15章:星々の共鳴⑥
【6節.事後処理】
「コーティン様の了承を得られたところで……申し訳ありませんが、残りの話を進めさせていただきたいと思います」
アストの言葉に、アルフレッドは静かに頷き、コーティンへ視線を向けた。
「コーティン・ラグナルド。身支度を整え、アスト殿に同道する準備をせよ。レオニス大団長、後は頼んだ」
「はっ!」
レオニスが敬礼し、扉へと向かう。
コーティンも国王とアストたちに深く頭を下げ、静かにその後を追って退室した。
扉が閉まると、会議室には再び静寂が落ちた。
だが先ほどまでの張り詰めた空気とは違い、どこか柔らかさが戻っていた。
「さて、アスト殿。話の続きとは……?」
アルフレッドが促す。
「はい。考えたのですが……やはり、いくらかの金銭的補助と、土地の権利をお借りできればと思っています」
その申し出に、アルフレッドは嬉しげに目を細めた。
「おお、受け取っていただけるか! では、報奨金の額は後ほど決めるとして……どの領地が良いですかな?
やはりウィンター・ホルンか、あるいは豊かなオータム・ヴァルトも……」
「――アスフェル荒原」
アストの短い言葉に、アルフレッドは思わず間の抜けた声を漏らした。
「……は?」
「アスフェル荒原。聖獣軍が駐屯していた、あの地の開拓権を頂ければと考えています」
「しかし、あの土地は……」
アルフレッドは眉をひそめる。
「ご覧の通り、草木も生えぬ不毛の地。街道の整備もされておりませんが……」
気の進まぬ様子の王に、アストは静かに頷いた。
「承知しています。ですが、あの土地には気になる点がありまして――研究対象として調査したいのです。
開拓の権利さえいただければ、施設の建設などは私が行います。王国にご負担はかけません」
アストは一呼吸置き、続けた。
「それと……もし許可をいただけるのなら、いずれ“町”を作りたいと考えています。
もちろん、彼らの同意が得られるのであれば、ですが」
その言葉に、アルフレッドは何かを察したように目を細めた。
「……此度の乱に参加した者たちを、ですか?」
アストは頷き、計画の輪郭を語る。
「彼らは家や故郷を失った方々です。生まれた地に戻りたい人もいるでしょうが……中には、辛い記憶の残る土地に帰りたくない方もいるはずです」
アルフレッドは深く頷き、さらに問う。
「では、金銭的補助というのは彼らのために?」
「はい。町を作るとなれば、受け入れのための住居、衣服、食料が必要です。
町経営の知識を持つ役員や建設の技術者も必要でしょう。物資や雇用のための資金が必要になります」
アストの声は静かだったが、その奥には確かな決意があった。
それは、ただの再建ではなく――“再生”の始まりを告げる提案だった。
アルフレッドは深く感銘を受けたように頷く。
だが、その静けさを破るように、黙ってお茶を啜っていたリンネがくすくすと笑った。
「アスト様ったら、またまたご冗談を。都市建設くらい、お一人でもできるでしょうに。
民に仕事を与えるためとはいえ、謙遜しすぎですよ?」
その声色はからかい半分、誇らしさ半分。
「でも確かに、民草の家をアスト様自らが建てるなんて勿体ない話です。
自分たちで作ってもらうのは当然ですが、そのための費用をご負担なさるとは……なんというご慈悲でしょう。
これはもう、町にはアスト様の功績に相応しい名を付けるべきですね!」
マティアスも頷きながら相槌を打つ。
「リンネ殿の言う通りですね。確かに聖獣アスト殿が築く町とあれば、相応の格が必要でしょう」
「ま、待ってください。まだ何も始まっていない段階で名前を決めるというのも……」
アストが慌てて制止するが、エルバートが愉快そうに笑いながら口を挟む。
「まぁ良いではありませんか。ただ、そういう話であれば、この場だけで決めてしまうのは早計でしょうな。後々、不満を持つ者も出ましょう」
「うむ、確かに」
アルフレッドも頷き、表情を引き締める。
「褒賞の詳細は後ほど改めて決めるとして……此度の乱における関係者の処遇、アスト殿への受勲、そして表向きの事実公表。
これらは早急に進めねばならん。アスト殿、相談に乗っていただけると助かる」
そして、ふっと息を吐き、穏やかな笑みを浮かべた。
「……しかし、私も少々疲れた。この場は一度、解散とさせていただけるだろうか?」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
長きにわたる対話の余韻が、会議室に柔らかく満ちていた。
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