保管しよう。式典はこれにて、一旦閉じる。
しばし休憩を挟んだ後、アスト殿たちを労う会食を行う。皆、ゆるりと交流を楽しむがよい」
王が退出すると、諸侯たちは侍従の案内に従い、玉座の間を後にした。
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