15章:星々の共鳴①
【1節.新しい光】
魔神王の崩壊から間もなく、王都一帯は静けさを取り戻し始めていた。
その余韻の中で、背中から小さな気配がもぞりと動き、アストはようやくその存在を思い出す。
「すみません、紹介が遅れてしまいましたね。この子は……」
背からそっと降ろして抱きかかえると、白い獣は不安げにぽつりと呟いた。
「……私、魔獣……?」
その一言に、その場の何人かがわずかに身を引き、警戒の色を浮かべる。
だが、リュミナとリンネだけは、むしろ興味深そうに目を輝かせていた。
「魔獣? でも、なんか違う感じがするよね……?」
リュミナの言葉に、リンネも真剣に頷く。
「そうですね。どちらかと言えば……アスト様に近いような……はっ!? まさか、隠し子!?」
「違います」
アストは即座に否定した。
「詳しく話すと長くなりますが……この子は、巨大魔獣の中で生まれた新たな命です。
この子のおかげで、無事に魔素結晶を取り出すことができました」
「へぇー! 可愛いね!」
リュミナが嬉しそうに覗き込むと、白い獣はまた小さく声を漏らした。
「私……隠し子? アスト、パパ?」
その言葉に、リンネが目を見開く。
「やはり……! いえ、ですがこれは関係性を築くチャンスなのでは!?
あなた……私のことを“母”と呼んでもいいのですよ?」
両腕を広げて、白い獣に向かって手を差し出すリンネ。
アストは肩をすくめたが、白い獣はリンネをじっと見つめ――
次の瞬間、アストの腕からするりと抜け出し、飛膜を広げてふわりと跳び上がった。
「さあ、わたしの胸に飛び込んできなさい!」
だが、その軌道はリンネの脇をすり抜け――
白い獣が向かった先は、いつの間にか近づいていた第二王女リリシアの胸元だった。
「……ママ?」
その言葉に、一同は呆気に取られ、一瞬空気が固まった。
「大丈夫ですか!?」
「危険ではないのか!?」
周囲が騒ぎ立てる中、リリシアは驚きながらも静かに白い獣を撫でていた。
そして、アストへと視線を向ける。
「この子、名前は?」
その問いに、アストはハッとする。
「そういえば……まだ決めていませんでしたね。あなたは、何と呼ばれたいですか?」
リリシアに撫でられながら、白い獣はアストの方を振り返り、首をかしげた。
「……魔獣?」
「いえ、それは種族名のようなものです。それに今のあなたは、もう魔獣ではありません」
「分からない……アスト、決めて?」
「……やはりそうなりますか」
アストは苦笑しつつ、しばし考え込む。
そして、リリシアに抱かれている姿を見つめながら、静かに口を開いた。
「ノヴィアーナ・セレイア……というのはどうでしょうか?」
「ノヴィアーナ・セレイア?」
リリシアが復唱すると、アストは頷く。
「私の世界の言葉で、“新たに生まれた者”、“記憶を響かせる声”という意味です」
「……長い」
白い獣――ノヴィアーナが、不満そうに眉を寄せる。
当人からの不服申し立てに、アストは再び名前を考え始めるが――
リリシアが優しく撫でながら問いかけた。
「ノヴィア……ノヴィアって呼んでいい?」
ノヴィアーナはしばしリリシアを見つめ――
「……ノヴィア……それなら、良い」
そう呟くと、目を細めて再びリリシアの胸元に身を預けた。
その穏やかな光景に、一同はしばらくの間、ただ静かに見入っていた。
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