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アスト・プロトコル ―心を得たAIの異世界再生記録―  作者: 手封錦
第一部:ゼフィレイア王国編
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14章:聖と魔の境⑦ ◆章完

【7.二匹の帰還】


アストが魔神王の内部へと飛び込んでから、数十分が経過した頃だった。


戦場に、はっきりとした異変が現れ始める。



「様子が変だよ!」



リュミナが指をさし、声を上げる。


魔神王の巨体を覆っていた紫黒の魔素が、頭部からじわりと白光へと転じていた。

神王ヴィクトリアスの顔を模した造形は輪郭を保てず、砂が崩れるように形を失っていく。


王城のテラスに集う面々は、息を呑んでその変化を見守った。


そして――


魔神王の頭部から、一筋の光が空へと飛び出した。


それは、大きな包みを抱えたアストの姿だった。


その背には、白く輝く“何か”がしっかりとしがみついている。



「しっかり捕まっていてくださいね」



アストは振り返り、背の存在に優しく声をかける。


視線をさらに後方へ向けると、自らが飛び出してきた魔神王の外殻が、ほとんど白光に飲まれつつあるのが見えた。


紫黒の魔素はすでに失われ、形状は崩れ、輪郭が溶け落ちていく。



「安定を失った魔素が崩壊していますね……。爆発の危険性があります。

念のため、魔素膜で覆っておきましょう」



アストが手をかざすと、黄金色の魔素膜が展開し、魔神王の外殻を円筒状に包み込んだ。


次の瞬間――


内部の光が一気に膨れ上がり、轟音が空を裂いた。


魔神王の体内に蓄積されていた魔素が、上空と地表の両方向へ向けて奔流のように放出される。

黄金の膜が衝撃を受け止め、外へと逃がす光が尾を引いた。


やがて余波が静まり、アストは魔素膜を解除する。


中心部は大きく穿たれ、一部は焼き固められたように魔素膜に沿って滑らかな壁面を成していた。

その上から崩れ落ちた土砂が山のように積もっている。


空中にはなお高濃度の魔素が星屑のように輝きながら漂っていた。



「間一髪でしたね……。しかし、上部を開けておいて正解でした。

あれほどのエネルギーがすべて地表に向けられていたら、あの程度のクレーターでは済まなかったでしょう」



アストが静かに呟いたその背後から、小さな声が囁く。



「……アスト?」



「すみません、少し集中していました。――今向かっている先で、私を待っている方々がいます、そこで、あなたのことを紹介したいと思います」


「……私、大丈夫?」


「大丈夫です。皆、いい方ですよ。ですが、そうですね……一つだけアドバイスを」


「なに?」


「あなたの思うように、自己紹介をしてみてください。きっと受け入れてくれます」


「……うん、分かった」


「よろしい。では、少し急ぎましょう」



アストは速度を上げ、王都へと飛翔した。




――王城のテラスでは、魔神王の崩壊を見届けた面々が、空を見上げながらアストの帰還を待っていた。



「アストー! こっちー!」



リュミナが満面の笑みで手を振る。


やがて、空から一筋の光が舞い降りる。


アストは包みを抱えたまま、テラスの縁に静かに着地した。



「おかえり! アスト!」



リュミナが真っ先に駆け寄る。



「ただいま戻りました」



アストが穏やかに応じ、抱えていた包みをそっと地面へ置いた。


リンネが歩み寄り、包みを覗き込む。



「アスト様、それは……?」


「魔神王――巨大魔獣の中にあった魔素結晶です」



その言葉に、周囲の面々が一斉に息を呑む。



「それは……危険はないのですかな?」



アルフレッドが慎重に問う。



「問題ありません。エネルギーはすでに放出しきっており、現在は基底状態です。

この結晶を用いて再び魔獣を生み出すには、莫大なエネルギーが必要になります」



皆はその言葉に安堵の息をつく。


一方、リンネは包みを覗き込みながら眉を寄せる。



「この中に結晶が……? 何も感じられませんが……

いえ、この布はもしかして……魔素を通さない素材ですか?」



アストは感心したように頷く。



「気づきましたか。はい、この布は魔素を遮断する性質を持っています」


「なるほど……これでアスト様の探知を欺いていたのですね。なんという卑劣……!」



リンネは憤慨しつつ立ち上がる。


アストは苦笑しながら補足した。



「魔素の放射反応は電磁波に近い性質を持ちます。理論上、遮断は可能です。

私がこの世界の技術力を甘く見ていた……それだけのことです」



そう語りながらふと気づく。


リュミナがぽかんとした表情で、アストの背後を見つめている。



「アスト? 何か、後ろに……」



その視線に誘われるように、“それ”はアストの背からひょこりと顔を覗かせた。



「……はじめ、まして……?」



くりくりとした大きな瞳は、スタールビーのように深紅の光を宿し、星の軌跡が揺らめいている。


身体は純白の毛皮に包まれ、胸元にはグレーの毛で描かれた、波紋のような柔らかな模様。


尻尾の先には、アストの毛並みを思わせる淡い青がそっと残っていた。


その姿はまるで――


小さな森の妖精、エゾモモンガのようだった。

お読みいただきありがとうございます。

これにて第14章は終了となります。

次章も引き続きよろしくお願いいたします。

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