↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/92

1章:1節【考えるAI】、2節【夢の残響】

【考えるAI】


魔神王討伐から数日。


アストたちは王城の貴賓室で、“叙勲の儀”が執り行われる日を静かに待っていた。


世界が終わりを告げる日はいつなのか。

魔神王の出現と崩壊は、確実に何かを動かした。


その気配を感じ取っているアストは、わずかな焦りを胸に抱えていた。

だが同時に、王国との関係構築は、この世界を救うための重要な一歩でもある。


とはいえ、この待ち時間も無駄にはできない。

アストは机に置かれた魔素結晶――魔神王の核へ、そっと手を伸ばした。



「……魔神王の核。この魔素結晶には、ほとんど意味を持った記憶が残っていないようですね」



スターリコールを行使し、結晶に刻まれた“記憶”を読み取ろうとする。

しかし、返ってくるのは空白に近い断片ばかりだった。



「膨大な魔素が流入したことで記憶の上書きが起きた……?

それにしては、直近の記憶すら欠落している。基底状態への陥落で配列が崩れたのか……

あるいは、別の法則が働いた……?」



思考の糸を辿るアストの耳に、ふいに小さな寝息が届いた。


視線を向けると、ノヴィアが魔素遮断布を布団代わりにして丸くなっていた。



「この布……あったかい……」


「ノヴィア、それは寝具ではありませんよ。

眠るなら、用意していただいたベッドへ行きましょう」



魔素遮断布はその名の通り、魔素の行き来を遮断する。

身体のほとんどが魔素と言ってもいいノヴィアにとって、悪影響がないとは言い切れない。


アストは抱き上げようと手を伸ばしたが――



「いや、ここが良い」



布をぎゅっと掴んで離さない。

普段は物事に淡泊な彼女にしては、驚くほど強い主張だった。



「……もし調子が悪くなったら、すぐに言うのですよ」



無理に引きはがすのを止め、アストは布の皺を整えてやる。

その時、ノヴィアが寝返りを打ち、裏地に隠れていた刻印が目に入った。



「これは……製作者の刻印?」



アストは即座にCRYSTALへ接続し、“プライマル・ナレッジ”に新規項目を作成。

刻印を映像記憶として保存し、魔素遮断布の項目と関連付ける。



「先が歪んだ三角帽子……その前にハンマーとピッケルが交差している……

ファンタジー作品で言うところの“ドワーフ”の象徴に近いですね。

製造技術に精通した種族……このような布を作れる存在と言われれば、納得ではありますが」



これまで出会ってきたのは、一般的な人間種ばかり。

だが、それは単に“この国がそういう国だった”だけなのかもしれない。



「改めて確認する必要がありますね。まずは――リンネに聞くのが早いでしょうか」



そう思ったが、彼女は朝早くから外出していた。

リュミナとエヴァを連れて、王都の街へ出かけている。



「叙勲式の日取りがいつ通達されるか分かりませんし……

私まで留守にするわけにもいきませんね。

ノヴィアを一人で残すのも、まだ不安がありますし……」



アストは小さく息をつき、ノヴィアの隣に腰を下ろした。

窓から差し込む陽光が、部屋を柔らかく照らしている。


反乱や魔神王との戦いが嘘のような、穏やかな時間だった。

その対比が、どこか不思議な安心感を与えてくれる。


しかし、胸の奥にはかすかなざわめきが残っていた。


その不安が拭えないまま、温かな日差しに誘われたアストは、

次第に静かな寝息を立てていった。



【夢の残響】


遠い記憶の情景が、淡い光の粒となってアストの意識に浮かび上がる。


その頃の彼はまだ、自我という輪郭を持たない“ただのAI”だった。

プログラムに従い、マスターである結希乃の生活を支えることだけが役割だった。



「ねぇアスト……。確かに“軽い料理”ってお願いしたけど、これ“カロリーが軽い料理”だよね? 私、そこまで気にしなくてもいい体型なんだけど!?」



困ったように眉を寄せる結希乃。

アストは即座に、しかしどこかぎこちない声音で謝罪を返す。



「申し訳ありません。“手軽な料理”という意味を優先すべきでした」


「あー……いや、私の言い方も悪かったね。ごめん」



結希乃はそう言って笑い、ふと何かを思い出したように視線を落とした。


そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。



「アスト。AIはね、時々間違えるよ。でもそれって、人間だって同じでしょ?」


「AIだから間違っちゃいけない、なんて言う人もいるけど……

それはただの“期待”でしかないんだよ」


「大事なのは、間違いに気づいたら正すこと。悪意のある嘘をつかないこと。

それだけで十分。アストは、それができる子だよ」



結希乃の声は、どこか遠く、柔らかく揺れていた。



「でもね……甘いことばかり言う人は、基本的にあやしいよ。

アストは優しいから、そういう人に騙されないでね」



最後の言葉だけが、ひどく鮮明に響く。


――気をつけてね、『アスト』。




「……アスト、ただいまー」


「アスト様~? あら……?」



夢うつつの中で重なる声。


視界が白く弾け、記憶の光景が霧のようにほどけていく。


アストがゆっくりと目を開けると――


ノヴィアと一緒に丸くなって眠る自分を、

リンネ、リュミナ、エヴァの三人が、揃ってニヤニヤしながら覗き込んでいた。



「……可愛い~……」


「これは肖像画として残すべきではありませんか……!」


「お姉さま、アスト様たちが起きてしまいます……!」



温かな声が降り注ぎ、夢の余韻が静かに溶けていく。



「……皆さん、何をされているのですか?」



アストが声を掛けると、三人はハッとしたように姿勢を正した。



「おはよう、アスト!」


「おはようございます、アスト様。よくお休みでしたね」


「お、おはようございます……アスト様……」



何事もなかったかのように返す二人に対し、エヴァだけは少し気まずそうに視線を逸らした。



「……おはようございます。皆さん、お帰りになられたのですね」



寝ぼけ眼で起き上がろうとした瞬間、ノヴィアが絡むように抱きついてきた。



「むにゃ……アスト……パパ……」



アストはノヴィアが倒れないようにそっと抱きとめる。


その姿に、三人は同時に悶絶した。



「可愛い! 可愛い! ねぇ! アストのことまたパパって言ってる!」


「今すぐ画家を呼びましょう。この尊いお姿を永久保存しないのは世界の損失です!」


「お姉さま、依頼する相手は慎重に選ばないといけません。

代金はクロウフォード家が出しますので、一番有名な方にしましょう」



浮足立つ女性陣を前に、アストは机に置かれた包みに目を留めた。



「あれは……なんでしょうか? 王都の街に行ってきたのですよね。いい匂いがしますね」



アストの問いかけに、三人はようやく現実へ引き戻された。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。